10、奏多

 束の間の休憩を終えてから、琴葉はうず高く積まれた荷物を見ながら長考に入っていた。私生活では抜けた所も多い琴葉だが、薬師としての腕もさることながら、本職が舌を巻くほどの商い上手でもあった。その公私の差が何とも言えず萌える。


 ここ最近現物払いされた中には、軽いが嵩張る品や、物は良いが珍品で扱う商人が少ない品等、要は買い叩かれそうな品がいつもより多く含まれていた。


 それだけなら琴葉の腕なら何とでも売り捌けるだろうが、本来の目的としては市にきているのだ。勿論本職として、自前の薬草や薬品類も多数持ち込んでいて、それらを現金化して、割れた皿等の家財道具を買い足したり、服に仕立てる布を買ったりしなければならない。


 そして何より、各地方から集まる薬の材料の仕入れが重要だ。中にはこの時期しか買えない物も多数含まれていて、買い逃す訳にはいかない。更にはそれに伴って自然と行われる、新しい薬や製法についての情報交換。しかも、この街に長く留まれば、それだけ宿代も嵩む。時間的に余裕があるとは到底言えなかった。




「んー…。んんんー……。良し。」

 影が長くなり始める頃、遂に琴葉の考えがまとまった。夕焼けに色づき始めた窓からの明かりが、琴葉の横顔を照らして、紅色の瞳を優雅に引き立てる。一瞬、言葉も出ない程に見惚れた。


 琴葉の商才は俺の遥かに及ぶ所ではないから、待っている間はひたすら琴葉を眺めていられる。それはそれで幸せなのだが、少しでも負担を減らしたい気持ちとの鬩ぎ合いが辛い時間でもある。

 だが、一旦琴葉が方針を決めてくれれば、俺にも全力でその手伝いが出来る。

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