第17話 ジェムジェーオンの病巣3

 帝国歴628年3月1日、ジェムジェーオン北部要衝ハイネスは、首都ジーゲスリードから出撃した遠征軍に、包囲されていた。


 『勝唱の双玉』の弟カズマ・ジェムジェーオンは、仮の大本営を設置したハイネス市庁舎の貴賓応接室に、公務を終えて戻ってきた。

 ふぅ、ため息とともに上着を脱ぎ捨てた。

 下ろした長い金髪を、後頭部に寄せまとめて縛った。


 ピピピ、部屋のなかに電子音が鳴り響いた。


 机に備え付けている本部直通回線の通信機だった。着信を知らせる青い光が点滅した。

 カズマは通信機の許に寄り、ボタンを押した。


「カズマ・ジェムジェーオンだ」


 通信機のモニターに、アンナ=マリー・マクミラン大佐の顔が映し出された。背後に幕僚が数人動き回っているのが見える、作戦本部の司令室からの通信だった。


「お疲れのところ、申し訳ありません」


 カズマは、双子の兄ショウマ・ジェムジェーオンが西部要衝の都市オステリアに向けてハイネスを出発してから、休みなく働き続けていた。ショウマのハイネス不在を隠すため、一人でカズマとショウマの二役を演じていた。

 『勝唱の双玉』と呼ばれるショウマとカズマの兄弟は、一卵性双生児で、姿形が瓜二つだった。傍目でふたりの違いに気付く者はいなかった。


「気遣いは無用だ。どうしたんだ? マリ姐」

「オリバー・ライヘンベルガー男爵より通信が入っています」

「ほんとか」


 アンナ=マリーの言葉に、カズマの心が高鳴った。

 兄ショウマはオステリアで、オリバー・ライヘンベルガーと合流する予定だった。ハイネスからオステリアまでバトルシップで2日の距離、出発から4日が経過していた。

 オステリアに向かったショウマからの連絡が、途絶えていた。

 カズマの胸騒ぎは、日に日に強くなっていた。


 カズマの安堵の表情を見たアンナ=マリーが、思わず眼を伏せた。


「オリバー・ライヘンベルガー男爵の通信は『勝唱の双玉』のおふたりに宛てでした。従って、ショウマ様とライヘンベルガー男爵は合流していないと思われます」

「そうなのか……」

「はい」

「兄貴から連絡は」

「依然として、ありません」


 カズマは天井を見上げた。

 アンナ=マリーが心苦しそうな口調で続けた。


「ライヘンベルガー男爵からの通信の件ですが」

「そうだったな。悪かった。続けてくれ」


 アンナ=マリーの話によると、援軍を要請していたライヘンベルガー男爵国の軍勢は、予定通りジェムジェーオン国内に入り、オステリア郊外に着陣したとのことだった。

 ライヘンベルガーはジェムジェーオンの代表者の要請で、オステリアの兵士とライヘンベルガーの軍勢が合流することを望んでいた。主導者不在の軍勢と合流すれば軍の統制が乱れること必至だった。かといって、ライヘンベルガーが主導すれば、国際世論から内政干渉として、ライヘンベルガーの行動が非難を受けることが予想された。

 事実、アルベルト・パイナス伯爵が、オリバー・ライヘンベルガー男爵に対し、ジェムジェーオン国内に軍勢を派兵したことを、ジェムジェーオンの内政を乱す行為にあたるとして、公然と非難していた。

 ライヘンベルガーは、一刻も早く、相応しい代表者、すなわち『勝唱の双玉』と連携することを求めていた。


 ――こんなことになるならば、オレがオステリアに向かうべきだった。


 カズマの関心は、あくまでも、兄ショウマの行方に向いていた。


「つまり、兄貴はまだオステリアに到着していない。オリバー義兄さんも兄貴の行方を知らない。ということだな」

「ライヘンベルガー男爵は、オステリアで合流するはずだったショウマ様が、いまだ到着していないことに、少なからず疑念を抱いていると思われます」

「それは、そうだろうな」

「そのライヘンベルガー男爵が、『勝唱の双玉』のふたりと、30分後に会談を開催したいと申し入れてきております」

「あえて、オリバー義兄さんは『勝唱の双玉』のふたりと言ってきたのだな。そこに、オリバー義兄さんの疑念がみえるな。マリ姐はオリバー義兄さんに、どのように伝えればいいと思う?」


 アンナ=マリーが断言した。


「ショウマ様の件は、隠してはならないと思います」

「そうだな。オリバー義兄さんには、こちらから援軍をお願いしている手前もある」

「仮に情報を隠蔽するとしたら、事実がライヘンベルガー男爵に発覚した時の影響を考慮しなければなりません。現在、私たちが置かれている状況を考えると、ライヘンベルガー男爵との同盟に傷を及ぼすリスクは、採るべきではありません。真摯に事実を伝えるのが、最善と考えます」

