search & disposal失敗

飛行する船にユノアが乗り込んでから、それなりの時間が経っていた。

 船を探索し、キモケモの眷属けんぞくっぽいキモモチや、その集合体であるリアクター・ゴーレムとの激闘を繰り広げている間、船は常に飛行し、移動を続けていた。

 だがそれも、もう限界を迎えた。

 3基あるうちのブースターが一つお釈迦しゃかになり、ギリギリのバランスで飛行していた船は、バラバラにされたゴーレムの爆発が生み出した衝撃波をモロに受け、盛大に傾いて完全に姿勢制御を乱し、草原が広がる大地へと墜落していく。

 前方の底面から激突し、船体をひしゃげさせながら、生いしげる草を土ごと抉り取り、ズルズリと滑って行った。

 けれど、船の強度も並大抵のモノではなかったようで、衝撃に各所がゆがみながらも、そのシルエットはおおむね維持されていた。

 中に残されたユノアとルミルも、コンテナや床、壁に叩きつけられたが、硬化のカードの恩恵おんけいを身に付けていたユノアがその殆どを受け止め、ルミルを守り抜いた。

 墜落による揺れが収まり、ルミルを抱えたまま倒れていたユノアは、震える腕を立てて上体を起こす。

「ルミル、生きてる?」

「はい、何とか」

 苦痛に顔を歪めながらも、ルミルはハッキリとした声で答え、それを聞いたユノアは安堵あんどし、力が抜けて仰向けに転がり、天井を仰ぎ見た。

「痛い、身体のあちこち痛い。ぶっちゃけゴーレムと戦うより辛いかも」

「すみません、ユノア様、私を庇って」

「防御力的には私が高いだろうから、当然。でも、やっぱりルミルもキツかったよね」

「さすがに……ッ」

 張りつめていた神経が緩むと共に、ルミルは足の傷の痛みに悶えた。

 そんなルミルの反応にユノアはおののき、飛び上がるように身体を起こしてルミルの状況を確認する。そこでようやく、ルミルが足に傷を負って血を流している事に気付いた。

「ルミル、怪我してる!」

「大丈夫です、そこまで深くは……」

「カード、返して。紫のヤツ」

 急かすようにユノアが告げると、ルミルはそれに従い、台座を出現させてビルドアップのカードを抜いた。

 ユノアはそれを奪い取ると、自身の台座を出現させ、即座に装填する。

 全身に力が湧く感覚が広がる。しかし、疲労感は少し引いても、痛みは消える事はなかった。

 次いで、バインダーを出現させて、地図とレーダーのカードを取り出し、ステルス、ジャンプのカードと入れ替えた。

 ユノアはルミルの首と膝に手を伸ばし、横抱きの形で持ち上げる。

 身体の節々ふしぶしが痛み、泣きたくなる。きっと何ヵ所か打撲しているだろう。だが、そんな事は関係ないと、ユノアは歩き出した。

「シャワーや洗濯機もあったんだから、薬とか包帯とかもあるでしょ。大丈夫だからね、ルミル」

「あ、ありがとうございます」

「ごめんね、無茶させて」

「いえ、私はそれほどでも。すごいのはユノア様の方ですよ。本当に、あの怪物を倒すなんて」

「ルミルのおかげだってば」

「私はお手伝いをしただけで……」

「それが重要なの。ルミルが助けてくれるって前提があったから、私は勝てると思って、勝てたんだから」

 強く言い放つが、ユノアは一抹の不安を抱いた。船を墜落させる程の衝撃を放った爆発、その爆心地であるゴーレムは、跡形もなく吹っ飛んだだろうと考えているが、実際にその様子を確認できていないので、なんとなく、大丈夫だよね?と思ったのだ。今更考えても仕方のない事であり、あれでダメだったら、本当に今はゴーレムを倒せる手段が無い。途方もない時間をかけて槍で深い穴を掘り、そこに埋めてやるくらいしか、ユノアには思いつかなかった。

