26. 劇的ビフォーアフターを体験したい方は数百万をもって全身大工事してこい
【 音声不要:UNKOオープンチャット JPサーバ・Lルーム 】
■ JPサーバ・ルーム説明:
このオープンチャットはVRMMOのくせに対面でしゃべるのが苦手な陰キャof theクソ陰キャのために作られた匿名オープンチャットだよ! マナーを守って楽しく使ってね!
※ 荒らし行為は法的手段にて対応します。
■ Lルーム・ローカルルール:
僻地へようこそ。上層ルームにはない過疎っぷりを堪能してほしい。
〇23:15:16 【陰キャさん】
ローグダンジョンクリア者って出てんの?
〇23:15:52 【月火水木金正日】
現時点で報告なし
イベント大爆死おめでとうございます~~~~
〇23:15:59 【陰キャさん】
俺クリアしました^^
〇23:16:22 【陰キャさん】
結局廃人のいってた10階の罠ってなんなんだ?
〇23:16:54 【織田noob長】
10階のボスはローグダンジョンに入る前のレベルと装備をしたプレイヤーのコピー
10階対策で低LVキャラ連れてっても単体だと10階に入れない
〇23:17:25 【陰キャさん】
クリアできるわけがないwwwクソゲwww
〇23:17:28 【陰キャさん】
俺クリアしました^^
〇23:17:41 【人の子など孕みToNight】
今年もおまえらと一緒に年越しだね(はぁと)
〇23:18:11 【陰キャさん】
9階ボスとの戦闘を配信してるプレイヤーいる
https://www(外部リンクです)
〇23:19:15 【陰キャさん】
9階ボスって俺の時と違うんだが?
〇23:19:22 【陰キャさん】
無名の宣伝お疲れ様です
〇23:19:48 【君だけの♡翔】
ユリーッ!!!! 結婚してくれーッ!!!!
〇23:20:02 【織田noob長】
配信者のPTろくでもなさすぎて草
このクソ廃人ヒーラーまだやってんのか
〇23:20:13 【陰キャさん】
なんで配信者LV21魔なのにHPが4桁あるんだ? チート?
〇23:20:27 【陰キャさん】
俺クリアしました^^
〇23:20:55 【陰キャさん】
同接増えてきてんね
〇23:21:16 【人の子など孕みToNight】
みんなあきらめて観戦してるんだよ(はぁと)
〇23:22:55 【陰キャさん】
みんな来年もよろしく~~~~
*
どんな反射神経してんのかマジで理解できない。どんだけ剣を打ち込んでも、簡単に受け流されてる。
ただの小さなマイクで。
「プレイヤー名は、
何度目かもわからない受け流しの中、目の前のフリルをつけたクソ黒髪がムカつく顔で私の名前を呼んだ。
「キャラ作成日は、今日。へぇ~」
全く当たらない。上からだろうが横からだろうが、どっから打ち込んでも「まるで最初から分かってるんじゃないのか」っていうようなくらい、ただのマイクで叩き流される。
マジでクソすぎんだろ。いくら片手だっていっても、私がぶん回してるのは普通に鉄の塊だぞ。それがただのマイクで流されるなんてマジで意味がわからない。VRだからってなんでもありすぎる。
「サブ垢でもない、マジで作ったばっかの新アカウントで来るなんてさぁ」
踊るように剣をはじいたクソ黒髪が、バカにしたような笑いを浮かべた。
「そんなに賞金欲しかった?」
こいつはここで殺す。
私は、再度右手に攻撃用スキルの光を込めた。
『賞金は~』
だがまただ。すぐにその光が消えた。
あのアサシンが言ってたスキルキャンセル、何度スキルを使っても発動する前に全部なかったことにされる。多分このクソ黒髪が目の前で歌ってるせいだ『整形外科行き~』行かねえから。『大工事! 百万単位!』お前の工事費用見積もってんじゃねえぞクソブス!
まただ。
私の剣が、マイク一つで受け流される。
イッラッつっく~!!!!
