三度目の殺人

 がノさノおみは、がノくらノやまだノいしかわノろノおみ異母はらちがいおとうとである。きょうだいなかはもとよりわるくはなかった。しかしいしかわノみぎノおおおみとなると、はそのねたむようになった。そもそもあににはおおおみになるようなかくい。かくくてもおおおみになれるなら、あのおくびょうものあにでなくても、ぶんがなったってかったのだ。

 かまたりは、ねたみがましいこころっていた。

みぎノおおおみ如何いかにあるらむ」

 いしかわノはこのごろかぬようだが、なにあやしいところはあるまいな、とかまたりうた。にはなにおもたることはかった。

みぎノおおおみ如何いかにあるらむ」

 べつにもかまたりおなじことをいた。にはやはりよくこたえられるところかった。

みぎノおおおみ如何いかにあるらむ」

 かまたりかえおなじことをたずねた。

 はようやく、ははあとてんした。かまたりあにしっきゃくさせたいのだ。ゆうらないが、こちらにもごう好いことだから、それはどうでもい。もしあにねばおとうとはちまわるのがならいなのである。あになにあやしいところがあればのぞましいというものだ。

いななにきずきなりともかまうことはあるまじ)

 あにがそのるためにしたことをおもえば、いつわりごとにしていのちうばってもわるくはあるまい、とかんがえた。ただつみさばくのにかりみちもちいるだけのことだ。

 にはもうひとつ、あにわだかまりをつことがあった。それはめいめとったことを、そのめいなかノおおえノささげられるはずのところぬすんだのだと、あらぬうわさてられたことであった。あるいは、あにがこのおとうとあたまさえるために、このうわさながしたのではないか。あにくらべておのれのうだつががらないのも、うわさしんじたためではないか、とうたがわしくおもっていた。

 うべきことあらばこうたいもうげよ、とかまたりった。このすこまえなかノおおはたまたまはるたけなわのようさそわれて、なにうみあそんだ。そのときのことにしよう。

やツかれ異母ことはら海浜うみへたあそびませるをうかがいて、そこなわむとしつ」

 そのくわだてはすきけられなくてあきらめたが、そむくことはとおからずちがいがない、というざんげんを、

「さはおもいつかし」

 やはりそうであったか、そうぞうしたとおりのことだと、なかノおおしんじた。

 たいねんはるさんがつじゅうにちなかノおおみかどいて、おおともノこまノむらじしょうぐんとして、へいひきいてやまとやまへ、いしかわノらえにかわせた。

(いよいよはるよ)

 とはやらせて、すぐにとうげえてひがしこうとする。

いそぐべからず。あやうきこともあらむ」

 こま河内かわちくろやまというところで、おさえてあしめさせた。もしいしかわノがこちらのうごきをって、たからノたすけをもとめればやっかいなことになる。なにたからノはこのごろ、あづまノくにのさらにひがし陸奥みちのくむという、蝦夷えみしというばんぞくなずけて、として使つかっているとこえる。かまえてでもいられるとくことになるであろう。

 こまかんじゃすうにん遣ってまずようさぐらせているから、ここですこてとった。こまだんかんじゃしたことにまんであったが、なにおおともノむらじといえばむかしからいくさしょくしょうとしたゆいしょあるめいぞくなので、さくせんとなればだまってくよりほかようい。

 しばらくっていると、こまったとおり、じノむらじうねめノおみ使というふたが、ひがしからせてた。そのうよう、

がノくらノおおおみ、すでに三人みたりおノこらとともに、みずかくびくくりしてみうせぬ」

 と。これはがいなことと、はやってたしかめようというのを、こまはさらにめて、もうひとばんたせた。

 じゅうろくにち、またかんちょうもどってきて、いしかわノさいらもがいしててたこと、いたぶきノみやにはうごはいまったいことをつたえた。こまはもうぶんまくではないと、へいまかせてかえった。たいからでもくびってがらにしようと、しょけいにんものノべノふつたノみやつこしおれて、いしかわノやまいえんだ。ほんくわわったうたがいで四十よんじゅうにんほどのしばりもし、しゅじょうじょうであるとおもった。


 なかノおおえノにとって、こんけんてんまつかいなものにならなかった。うわさではいしかわノほんえんざいだということになっていた。いしかわノさいまでこうたいちゅうじつであり、やまいえそうしょぞうしょせきほうもつには、こうたいささげるものというふだけられていた、とささやかれていた。いしかわノぎゃくしんではなく、なかノおおちゅうこたえなかったといううわさになっていた。

 しかもけんのちしばらくして、ちノいらつめやまいかいしたことも、そのちちいしかわノおうったものとして、ひとびとかたぐさとなっていた。

 そのうわさでは、ちノいらつめちちき、こころやぶっていたみにたたまれぬこととなった。ちちくびしおられたというので、しおということをくことすらにくんだ。それでそばちかつかえるものたちは、しおということをけて、堅塩きたしえたほどであった。ちノいらつめこころいたみにえかねて、とうとうんでしまったのだ、と。

 なかノおおせいりゃくのためにめとったこのきさきより、おのれひょうばんにした。そこでちノいらつめいたうたつくってくれるようにかまたりたのんだ。かまたりなかノかわはらノふびとみつというものにそのことをめいじた。みつうたしゅんでなかノおおけんじた。


やまかわに 鴛鴦おしどりふたつ たぐく たぐえるいもを たれにけむ

もとごとに はなけども なにとかも うつくしいもが また


 かまたりは、なかノおおがこれをうたってきさきかなしみなげいたことにして、そのうわさながさせた。このさいなかノおおちノいらつめませたじょいちなんのことも、すっかりわすれていておもさなかった。

 なかノおおはどうにもていさいくないにはおおおみあたえず、わりにちくしノくに大宰帥おおみこともちとしてにんさせた。これでもそうとうたかだから、ほうになるにはちがいなかろう。

 なつがつとこだノおみおおともノうまかいノむらじだいこうぶりさずけ、それぞれひだりノおおおみみぎノおおおみにんじた。

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