 ともあれ、どうにかゴーレムを船から追い払うことが出来た。それは間違いなくルミルの協力があったからこそであり、ユノアは改めて、ルミルに感謝した。

「ありがとう、ルミル」

 純粋な心からくるまばゆい笑顔に照らされ、ルミルもようやく、微笑みを浮かべられるようになった。

「お役に立てたのなら、何よりです。でも、ユノア様でしたら、一人でも何とかしそうな気もしてきました」

「まあ否定はしないね。私、負けるの嫌いだから、一人でも頑張ってたかな。勝てるかどうかは別として」

 フフッ、と互いに親し気な笑いを零し、食料庫を後にした。

 それから、ユノアは急ぎ足で船橋せんきょうへと向かった。

 医務室に相当する部屋を見つける為には、場所ごとの用途が記されている船の見取り図が必要だからだ。

 ケモモチとリアクター・ゴーレムの対処に集中しすぎて、今は完全に迷子状態である。

 マップを頼りに、なんとか船橋まで戻り、medical《メディカル》とある場所を見つけて、ユノアは急行した。

 訪れた部屋は、病院の診察室のような内装で、清潔感あふれる白い部屋は、やはり墜落の衝撃で滅茶苦茶に散らかり、机や薬品棚、ベッドがズレたり倒れたりしていた。

「そりゃそうだよね」

 引きつった顔で嘆息たんそくしつつ、ユノアはルミルをベッドに降ろした。

「ちょっと待っててね、今道具を探すから」

「私も手伝います」

 ベッドから降りようと足をついて、ルミルは痛みに顔をしかめる。

「怪我人は大人しく……って、私もあまり人の事は言えないけど、ここは任せて。命令」 

「……命令、ですか。承知しました」

 もどかしそうな顔で、ルミルはベッドに座る。

 それを見てホッとしながら、ユノアは倒れた棚を起こした。

 薬瓶だったり、ガーゼだったりがグチャグチャに入っていて、幾つかヒビが入っていたり割れていたりする道具もあるが、まだ使えそうな物もちゃんとあった。

 小さなボトル状の容器を幾つか見つけて、表記を確認する。

 傷を負って泣いているような子どもにボトルから液体が掛けられているイラスト。消毒液ですねはい分かります、とユノアはキャップを開いて、一応匂いを確認する。

 ほんのりしか感じない刺激臭から、劇薬の類ではないと判断し、袋詰めになったガーゼの束と包帯も持って、ルミルの足元に寄り添った。

「多分しみるけど、我慢してね」

 言いながら、ユノアは消毒液を染み込ませたガーゼで、ルミルの足を拭った。

 痺れるような痛みを覚えるも、ルミルは表情を固くして耐え忍ぶ。

 血を綺麗に拭き取り、別のガーゼを当てて、それを丁寧に包帯で巻く。

 医療の知識がないユノアに出来る応急処置はここまでだ。あとは自然治癒に任せる他にない。

「ありがとうございます。ユノア様」

「ごめんね、靴でもあれば良かったんだけど」

「そうですね。さすがにずっとこのままの格好という訳にもいきませんし」

「しっかり休んだら、船の中を探索しよっか。手伝ってね、ルミル」

「はい!」

 明るい返事を受け取り、ユノアは胸を熱くさせる。

 だが、やはりすぐには動けない。

 再び医務室を漁って、ユノアは湿布を掘り起こし、ルミルに手伝ってもらって患部に張り付ける。

 それから少しまったりすると、ユノアはルミルをダイニングルームへと案内し、体感的に少し遅れたランチを共にする事となった。

「いや~食器とか、何とか使えて良かった」

 椅子やテーブルがゴチャゴチャに散乱している室内の一角だけを整理し、そこでレトルト食品を広げ、お互い思うがままに腹を満たしていく。

「水道も無事みたいですし、かなり頑丈に作られていたみたいですね、この船」

「ホント、何なんですかこの船は。あとルミル、箸使えるんだ」

「初めて使うハズなのですが、普通に使えました」

 向かい合って座り、会話を交えつつ、二人は楽し気に食事を進める。

 そうして気持ちをリフレッシュさせ、カロリーを補充すると、ユノアは再び頭を回して、今後についてを考える事にした。

「さて、さっきも言ったように、まずはこの船を調べようと思うんだけど。ルミル、この船について、知ってる事は?」

「すみません」

 謝りながら、ルミルは首を横に振った。

「そうだよね。自分の事も分からないのに、そう都合よくは……でも、カードの使い方とかは知ってたんだよね」

「そうですね。ですが、なぜ使い方を知っているかまでは……」

「なるほど、そういうパターンね」

 腕組みしてユノアはかたよった知識の元、納得する。目的に必要な知識だけを与える。フィクションにありがちなやり方だ。何故ルミルそうなっているのかが、とても気になるところではあるが、解き明かす術は手元に無い。

