第12話 スキル創造

朝、目が覚めると、今までにない爽快な気分に

思わず笑みが零れた。


パンツ1枚姿の俺はベッドから降りると、窓を開き、大きく伸びをする。


なんて爽やかな目覚めなんだろう…。


窓からの景色は、雲だらけの青空だったが、

素晴らしいとキリっと一言、景色に対し感想を述べる。

俺は窓を閉じると、少し青いシャツを身にまとい、ジーンズを着て、家の2階から1階へと降りて行く。


俺がバーカウンターのいつもの席となりつつある椅子に腰かけると見計らったようにルシファーがテーブルにコーヒーを差し出してくる。

俺はそのコーヒーに軽く口をつけるとルシファーにお礼を言う。


「ありがとう」


ルシファーはその俺の言葉に軽く会釈をするとカウンターの奥へと消えて行ってしまう。


昨晩あんなことがあったのにも関わらず、よく冷静でいられるなと思うところであったが、冷静な顔とは裏腹に、耳が少し赤く火照っているのがわかり、俺はにやりと笑った。


俺でなきゃ見逃しちゃうね。


そんなどこかで聞いたことのあるようなセリフを心の中で唱えると、ドアがガチャリと開く音が後ろから響いた。


振り向くと、そこにはガブリエルを背負ったミカエルの姿があった。


2人ともひどく衰弱している様子であったため、どうしたのかと事情を聴くとミカエルが答えた。


「ルシファーにヤられました」


そう答え、ミカエルは玄関に倒れ込む。

俺が慌てて近寄ろうと立ち上がるが、ルシファーが丁度俺のために朝食を持ってきてくれたので、再び椅子に座る。


俺がルシファーの作ってくれた朝食に目を落とすと、ルシファーに声をかけられる。


「昨晩、邪魔が入ると面倒だったので、先に対処しておいたのです」


ミカエルとガブリエルが玄関に倒れている理由を先に察したのか、ルシファーが答えてくれた。


「対処っていつ?」


俺は、朝食の卵焼きを箸で頬張りつつ、尋ねる。


「主様が、本に記入していた時に…少々」


相変わらずメイド服姿で、凛とした態度をとるルシファーに、見とれる。

こんなことなら本に記入するまでもなかったかもしれない。

しかし、対処というのが、少しばかり気がかりではある。


「ご心配なさらずとも、煉獄は使っておりません」


そんな俺の思想を読み取ったかのようにルシファーが答えたが、物騒な一言が聞こえてきた。


さすがに、昨晩のルシファーの説明通り、煉獄が物凄い拷問であった場合、そんな物を食らっていたのならミカエルにはとてつもなく理不尽だったであろう。

ミカエルは何もしてないしな。ガブリエルはともかく…



「じゃあ何をしたの?」


「牢獄を使いました」


煉獄と何の違いがあるのかわからないワードに、一瞬冷や汗が出そうになる俺だったが、単語から読み取るに、拷問の類はなさそうだったので、

その牢獄の詳細を興味本位で聞いてみることにする。


「牢獄ってどんな感じなんだ?」


「はい。煉獄とは違い、牢獄は、手足を鎖で縛られ、逃げようとするものに一定の痛みを与えるだけです」


「一定の痛み?」


「例えるのであれば、槍を全身に串刺しにされるような痛みでしょうか」


おおふ…。思ったよりハード…

それって煉獄とどんな違いがあるのだろうか…とルシファーに問うのは酷な話であろう。

いやきっと答えてはくれるだろうが、あんまり想像したくない。


「そ…その牢獄?を使ったのは、ミカエルとガブリエルだけ?」


「いえ…主様以外全員…んんっ…はい。ミカエルとガブリエルだけです」


何か前半のほうに小さい声で言っていたような気もするが気のせいだろう。

俺はその言葉を聞き、安心すると、ルシファーに笑いかける。

ルシファーはその俺の笑顔に答え、軽くほほ笑むとまたカウンターの中へ入って行った。


朝食を食べ終え、コーヒーを口に含み、ほっと一息つくと、倒れているミカエルとガブリエルに近づく。

俺は倒れているミカエルの頭をつんつんと指でつつく。


「おい、生きてるか?」


反応がないミカエルに俺は息を吹きかけたり、腕を掴んで上げて離したりするも反応はない。

続いてガブリエルにも同じことをするも、共に反応はない。


「おいガブリエル。起きろ。さすがに昨日今日創ったばかりの女が目の前で死んだら目覚めが悪いぞ」


俺は、思わず思っていることが口に出る。

するとガブリエルが、振り絞るように声を出した。


「オレは悪くない…オレは悪くない…」


呪文のようにその言葉を繰り返すガブリエルに少し引く。

とりあえず、ガブリエルは生きているようなので、ほっと一安心すると、今度はミカエルのほうを気に掛ける。


「ミカエル。俺のヒョロヒョロの腕でお前達を持ち上げることはできないから起きてくれると助かる」


そう言いつつ、ミカエルを転がし、仰向けにし、顔を見ると、そのミカエルの顔に俺はぎょっとする。

そこには、乱雑に犯されたかのような少女の顔があった。


「私はもう、ダメ…みたいです…」


この2人をここまでにするとは、あのルシファーの牢獄、煉獄はよっぽどきつかったんだろう。

明らかにやりすぎだろうなと思い、俺は、2階へと歩みを進めると自分の部屋に置いてある本を手に取る。


ペンを取り出し、ミカエルとガブリエルの項目に、1つ書き加える。


”精神的苦痛体制(強)あり”と…


まあファンタジーっぽく書き加えるならこれでいいだろう。


これで本を閉じることはなく、白紙のページに精神苦痛体制についての詳細を描き込む。


本を閉じ、本を手に持ったまま、1階へと降りて行く。そこには玄関先で座り込み、普段の姿を見せる2人があった。


「おはよう。2人共、ルシファーの技はきつかった?」


「おはようございます神様。もう2度と味わいたくありません」


「確かに、煉獄の次の牢獄はさすがに堪えましたぁ…」


2人は俺の言葉に挨拶するよう答える。

どうやら本には、書き加えることも有効なようで一安心した。


「ガブリエル。煉獄はあなたの責任ですよ。反省しなさい」


「あ?うっせぇ。牢獄如きで、あんなアホ面になるアホエルが」


「なんですか?その口の聞き方は。ちょっと外に出なさい」


お2人とも元気になったようでなによりだ…

俺は、元のカウンターの席に戻ると残っていたコーヒーを手に取り、窓の外を眺めた。








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