「マリ姐の意見に全面同意だ。事実を伝えよう。それにしても、兄貴はいったい……」


 カズマの思考は、自ずとショウマの行方に落ちていった。

 アンナ=マリーがカズマをいたわった。


「カズマ様、大丈夫ですか」

「判っている。心配しなくても大丈夫だ。兄貴が不在のいまこそ、オレがしっかりと対応しなければならないな」


 アンナ=マリーが頭を下げた。


「お願いします」

「15分後、そちらに向かう」


 カズマは通信を切った。

 静けさが、広い貴賓応接室を支配した。

 ソファに身を投げ出した。

 ショウマの行方が不明になっていることを忘れるため、この2日間、忙しさのなかに身を置いた。カズマは、兄ショウマを演じることで、その存在の大きさを改めて理解した。

 兵士たちは、ジェムジェーオン世子ショウマを演じているカズマを、畏敬の眼差しで見詰めてきた。そのなかには、各自の行動の正当性となる拠り所、皆をひとつにまとめる原動力があった。もし、ショウマの不在が陣中に知れ渡れば、兵士たちの士気の維持が困難になるばかりでなく、錦旗を失った兵士や民衆の暴動を招く可能性すらあると思えた。

 ふぅ。カズマは仰向けに見上げたまま、宙に向かって両腕を突き上げた。




 オリバー・ライヘンベルガー男爵の威風堂々とした姿が、作戦本部の会議室に設置した大きなモニターに映し出された。


「久しぶりだな」


 長身で短く刈り込んだ赤毛と無精ひげ、無骨さは変わりなかったが、強い意志を伝える目は、以前にも増して自信に満ちていた。

 カズマ・ジェムジェーオンが軍服を着用して臨席していた。

 少しだけ顔を強張らせながら、オリバーに敬礼した。


「お久しぶりです」


 この会議にカズマは、ショウマではなくカズマ本人として臨んでいた。いつものように金髪を後ろで縛っていた。


「ジェムジェーオンの出席者は、カズマとマクミラン卿のふたりか?」

「はい」


 カズマの隣でアンナ=マリー・マクミラン大佐は控えていた。


「ライヘンベルガーの出席者は、俺とベルトラン卿だ」


 ベルトラン卿は、ライヘンベルガー男爵国の首相を務めるオリバーの腹心だった。

 アンナ=マリーは画面越しに会釈した。


「お久しぶりです、ライヘンベルガー男爵。ご壮健のようで何よりです」

「マクミラン卿、久しぶりだな。シオンも卿やカズマに会いたがっていた。さすがに、この地に連れてくるわけにはいかなかったがな」

「私もシオン様に久々に会いたいです」


 ライヘンベルガー男爵オリバーとジェムジェーオン伯爵アスマの長女シオンは、数年の婚約期間を経て、5年前に正式に結婚した。オリバーとシオンとの夫婦仲は非常に良く、娘がふたり誕生している。

 オリバーは、シオンの弟であるショウマやカズマとも、本当の兄弟であるかのように接していた。アンナ=マリー・マクミランは、軍の階級こそ大佐であったが、ジェムジェーオン武官三家マクミラン家の当主であり、ジェムジェーオンから嫁いだライヘンベルガー男爵妃シオンと親友だった。その縁から男爵本人とも交流が深かった。

 オリバーが顎の無精ひげを擦った。


「カズマも久しく見ない間に、少し大人びたようだな」

「ええ。育ち盛りなので」

「そうだな」


 ハハ、オリバーが大きく笑った。

 カズマも緊張が解けて、いつもの表情に戻っている。

 少しだけ間を空けたあと、オリバーが切り出した。


「早速なのだが、聞きたいことがある。まどろこしいのは性に合わんので、単刀直入に訊く。ショウマはどうしたんだ?」

「小官から説明させていただきます」


 アンナ=マリーはオリバーに経緯を説明した。

 ショウマがオステリアに向かったのが、4日前。出発して2日目以降、連絡が途絶えており、現在行方が判らなくなっていることを、正直に伝えた。


「そうか。約束の日になってもショウマがオステリアに現れないものだから、何かあったのではないかと、薄々思ってはいたが……」

「連絡が遅れてしまい、申し訳ありません」


 アンナ=マリーは頭を下げた。

 オリバーが納得した表情で応えた。


「いや、謝罪には及ばん。事が事だけに、軽々に外部に情報を漏らせないという事情は理解できる」

「ご配慮、痛み入ります」

「ひとつ気になるとすれば、クードリア地方を通るルートを選択したということだな」

「オステリアに向かうには、首都ジーゲスリードかクードリアのどちらかを経由しなければなりません。ジーゲスリードは暫定政府に抑えられているため、クードリア経由を選択するしかありませんでした」

