この素晴らしい旅路に花束を!~この素晴らしい世界に祝福を!二次創作~

狐面 シノ

1‐1「転生とかってマジであるのか」

「…亡くなったって、誰が?」

目の前の人物は、キョトンとした顔で答える。

「誰って、あなたしかいませんよ?」



私こと「真田 さなだ千歳ちとせ」は、世間一般でいう「インドア派」とか「根暗」と言われても仕方がないような人間だった。

都会が遠くに薄っすらと見える、小さくボロなアパートで、アルバイトをしながら細々と暮らしていた。

そのアルバイトですら人と関わらないような、いわば「内職」の分類だ。

そんな私が、気がつけば死んでいた理由として思い当たるのは…。


「もしかして、頭を打って死んだ…とかですか?」

「ああ!そうです!自覚があったんですね。話が早くて助かります!」


やはり、家から持ってきた二段ベッドの上段から転落したのが原因だった。寝相の悪さは家族でもトップクラス。

いつか落ちるとは思っていたが、それが今死因になるなんて。


ため息をついて落ち込んでいると、目の前の女性はこう言った。

「あなたは不幸にも亡くなってしまいました。…でも、幸運でしたよ?」

「いやどこが。」

「何故なら、ゲームみたいな世界に転生できるからです!良かったですね千歳さん!」


…少し状況がわからない。ゲームみたいな世界…ファンタジーなのかSF、またはホラーなのか?

そこは重要ではない。今重要なのは。

「えっと…最近はやりの異世界転生ってことですか?」

「その通りです!やはり、あなたは理解が早いですね!」


そういうと女性は椅子から立ち上がる。

「私は女神『フラウ』。今から転生する世界を担当している、五代目の女神です。」

「フラウ様…えっと、私の名前は_。」

「真田千歳さん。ですよね?」

「あっはい、そうです。私は千歳さんです。」


フラウ様は話を続ける。

「あなたは異世界に転生し、四十四代目の魔王を倒してもらいます。」

「使命、とかいうやつですか。大変そうですね…。」

「元々は異世界でのんびり暮らしてほしかったのですが、最近ある事件が起きまして。」


フラウ様によれば、事件があったのは四十三代目の魔王が討伐されたすぐ後、

四十四代目の魔王の息子が新たな魔王軍をまとめ上げ、城の主になったという。

そして、父親を討伐した人々に魔物をけしかけているそうだ。


「それを…私が倒せってことですか…?」

「はい。そうですけど。」

この女神、正直過ぎてなんか嫌だ。



そんなこんなで、私「サナダ・チトセ」は、異世界生活を始めることとなった。

魔王を倒すことを目標に、人生の続きを歩むことができる。なんて素晴らしいんだろう。

フラウ様曰く、「転生特典」なるものも用意されているらしく…。


「転生特典ですか…。」

「はい!転生先で魔王を倒すことを条件に、転生時に欲しいものを選ぶことができるんですよ!」

「…なんでも?」

「なんでも、です。」

私が欲しいもの…しかもなんでもと来た。

心当たりがないわけではないが…あれでいいのだろうか。



私がここに来る前…つまりは生前。

「真田千歳」は高校生で不登校。アパートに引きこもり、アルバイトをやってはデジタルゲームを遊ぶ日々だった。

パパやママは居た。妹だって居た。優しくて、私の中では世界一の家族だ。

私が就職について悩んでいても、こころよく相談に乗ってくれた。


しかし、順風満帆じゅんぷうまんぱんな日々かと言われればそうではない。

不登校になった理由は、絶望的な友人関係…とも言えないような関係の数々であった。

高校生に入ってすぐ、私は友達だと言える人が増えた。

その時は今でも楽しそうな顔をしていた事を、よく覚えている。


蓋を開けてみれば、彼ら、彼女らが友達など甘いものではなかった。

都合のいい時だけ友達として振る舞い、それ以外はつ当たりに近い暴力を受ける日々。

暴言も当たり前。担任だって見て見ぬふりをしていたんだ。

…もっと早く、助けを求めるべきだったと思う。


そんな経緯けいいがあって、不登校になった。

家族は優しかったけれど、もう会えない。

だったら、「欲しいもの」はアレしか浮かばなかった。


フラウ様はこう言った。

「迷うようでしたら、この紙に書かれたものを選ぶこともできますよ?」

私は覚悟を決め、紙を渡される前に願いを言った。


「…私は。『しんの友人』が欲しい。転生先で友人に巡り合いたいです。」


フラウ様は笑みを浮かべて頷いた。

「決まりですね。それでは、これから転生する世界で、仲間たちと巡り合うように調整いたしましょう。」

「…はい。ありがとうございます。」


「では、いよいよ転生です。もし転生先で死んでも、魔王を倒すまでは私が蘇生しましょう!」

フラウ様は片手を上げ、何かの呪文を唱えた。

すると、私の体は光に包まれ、宙に浮き、そのまま上昇していった。


「フラウ様。魔王、討伐してきます!」

「はい!頑張ってくださいね!」


視界が真っ白になる。

気がつくと、私はどこかの草原に横になっていた。


_ああ、ここから始まるんだ。

「私の、人生の続きが。」

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