第3話

それからの俺は、生かさず殺さず地獄のような扱いを受けながら、国中を引き回された。

「彼が勇者の名を騙った偽物です。神は偽物をお許しになられず、真の勇者として異世界から勇者光司様を召喚なさり、見事魔王を倒してくださった。我々は彼を称え、勇者の名を騙った偽物を処罰せねばなりません」

あちこちの教会では、民衆の前に裸に向かれた状態で俺を引き出され、俺を引き合いに出して勇者光司をほめたたえる。

民衆はそれを素直に信じ、俺に意思をぶつけ、唾を吐きかけてきた。

「死ね!偽勇者め」

「俺たちを騙しやがって」

さんざん俺をさらし者にした後は、神官たちは民衆に呼びかける。

「魔王を倒し、世界を救ってくださった勇者様に感謝の意を示しましょう。皆様のご浄財を!」

こうして、莫大な寄付を集めるのだった。

次に魔法学園につれていかれ、生徒の前に引き出される。

「皆様は彼のような偽物に騙されてはいけません。嘘をついたら、必ず彼にように報いがくるのです」

偉そうな顔をした教師が俺を引き合いにだして説教すると、生徒たちが俺をあざ笑う。

「ははは、いいざまだな。この嘘つきめ!」

「なんであんたみたいな農民が、この権威ある魔法学園に入学できるなんておかしいと思っていたのよ」

以前生徒として俺がこの学園に通っていた時は、さんざん勇者候補として俺を持ち上げていた生徒たちは、手のひらを返して俺を責め立てた。

商会都市オサカに連れていかれたときは、ヨドヤ商会に監禁されて、一日中光の魔石づくりに従事させられる。

「あんさんに使い込まれた金、きっちり支払ってもらいまっせ」

ニヤニヤと笑うヨドヤに、俺は魔力をしほりとられて死の寸前までおいつめられるのだった。

「も、もう休ませてくれ」

そう訴えるも、ヨドヤは相手にしない」

「まだまだ働いてもらわないといけませんな。くくく、あんさんの光の魔石は街灯としてよくうれるんや。ほら、もっと気合をいれんかい!」

俺の作った光の魔石で大儲けしながら、ヨドヤはさらに俺を酷使するのだった。

「おい。あんまり使いつぶすんじゃねえよ。こいつにはまだ死んでもらっちゃこまるんだ」

「しかたありまへんなぁ」

しぶしぶといった様子で、次には冒険者ギルドに引き渡される。

「お前には照明係として役にたってもらうぞ」

冒険者ギルドのマスターは、そういって俺を冒険者のチームに入れる。

「おら、さっさと行け!」

俺は冒険者たちに殴りつけられながら、照明係として深く暗いダンジョンに連れていかれるのだった。

「おっ?お宝発見だぜ」

「ははは。今まで深すぎて松明やランプが保てなくて、探索できなかったところも、こいつがいればよくわかるな」

冒険者たちは、俺の「照明」の力で今まで未探索だったダンジョンに潜り、大儲けをするのだった。

「ほら、飯だぜ」

冒険者たちは豪華な食事をとりがら、俺にダンジョンでとれたネズミやトカゲ、ゴキブリを投げ渡してくる。

「こ、こんなものを食えと……」

「ああん?文句があるのか!てめえみたいな役立たずを使ってやってんだ。感謝しろ」

冒険者たちは俺を殴りつけながら、大笑いする。結局一週間で俺は腹を壊してしまった。

「ちっ。使えねえな」

腹を下して糞尿まみれになった俺を、冒険者ギルドは次の主人に引き渡す。

「こんな奴を引き渡されても、迷惑なんだが」

「仕方ねえだろ。あんたは仮にもこいつの義父だったんだろ。責任とってくれ」

「…仕方ない」

元義父だったコルタール公爵は、しぶしぶ俺を受け取り、領地につれていく。

「とはいえ、こいつはもうボロボロで使えないな。こいつの地元であるモース村に引き取らせるか」

こうして、俺は奴隷として故郷に戻されるのだった。


俺はモーリス。コルタール領のモース村の村長の息子だ。

先日、公爵様からの使いがきて、奴隷を一匹村に引き渡すとのことだった。

「奴隷ですか?なぜこの村に」

「なぜなら、その奴隷とはこの村出身のライトだからだ」

領主の使いは当然のような顔をして言い放つが、おやじである村長は渋い顔をした。

「正直、迷惑ですな。ライトが勇者の末裔だと言われたときは、村を挙げて彼を送り出したものです。しかし、彼は偽勇者だった。我々は大いに失望したものです」

おやじはがっかりした様子で愚痴をこぼす。

「そのうえ、彼の家族まで偽勇者の血筋として処刑された。わが村の評判は地に落ちました。もう彼にはかかわりたくない。トラブルの元です」

そういって断ろうとする親父に、俺は待ったをかけた。

「待てよ。このまま奴を放置することのほうが、村民の不満は抑えられないんじゃないか?」

「しかし……」

「むしろ、奴を奴隷としてこき使ってやるべきだ。そうしてこそ、失望された村人たちの心も休まるだろう。俺に任せてくれ」

俺の言葉をきいたおやじは、しぶしぶ頷いた。

「仕方ない。そこまで言うなら、彼を受け入れよう」

それを聞いて、俺は心の中で大喜びしていた。

(ちょうどいい。昔からライトは気に入らなかったんだ。貧乏農民の子供のくせに、勇者候補として領主様ら引き取られて、マリア様みたいな美人を婚約者にして)

俺の中で、ずっとくすぶっていたライトへの嫉妬心が燃え上がる・

(奴が来たら、思い切りいたぶってやろう)

俺はライトが来るのを楽しみに待つのだった。

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