第8話 きっかけが欲しい水瀬さん

水瀬真雪は悩んでいた。

普段頭を使うことを嫌う彼女が珍しく考え込んでいた。

そして決意した。

隣の彼、田中くんと友達になることを。



時を遡ることたったの5分前。

今日のLHRは委員会決めをするらしいのだが、どうやら田中くんは図書委員に立候補するらしい。という情報を盗み聞き……いや、ふと耳にしたのだ。

(私のような静かなタイプは、周りの話がよく聞こえるようになっちゃうから仕方ないよね。)

そしてここで私、水瀬は思いつきました。

____ 一緒の委員会になっちゃえば話す接点が出来るのでは? と。

もうこれは、我ながら天才としか言いようのない考えだと思った。


そもそもなぜ田中くんと話したいのかというと、彼はたぶんアニメヲタクだからだ。

そして薄々気づいているかもしれないけど、私もヲタクと言ってもいいくらいにアニメが好きなのだ。

この間、休み時間に前野くんと話しているところをたまに聞くと「昨日のアクションシーン作画やばかったよな」とか「今期良作多すぎて見るの間に合わない」とか、アニメとは言っていないけどそれらしい事を言っていた。

心の中では「わかるっ。あのシーンは原作でも良かったけどアニメも素敵だったよね」とか「私も厳選できなくて15個見てるよ」と会話に混ざっているけど、実際にはアニメ友達も、普通の友達すらもほとんど居ないという悲しすぎる状態だった。

そう、ここで私は彼と友達になることを決心した。


気がつくと授業は始まり委員会決めも始まっていた。

「__次、図書委員になりたい人ー?」

そう学級代表が言うと、隣の彼はスっと手を挙げた。

やばい、出遅れてしまった……。

早くしないとほかの委員に移ってしまうし、急がなければ。

覚悟を決めろ!水瀬真雪!と自分に喝を入れて、やっと手を挙げることが出来た。

やれば出来るじゃん私、と褒めたぎりながら隣を見ると__田中くんはなんとも言えない顔をしていた。

ぽかんとしているのか戸惑っているのか、そんな感じの顔だった。

もしかして誰かと一緒にするつもりだったのかな。と不安に思いながら眺めていると、パッと彼と目が合ってしまった。

少し気まずい。

でも(この間ちゃんとした挨拶返せなかったし、した方がいいよね)そう思って「よろしく」と言った。つもりだったが、緊張して声が出ず口パクになった。

しまった……! と思ったけどなんとか伝わったみたいで「こちらこそ?」と彼は言った。

最後が疑問形なのは少し気になるけれど。

でも着実に友達への道は開けた!……気がする。

(これから頑張るから覚悟してね、田中くん!)

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