いっちいちムカつく
信じられない。どんな肺活してんのかマジで理解できない。これがどんな運動量なのか、たぶんこの場でわかるのは私とハルだけだ。こんなもの現実でやれば、速攻で息が上がって一歩も動けなくなるくらいやってきた人間なら誰だってわかる。
それなのにこのAIは、そんなリミットなんて存在しないみたいにやってのけてる。
ありえない。ありえていいわけがない。こんなVR空間でしか許されないような動き、こいつを作ったデザイナーが「歌って踊るのなんて大したことないでしょ」って言ってるようにしか思えない。
「へぇ~?」
クソ黒髪が、少しだけ面白いものを見たような声を上げた。
「お前も地下アイドルやってんだ?」
顔面が、強烈に熱を放つのを感じた。
「賞金は、はぁん?」
クソブスの表情が、明らかにバカにしたものに変わった。
「何? 男のため? ブスなうえにバカなの?」
瞬間。
固い金属音が、まるでハウリングしたかのようにドーム全体に響いた。
初めてだった。
初めて私の剣が、マイクで受け止められた。こいつの反射を上回る速度の一撃。
私の右手が、自分でも信じられないくらいの力を込めて鉄の塊を打ち込んでいた。
「何? 勝手に人の脳みそでも見るのが趣味なの? お前の顔とおんなじくらい悪趣味なんですけど?」
「お前の脳内、マジでクッソつまんないのばっかり出てくるんですけど。もうちょっと脳みそ使った人生おくってこれなかった?」
考えるよりも早く私は、反射的にクソ女を地面に押し込んでいた。多分、もう何も言わないほうがいい。頭にキすぎて絶対にどもると思うから。
盾ごと押し倒した黒髪クソ女の頭に、刃が届く瞬間。
その後ろから、強烈に光が吹き上がった。
「ふふっ」
魔法陣だった。見覚えのある魔法陣の光。あのチビアサシンを飲み込んだ、マネキンを作る前の女王の憑依スキルの事前告知。
まるでこいつが発動させたかのような何かが、標的を探すかのように私の目の前を走り抜けていった。
「次のターゲットは誰になると思う?」
瞬間、私は背後にそびえたつ巨大な女王を振り向いていた。
遠く、ハルたちのいるほうを見据えたままのバラの女王。真下にいるのに、私のことを気にすらしないバカでかい
そのクソみたいな巨体が、空中に広がる青白い環のとなりに、新たな環を作り上げていた。
瞬間、私の目の前に広がる魔法陣が消えるように移動していった。
女王が新たに作り出した、空中に浮く二体目のマネキン。
前からあったチビアサシンのマネキンが消えない中新しく出来上がったそれが、遠くハルたちから光を吸い上げていくのを私は見た。
溶けるように砕け散ったトラばさみの後。
栗色ショートと心中するかのように相打ちになったしょーたろーの死体が、宙に浮くクリスタルになるのを俺は、何もできずにただただ見ていた。
全然想定と違う。死体になったら憑依がはげるんじゃなかったのか。お前から無駄に蓄積した
だが遠く王笏を構えた女王は、しょーたろーの死体から憑依をはぐこともないまま新たに作り出した次の
「おい……!!」
「ふふっ……(笑)」
ふふっ(笑)ではなくて。
となりで杖を構えたままの
「どうするんだこれ……!!」
「詰みましたわね(笑)」
詰みましたわね(笑)ではない。ここまで丸一日使って、「(笑)」で納得できるほど俺の心は太平洋でもインド洋でもない。
「残念ですわ。お前は女王を攻撃すれば死ぬ。あの初心者戦士一人残ったところで、ポータルの起動は二人が必要。かといって私やクソハルさんが一緒では10階はクリアできない。すっごいですわ! 完全なる詰みってやつですわ!(笑)」
ええ~? なんかこいつ錯乱しはじめてない? 今になってアイデンティティーを取り戻したかのように(笑)を連打されても何一つ笑えないんだけど、とりあえず俺は今までの恨みつらみの分としてついでにぶん殴ってもよい?
「私は……☆」
隣にいたハルが、小さく声を上げた。
すっかり存在感をなくしていた、ピンク色の魔法使い。お飾りのようについてきただけの、呪われた完全なる役立たず。一般フィールドであれば誰もこいつに逆らえない、このローグダンジョンで一番のババを引いたVIT極の歩く地雷。
そのただのお荷物が、結晶となったしょーたろーのところで足を止めた。
「私は……!!☆」
宙に浮く結晶を、ハルが握りしめた。
「あきらめきれない!!☆」
ハルの体が、強く光った。
小さな。このダンジョンに入ってより小さく見えるハル。
その体にこまかな粒子のようにまとわりつく何らかの光。
おそらくスキルの継承だろう。しょーたろーの持っていた何らかのスキルが、光の粒となってこいつの体にしみ込んでいく。
「ヒロ!☆」
光を吸い込み終えたハルが、俺に向かって何かを投げつけてきた。
反射的に、俺はそれを受け取っていた。
見覚えのある結晶。スキルを継承する、死んだ人間だけが残す——
「は?」
なぜ結晶が? くたばったしょーたろーの結晶は、ハルが今目の前で消化したはずでは?
