失恋ノリ

「ごめん。でも別れたほうがお互いのためなんだ」


 ショックだった。


 私にとって彼はこの世でたった一人の運命の人だと思っていたのに。


 茫然自失して何もやる気が起きない私は、数日間も部屋にこもり切り続け、意味もなくスマホに入ったアプリを開いて眺め続けていた。


 そんな中、ある商品が目に止まった。


 ◆


『失恋ノリ』


 一生を共にしたい運命の人と別れてしまったあなたに!ヨリを戻せます!


 ◆


 心の弱っている人を食い物にする類のインチキ商品だ。私はそう思ったはずなのに、気づけば商品を購入していた。


 そして、その商品が届いて数日後、なんと彼からヨリを戻したいという電話が掛かってきたのだ。偶然だったかもしれないけれど、私は『失恋ノリ』に感謝した。


 数年後、私は彼と結婚した。


 *


 それから数年後、私は後悔していた。


 彼は私の運命の人ではなかった。それが数年の新婚生活を共にした結論だった。


 でも、もう離れることは出来ないのだ。


 ノリはすでに乾いてしまったのだから。

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