第23話 封印創造

木造の建築物。その中に4人。

椅子に腰かけた3人の前で、俺はあることを発表する。


「えーせっかく創った鑑定の魔法だが、しばらく眠らせることにした」


俺の言葉に目の前の3人は見合う。

ざわついているようにも見える3人を目にしながら、俺は咳払いをする。

そのうち、目の前の1人が口を開いた。


「どうしてでしょうか?」


当然のように投げかけられた疑問に俺は立ちながら、疲れた顔でそいつに言う。


「だって、不具合が多いんだ。これ」


俺は、例えば~と言って、傍のテーブルに置いてあったコーヒーカップを手に取る。

そのコーヒーカップを上空に投げ、そのカップを魔法で空中に止めた。


「例えばこういう魔法を創るとする」


そう言ったあと鑑定の魔法を自分にかけると、

【空中停止】というものがスキルの欄に追加されていたのだ。


「ほらな。不具合が出た」


「しかし、神様。これは不具合なのでしょうか?」


ある天使が口を開く。

俺はその天使のたわわに実った果実を見ながら、答える。


「不具合というか、魔法とスキルの境界線が曖昧だからこそ起こってしまったこと…というか…」


「つまり便利を求めてたら不便になったってことですね!」


天使の1人は元気よく回答をする。

少し違うが、その上手いこと言ってやったという顔に腹が立ちそうになったので、突っ込むことを放棄した。


「これは長々創っていく魔法な気がしたから、一旦封印ね。えんがちょするわ」


「えんがちょ…?」


1人、俺の言葉に引っ掛かっていた様子だが、俺はその場で本を持つと、構わず本に書き記していく。

“鑑定魔法は本に、完成もしくは完了と書き記すまで使えない”

そう本に記入すると、俺は目の前の天使達に指示を出した。


「よし、魔法使ってみて」


3人はそれぞれで鑑定の魔法を発動させようとするも、何も発動しない。

それを見守ると、俺は浮かび上がったままのコーヒーカップを手に取り、魔法を解除した。


(それにしても、魔法と創造の違いってなんだろうな。魔法だって創造じゃねぇか)


俺はますますわけがわからなくなり、コーヒーを啜りながら唸る。

そんな俺に、ルシファーが声をかけてきた。


「ところで、主様。申し訳ありませんでした」


「何が?」


「いえ、この間、地界に行った後、合流すると言っておきながら合流できず…」


「ああ…いいよ。忙しかったんだろ?その分いい収穫もあったから大丈夫だ」


フフと過ごした事によって、色々と今の環境も知れたし、地域の名前が決まったことだし。これは大きな収穫だ。


「それと…泣き崩しで行ってしまわれたため、報告が遅れましたが、下界の調査はこちらの資料にまとめておきました」


そういえば以前、ルシファーの禊として、下界の調査に行ってもらっていたことをすっかり忘れていた。

資料と言って差し出したそれは、どこから取ってきたのか薄い木の板に、文字が彫られている。何枚もあるその木の板はかなり分厚い木の束になっていた。

俺はルシファーにお礼を言うと、俺は本の力を使い、紙の束を創造しそれをルシファーに渡した。


「次からなんか書くことあったらこれに書いてね。なくなったら補充できるように、そこら辺に紙とペン置いとくから。」


「はい。かしこまりました」


「あと、みんなも不便なことあったら遠慮なく言えよ。今更だけどな…」


俺は、皆にそう言うといつものカウンター席に木の板を運び、座り込んだ。

3人の天使達はそれぞれで解散し、どこかへと去って行く。


俺は運んだ木の板を一枚手に取ると、彫られていた文字を読む。


「えーっと…これは東の話か?」


精一杯、綺麗な文字で掘られたその文字を俺は読み取る。

1枚目の木の板には、東の大地と題名が日本語で割り振られていた。


「東ってあそこか?あの竜が住んでた…」


俺は火竜との出来事を思い出す。

あの時、そんなに周りのことを見渡す余裕などなかったが、ルシファーの資料によれば、あの火竜により、辺りの動物達が捕食され、早くも生態系が崩れているとのことだった。俺は、ルシファーの資料通りに、火山一体を本で整備する。