だが結晶が表示する、継承可能スキルは罠生成。明らかにしょーたろーが持っていた、アサシン特有のスキル。どう考えてもこれはインテリクソメガネの遺物以外の何物でもない。
「私は……!!☆」
戸惑う俺の前で、ハルが真剣な顔で声を上げた。
「ここまできて、このまま黙って終わりになんかしたくない……!!☆」
ハルが、静かに強く訴えていた。
このダンジョンに入ってからずっと、今までとはあまりに違った重い表情だったハル。
そのハルが、初期装備の杖を握りしめ俺を見据えていた。
「ここまできて10階にも行かずに終わりだなんて、そんなんで納得できるの!?☆」
「そりゃぁ……」
納得なんてできるわけがない。
だが、実際問題どうする? どうやってあの女王を殺すんだ? スキルも回復もできない状態で。
「どうしろっていうんだよ。俺は攻撃した瞬間に死ぬんだぞ」
「もしヒロがスキルを使えたら——」
ハルの視線が、立ちすくむ俺を貫くように見ていた。
「女王に一撃だけ、一番火力が高いのを打ち込めるとしたら。どのくらいあいつを削れる?☆」
「女王を……削る?」
何を言ってるんだ?
スキルなんて使えない。あの女王に打ち込めるのは通常攻撃のみ。たいした威力もない一撃を入れた瞬間、俺は死ぬ。
だが目の前のハルは明らかに、「そんなことは知ってんだよ」と言わんばかりの表情をしていた。
「女王を倒しても、10階に行ったところで意味はありませんわ」
ノックバック中のバ美・肉美が、自嘲気味のトーンで口を開いた。
「クソハルさん。私はもうすぐくたばりますわ」
いつの間にか、バ美・肉美のHPがすでに半分を切っていた。
考えてみれば当たり前だ。しょーたろーがあの憑依にしばらく耐えたのは、いくらVITが少ないアサシンとはいえそれでも近接職の端くれだからだ。MAG振りヒーラーのHPなんてたかが知れてる。
「そうなれば、10階はあなたとあの初心者の二人。どうやって元のステータスのあなたを倒せるっていうんですの?」
「私は……☆」
あきらめたようなバ美・肉美の言葉に、ハルが遠く視線の先を変えた。
女王の足元。
クソ地下アイドルの片割れと、仲良く殴り合う莉桜。
それを見て強く口を開いた。
「10階に出てくる私のコピーは、私そのものなんでしょ?☆」
「そうですわ」
「だったら……!!☆」
「何か、可能性があるんだな?」
杖を握るハル。
その小さなピンク色の魔法使いが、静かに俺の言葉にうなずいた。
俺は、右手に握る短剣を、波打つ三日月型の黒い刃に切り替えた。
ヴェノメス・ジャンビーヤ。最後にしょーたろーから投げられた、万が一俺が10階に行くならと言われたこの装備。
俺は、正直もうわけがわからん。結局10階は、俺はいけないんだろう。10階用にと言われたこの短剣、万が一どころかすぐに使う羽目になるとは思いもしなかった。
「あのスキルキャンセルを何とかする方法はあるのか?」
遠く、黒髪ロングをひたすらに斬り込んでいた莉桜。
それが、踊るように放たれた黒髪の蹴りで大きく弾き飛ばされた。
あいつを先に殺せれば、確実にスキルキャンセルは受けない。だが近接特化の戦士であの状況、おそらくそれは不可能だろう。そう考えると、しょーたろーの罠捕獲コンボは奇跡だったのかもしれない。
だとしたら一体何をすればスキルキャンセルを防げる?
だが静かにハルが。
俺の言葉に、ただ無言で再度うなずきを見せた。
「俺の最大火力は、これだ」
俺の中に残るスキル。
普段だったら選択肢にものぼらない、何一つなじみのないスキル。
だが今は。
この火力だけは全職ぶっちぎりの、ソロスタイルに特化したアサシンを象徴するようなクソスキルを俺は選ぶ。
俺は、このスキルの事前準備であるハイドをした。
「モブ子から継承した
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