第33話 戦後処理

魔物のスタンピードは無事に撃退に成功したのだが…


「トニー様、上級魔法薬ハイポーションの追加をお願いします! ヒルデ様は上級解毒薬も作って下さい!」

魔物の集団暴走スタンピードを撃退した処だと言うのに、私とヒルデガルドは錬金術ギルドに拉致されて狐獣人の受付嬢ハンナに魔法薬ポーション作りを強要されている。


「冒険者ギルドに街の防衛戦に駆り出されてクタクタなんだが…」

「何を言ってるんですか、トニー様もヒルデ様も無傷でしょ、騎士団の人にも衛兵の人にも冒険者の人にも大勢重傷者がいるんですよ!」

ふんすっと狐獣人の受付嬢が鼻息を荒くする。


大きな都会と違ってこの街には薬師ギルドが無く、錬金術ギルドがその役目を兼ねていた。

なのでスタンピードで負傷した、特に重傷者は錬金術ギルドに運び込まれていた。


「この娘は低級魔法薬ローポーションで止血だけはなんとかやってある」

戦場で応急処置だけされた重傷者の女性が担架で運び込まれて来る。

ぼろぼろになった騎士団の鎧を身に着けた、まだ若い女騎士だが、右腕の肘から先を失い、顔の右半分に魔物の爪跡らしき深い傷があった。


「うっ、ううっ…私、もう、お嫁に行けない…」

騎士団に所属している女騎士だから下級貴族の子女なのか本人が騎士爵なのかはわからないが、彼女がどんな身分であろうと片手を失ってしまってもう剣も持てず、顔にも醜い傷を負った女を嫁に貰う物好きなどいない。


「トニー様、上級魔法薬ハイポーションをこの方に!」

狐獣人のハンナが見た目に似合わぬ怪力を発揮して社長を引き摺って来る。

「この娘の怪我には上級魔法薬ハイポーションはいらない、止血もされてるし魔法薬ポーションで十分だ」

「でもでも、こんな大ケガなんですよ!」

上級魔法薬ハイポーションでは欠損は再生しないし、顔の傷も消せない」

「ぐっ…」

ハンナががっくり肩を落とす。


はあっ、とため息を一つつくと社長は空間収納インベントリからポーション瓶を一本取り出した。

「これを飲め」

虚ろな目をしている女騎士に渡す。


「要らないのなら他にまわすぞ」

「の、飲みますよぉ、ささっ、ぐっと飲んで!」

ハンナが女騎士にポーションを飲ませた。


ぱああっ

女騎士の身体が淡く光ると右腕の肘から先と顔の傷に新たに肉が盛り上がり再生していく。


「えええっ、うそーん!」「あああっ…」

ハンナは目を丸くしているし、女騎士は驚愕の表情で再生していく自分の右腕を見ている。


「ほらハンナ、いつまでも固まってないで次の負傷者だ」

「と、トニー様、アレは? まさかエリクサー!?」

ハンナはもふもふな尻尾をぶんぶん振って興奮している。

「アレは只の最高品質SSR最上級魔法薬エクスポーションだ」

「た、ただの最高品質なエクスポーションってそんなモノを作れる錬金術師なんて…」

「たまたまここに二人居る」

そう、私とヒルデガルドなら作れる。



「あっ、トニー様、こっちの冒険者さんにもエクスポーションを!」

「この傷には最上級魔法薬エクスポーションは要らない」

「ええーっ、瀕死の重症ですよー」

冒険者の男は腹を裂かれて内臓がはみ出している。

「彼には上級魔法薬ハイポーションを複数使用する方が効果的だ」

「そ、そーなんですか?」

ハンナは錬金術ギルドの受付嬢で治療についてはそれほど詳しくない。


「トニー様、さっきの女騎士さんが若くて美人だったからじゃないでしょうね?」

ハンナがジト目で見てくる。


「ちょっと、その話詳しく!」

いつの間にか私の背後に忍び寄っていたヒルデガルドが参戦してきた…

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