 そんなユノアに対し、今度はルミルが問い掛ける。

「ユノア様は、どこから来られたのですか?」

「私?どこから……」

 問い掛けに対し、ユノアはどこか放心したように遠くを眺め、次いで深く考え込むように難しい顔になって俯いた。

「どこから……どこから?」

「あの、ユノア様?」

 別に答えられない訳ではない。だが、どう答えるべきかでユノアは悩んでいた。

 端的に言うと、こことは違う別の世界だ。だがそう言って、ルミルが受け入れてくれるかどうかが少し不安なのだ。困惑させて、妙に距離を感じられてしまわないだろうか?

 しかし、隠しておくのも気持ちが良くない。

 これから行動を共にするにあたり、わだかまり程ではなくても、スッキリとした気持ちで接していきたい。

 腹を括り、ユノアは真実を伝える事にした。

「……地球、かな」

 言おうとした途中で、やっぱりどうしよう、などと躊躇ためらってしまい、歯切れが悪くなってしまった。

 ルミルがキョトンとした顔になり、言い直そうとユノアは言葉を探す。

 先に口を開いたのはルミルだった。

「ここって、地球じゃなかったんですか?」

「んんっ!?」

 聞き返されているのに、ユノアは頓狂とんきょうな声を上げてしまった。

 取りつくろおうと軽く咳き込み、ユノアは質問を返す。

「ごめん、もっとそもそもの話っていうか……ルミル、今私たちが使ってる言葉って、何語かは、分かる?」

「……日本語、では?」 

 どこか心配するような真顔で返され、ユノアはちょっと恥ずかしさを感じた。

「うん、だよね。そうじゃなくて、今が何年とかは?」

「いえ、それは全然わかりません」

「あ、そっか。そうなんだ」

 なぜかホッとしつつ、ユノアは情報を整理しようとルミルに確認を取る。

「えっと、そういう一般常識?的なのは分かるんだよね?」

「はい、一応……」

「で、どうして知っているかは?」

「わかりません」

「うん、大体わかった」

 カードの使い方同様、あらかじめルミルの知識に入れられていたのだろうと仮定し、船についても抱いていた疑問を掘り起こす。

 誰が、あるいは何が飛行する船とルミルを送り出したのか?

 そこで、もう一つの疑問に辿り着く。

「ルミル、この船がどこに向かってたのかって、分からない?」

 すると、ルミルは逡巡するように顔をしかめ、慎重に答えた。

「おそらくですが、人のいる場所に向かっていたのではないかと」

「人のいる場所?」

「はい。私は目覚めた時、ユノア様を手伝うべき、と確信を持ってました。つまり、誰かに会うために、この船に乗っていたのだと」

 思案するように顎に手を添えて、ユノアは続けて質問する。

「誰か、っていうのは?」

「それは、人であれば、誰でもよかったのかと。特定の人物であるなら、その人物について私が知っておいた方が都合が良いと思いますので。私を解放できる、つまり人間に向けて、私とこの船は遣わされたのではないでしょうか」

 理にかなった話だと思い、ユノアは感心してうなる。

「なるほどね。確かに、さっきの化け物含めて、私が倒してきた奴らに知性がありそうなのは全然いなかったかな」

「それは……ユノア様は、これまでもああいった怪物と戦った事が?」

「ああ、まあ……言うほど戦った訳でもないかな。最初に出てきた恐竜ロボ以外は、殆ど襲ってきた瞬間に槍で始末したし」

「……恐竜、ロボ?」

「なんかいたの。機械でできたスピノサウルスみたいなのが。最初に戦ったから、もう大変で、マジで死ぬかと思った」

 武勇伝を語るように、ユノアは少し熱の入った語りをして、ルミルは密かに圧倒されていた。

「まあ、それもこれも過ぎた話。今はこれからの事を考えよう。差し当たって、まずはこの船にどんな設備があるのかを把握して、拠点にする」

 食料やシャワールームなどの設備がある船だ。探せばもっと生きる上で便利な場所や物が見つかるハズ。頑丈である事も実証済みなので、雨風や野生動物から身を守り、ゆっくりと休める寝床としては申し分ないだろう。