(…というか一つ一つ俺がやらなきゃならんのか…)


何枚も置かれた板の数に嫌気がさしてきた俺は、ある名案を閃く。


「そうだ。生態系を整備してくれるキャラクターを生み出せばいいのでは?」


いや軽い弾みで何かをこうやって生み出してしまえば、何かしらまたトラブルが起きるに違いない。面倒くさがり屋の俺は、本に新しいキャラクターを書きそうになった自分の手を止めた。


しかし、ルシファーの禊として、今回の資料が出来上がったわけだが、毎回このようにして下界の情報が手に入るわけではない。自分で実際見て回るのもありだが、そうなれば、俺の時間はたちまちなくなってしまうだろう。

できれば、俺はここでゆっくりと過ごす人生を永延と送りたい。


俺が手を止めて、頭を悩ませていると、1人の女が俺の隣に腰かける。


「どうされたのですか?」


滅多に、俺に話しかけたりしない女が俺に話しかけてきた。


「お…おうミカエル珍しいな」


いつも警備だなんだとなんだかんだで家に滞在している時間が少ないミカエルは珍しく俺の横にいた。


「今日は、神様の近くにガブリエルがおりませんので」


確かに、最近はガブリエルと一緒にいることが多かったかもしれない。

火竜での事件や、フフに会いに行った時も一緒だった。

キャラ設定的に、自分と気が合うガブリエルといる時は他の奴といる時よりも緊張は感じない。なんだかんだでガブリエルのことを気軽に話せる友人のように感じている自分がいる。


「そのガブリエルはどこに行ったの?」


「動物達と会ってくると下界のほうに行っております」


「この前のあれ。気に入ったのかな…」


俺は氷山で動物達に揉みくちゃにされていたガブリエルを思い出す。

俺が動物や魔獣を創り始めたことによって、あいつの中の何かが目覚めたんだろう。

とてもいいことだとは思うが、少し寂しい気もした。


「そういえば、最近、アダムがイヴとやっと結ばれたのですよ」


警備だけしていたわけではないミカエルは俺にそんなことを報告した。

ミカエルは人間好きだったな…。


「そうなのか。それはめでたいな。何かお祝いでも贈ろうか…?」


俺は、本題も忘れ、近所のおばさん同士の会話みたいな世間話を繰り広げていく。

あのサタンとの一件があったんだ。あれだけのことがあれば、結ばれるのも無理ないだろう。


「それならば、1つ提案がございます」


「お…。何?」


「家です」


「い…家?」


俺は、意外な贈り物の提案に、驚く。

いや、家というアイデア自体はいいとは思う。

しかしミカエルがこういったことを提案したことに驚いているんだ。


「アダムはとてもよい青年です。いつ見てもイヴのために何かをしているのです。南の辺りに差し掛かった頃でしょうか。少し寒いと身を震わせていたイヴに、アダムは何か寒さを凌げるものを用意しようと、神様にお願いしようとしていたのです」


「へ…へぇ…」


流ちょうに発言したミカエルは、夢中になってアダムたちの事を語る。

俺は、作業を一旦止め、ミカエルの話を聞き入ることにした。


「イヴはその行為を止めようとしていましたが、アダムは構わず神様に問いかけようと赤い石に話しかけていました」


「ん?でも俺はそんなこと知らないぞ」


「はい。私が止めに入りました」


お前そんなことしてたのかよ。通りでいないわけだ。

勝手にそんな行動をするなんてミカエルらしくもないが、俺はそれを咎めることはなかった。人間好きのミカエルのことだ。きっと体が勝手に行動していたのであろう。


「止めに入った私は、2人にローブを渡して去ったのです」


そんなもの家にあったんだろうか。やはり把握しきれていないのは問題ではある。

しかし、その後も、アダムとイヴのことを楽しそうに語るミカエルに俺は顔が綻び、その日は手を休め、じっとミカエルの話を聞くことに決めたのだった。











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