「それから、この船の進行方向を中心に、マップを広げる」

 言いながら、ユノアは宙にマップを広げ、スワイプする。

 すると、船の地図を階層ごとに表示した後、船の周辺の地形を表示した。

 残念ながら緑が広がっている事しか分からないが、ユノアが目覚めた廃墟からかなりの距離を移動していた。

「ルミルの考えが正しければ、また誰かと会えるかもしれない。もしかしたら、その誰かが何かを知ってるかもしれない」

「何か、とは、ユノア様は、何を知りたいんですか?」

 率直な質問を投げられ、ユノアは神妙な面持ちになり、席から立ち上がる。

「私の事と、この世界の事、かな」

 理解の及ばない状況を再認識し、ユノアの胸の内に不安が蘇った。

 ほとんど勢いだけでここまで来たが、何一つとして、ユノアは今いる世界について、自分の状況について分かっていないのだ。

 ダメで元々、ユノアはルミルにたずねる。

「ねえ、ルミル。私が……何者かとか、分かる?」

「ユノア様が、何者か?」

「会った時にサラッと言ったつもりだけど、私も知らない場所で目覚めて、なんだかんだでここにいる感じなの。だから、何でこうなってるのかを、私は知りたいかなっ、て」

 しんみりとした顔になるユノアを見て、ルミルは落ち込んだ。

「そうだったのですね。すみません、期待にそぐわなくて」

「そんな事ないよ。ルミルはいてくれるだけでも、私にとってもの凄くプラスになってる」

 陽気に言いながら、ユノアは食器類をまとめ始める。

「まあそんな感じの方針で、まずは船を調べる。とりあえずは、ルミルの着れる服を探そう」

「わかりました、ユノア様」

 慎ましく返事をして、ルミルも片付けを手伝う。

 その後は取り決めた方針通り、船の探索を進める事となったが、敵もいなくなったので、散歩気分で歩き回るという地味な作業となった。

 だが、収穫も確かにあり、ベッドや机、トイレまで完備された個室に、質素なデザインではあるが数種類の衣類が揃えられた衣装部屋、掃除道具などの雑貨が揃えられた倉庫があった。

 そうして、船の内部構造を概ね把握すると、まずはルミルの服と靴を調達し、その後二人は掃除道具を手に取り、ルミルがいた船の中枢部へと赴いた。

「本体を倒す事で消滅とかあってくれたら嬉しかったんだけどなぁ……」

 ボヤキながら、ユノアは通路に転がるキモモチの死骸を箒で掃いて集める。

「不快でしたら、私が全て済ましておきましょうか?」

 清掃用トングでキモモチを摘み、ごみ袋に詰めながら、質素なYシャツとショートパンツを着用したルミルが尋ねる。

「いやいや、そんな鬼畜な扱いなんてしないよ。これからお世話になる気満々だけど、そういうのは私の中でナンセンスだから」

 本心としては、力を貸してくれるルミルの、従者のような振る舞いに興奮し、何でも任せたり、指を鳴らして呼び付けたりとしてみたい気持ちもある。

 だが、さすがに現状の問題を全てルミルに押し付けようとは思わない。

 ユノアは趣味に没頭するあまり、比較的に協調性の乏しい人間であり、面倒な事は他の人がやればいいと考える類の人間だが、今ここには娯楽もなければ、人手は自分とルミルしかいないのだ。

 やらなければならないと理解している以上、自分も働かなければという気持ちが、ユノアを動かしている。

「さて、こいつらをまとめて船から出すとして、その後の処分をどうするか」

「燃やして埋めてしまうのが無難でしょうか」

「そうだねぇ……こんなんでも自然の循環を担う肥やしになるんだろうね」

 冷めた顔で嘲る。そこでふと、ユノアはちょっとした事が気になった。

 この世界に、動物はいるのか?

 如何せん、ルミル以外は奇々怪々の化け物どもしか目にしていないので、普通の生き物みたいなのは存在するのだろうか、ユノアは思った。

 これもまた追々考える事だろうと、ユノアは問題を保留にしたが、幸か不幸か、その問題を忘れる前に答えが侵入していた。

 船の出入り口は既に把握したが、キモモチの死骸を処理した後は食料庫の片づけをしよう。そういう段取りで、ユノアとルミルはごみ袋を手に、後部ハッチから外へ出ようとした。

 しかしそこには、開けっ放しになった後部ハッチから野犬や野ウサギ、鳥などの小動物たちが船に入り、リアクター・ゴーレムとの戦闘で破損したコンテナから飛び出ていた食料を貪っていた。

「動物いたのかよ!?」

 何とも的外れなユノアの突っ込みに戸惑いつつ、ルミルは指示を仰ぐ。

「どうしますか?ユノア様」

「追い払う!とにかく急いで!」

 慌ただしい号令の下、二人は小動物たちに近付き、大仰な身振りで威嚇いかくして、小動物たちを外へと追いやる。

 それなりの数が侵入していたので、全ての動物を追い払うのに数十分も費やし、制    御盤を操作してハッチを閉じた。

「ちゃんと……戸締り、しとかないとだね」

「そうですね……ですがさすがに、仕方がなかったと思います」

 戦闘とはまた違った労働に息を切らしながら、二人は気を取り直し、キモモチの処分をするべく船の外に出る。後部ハッチは動物の侵入が懸念けねんされるので閉じたまま、別の出入り口を通る事にした。

 思わぬトラブルの対応に手間をかけたが、時間に追われている訳ではないので、ユノアの気持ちは極めて晴れやかだった。あとは手に持っているゴミを処分すれば、当面は厄介ごとから解放される。

 やはりゴミを処分するからには、なるべく船から遠い場所にしようと、1㎞ほど離れた場所まで移動する。道中、食料庫から追い払った小動物たちの数匹が草原を愛らしく徘徊はいかいしているのを眺め、鬱陶うっとうしく思ったユノアは一時だけ陰気な顔になった。

「この辺でいいかな」

 振り返って船から離れていると実感すると、ユノアはゴミ袋を放り捨て、指で挟んで控えていた振動のカードを取り出し、台座を出現させて、ビルドアップのカードと入れ替える。

 振動する槍を発動し、連続で地面に突き刺して、土を掘り出していく。

「少しだけ使わせてもらいましたけど、やっぱり便利ですね、この槍」

「ホントそれ。メチャクチャ使える。もうどうしてもって時以外は抜きたくないね」

 しみじみと槍のカードのありがたさを感じつつ、ユノアはゴミを捨てる為の穴を掘っていく。

 しばらくして、ちょっとした窪みが地面に完成した。

「それじゃあ燃やそうと思うんだけど……とりあえず1匹だけで試してみようか」

「爆発したら大変ですからね」

 先刻戦ったリアクター・ゴーレムが身体を爆発させていた事を踏まえ、まずは安全に、キモモチの死骸を1匹だけ放り込む。

続いて、厨房から持ってきた点火棒で昼食に食べたレトルト食品のパッケージに火を点け、それも穴の中に入れた。

 パッケージはすぐに燃え上がり、その火に巻き込まれるように、キモモチの死骸にも燃え移る。

 爆発を危惧してユノアとルミルは身構えるが、炎に包まれて形を崩していくキモモチの死骸をみて、ホッと胸を撫で下ろした。

「大丈夫そうですね」

「みたいだね。それじゃあ残りもさっさと……」

 そこまで言って、ユノアは違和感に気付いた。

 ルミルも同様で、二人の顔に緊張が走る。

 それは徐々に強さを増して、二人の鼻腔びこうから、嗅覚を刺激した。

「ゴホッ、なにこれ、クサっ!」

「ゲホッゲホッ、この臭いは、死骸から出てます」

「ちょっ、ヤバい、無理。埋めて、穴を!」

 咳き込む口を押えながら、二人は穴の端に盛り上がっていた土を蹴って、燃え上がるキモモチの死骸に被せる。

 それでも、周囲には悪臭が残り、二人はその場から逃げ出した。

「ゴホッ、ゲホッ、なんなのあれ、いやそりゃあんなグロテスクな物を燃やしてるから、分からなくもないけど」

「まるで、金属を燃やした臭いと生ゴミを混ぜて更に悪くしたような臭い……ひどい」

 臭いの届かない所まで逃げて、二人は悪臭に対する苦言を吐く。

「とりあえず、アレは一旦保留にしよう。もうちょっと、ちゃんと準備してから処分するって事で」

「わかりました」

 鼻のあたりに残る不快感に顔をしかめながら、二人はトボトボと船へ戻って行った。

 仲間を得て、道具や設備も手に入れたユノアだが、前途に難が見つかっていく。

 この先はどうなるのだろう、とユノアは悶々もんもんとした気持ちを抱きつつ、孤独でない事の嬉しさを密かに感じていた。

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