「そうなるだろうな。それに、『赤の大地』クードリアの賊がいくら愚かであっても、正規軍に手を出すとは思えないがな」

「小官らもそう考えていました。クードリアがジェムジェーオン正規軍に手を出せば、討伐の絶好の口実を与え、ジェムジェーオンの軍勢を呼び込む結果になります」


 ふむ、オリバーが頷いてから、訊ねてきた。


「ショウマがクードリアを通過することは公になっていたのか?」

「秘密裏に進めていました。ハイネスのなかで、ショウマ様がオステリアに向かうことを知る人間は、軍の人間のうち僅かです」

「そうか。……まあ、心配あるまい。あのショウマのことだ。何らかのトラブルに巻き込まれたとしても、その叡智で窮地を脱してみせるさ」


 カズマが割って入ってきた。


「オリバー義兄さんも、そう思いますよね」


 オリバーが砕けた表情を作った。


「ああ。これがカズマだったら、心配でどうしようもないがな」

「オリバー義兄さんの言う通りです。兄貴はオレと違ってバカじゃないので。短慮を起こすことはないです」

「自分で言うな」


 オリバーが笑いながらカズマに応答した。


 ――少しだけ大げさだな


 アンナ=マリーの目に、オリバーの態度が少しだけ仰々しく映った。ジェムジェーオン側を配慮しての態度なのだろう。ただ、オリバーはショウマと昵懇の仲で、性格を知っているからこそ、何の連絡もなしに消息不明になるのが、異常事態であることを理解していると思えた。

 アンナ=マリーは意図的に、話題を変えた。


「遅くなりましたが、ライヘンベルガー男爵におかれましては、私たちの要請にお応え頂き御参戦いただいたこと、ジェムジェーオンを代表して感謝申し上げます」


 アンナ=マリーに少し遅れて、カズマも頭を下げた。

 オリバーが大きく手で遮った。


「マクミラン卿。このメンバーで、堅苦しいことは無しにしようではないか。カズマ、おまえらしくもない」


 それでは、カズマが表情を崩した。


「ありがとうございます。オリバー義兄さん」

「その方が、カズマらしい。そして、礼には及ばんよ。ライヘンベルガーにとって、ジェムジェーオンは大切な同盟国、いや家族も同然だ。だから、ライヘンベルガーが参戦するのは、自らのためである。それに……」

「それに」


 オリバーの目が鋭さを増した。


「アスマ・ジェムジェーオン伯爵は義父というだけでなく、為政者として尊敬の対象でもあった。その義父があのような最期を迎えた。さぞ、無念だったろう。マクシス・フェアフィールドの発表した内容は、信じられない。暫定政府が都合のいい事実を捏造したとさえ思っている。少なくとも、俺が知るアスマ伯爵と奴らが語るアスマ伯爵との間には、大きな乖離がある。奴らと一戦交えてでも、真実を明るみにしたい。これが、俺の亡くなったアスマ伯爵にできるせめてもの弔いだ」


 オリバーの目は真剣だった。語った言葉に嘘は含まれていない。


 ――らしいな。


 アンナ=マリーは思い出していた。あれはシオンとオリバーの結婚前のことだった。ジーゲスリードに来訪したオリバーが、シオンと随伴のアンナ=マリーに、ジェムジェーオンとライヘンベルガーの未来を熱く語った、その時と同じ目をしていた。

 カズマが微笑した。


「父アスマもその言葉を聞いたら、喜びましょう」

「それにしても、もう4ヶ月になろうとしているのか。俺はいまだに、あのアスマ・ジェムジェーオン伯爵が命を落としたことを信じられない」

「オレも同じ気持ちです」


 オリバーがハッとして、カズマに詫びた。


「すまない、カズマ。俺などより貴公たちの口惜しさは大きいだろうに」

「いえ」

「俺はな。ショウマやカズマが俺を頼ってくきてくれて嬉しかったんだ。オリバー・ライヘンベルガーいち個人として、ジェムジェーオンに出兵し、暫定政府軍と一戦交えることを望んでいた。……だが、そうすれば、個人的な問題で済まなくなる。ジェムジェーオンとライヘンベルガー、国を巻き込んだ大事となってしまう。ここにいる宰相のベルトランから、強い口調で自重するよう念押しされてきた」


 オリバーの言葉に、隣で立っていたベルトラン卿が、苦い顔をした。

 ベルトランの顔を観たオリバーが、意地悪くニヤリと笑った。


「カズマたちが、もっと早く、俺を頼ってくれればよかったんだ。そうすれば、ベルトランから叱られることもなかったのにな」

「私は叱ってなどいません。僭越ながら意見を述べさせていただいただけです」

「オリバー義兄さんには申し訳ないことをしました。兄貴もオレも、混乱のなかに放り込まれて、状況を見極めるので精一杯でした。ただ、ベルトラン卿の怒りが頂点に達する前に、オリバー義兄さんに援軍を依頼できたようで良かったです」

「まったくだ」

「オレも、アンナ=マリーから説教を受けて何度も窮地に陥っています。次は、オリバー義兄さんがオレを助けてくださいよ」

「それは難しいかもな」


 ゴホン、アンナ=マリーは咳払いした。


「まあ、冗談はこのくらいで」

「マクミラン卿の言うとおりだ。冗談はこれくらいにしておこう。いずれにしても、ショウマやカズマが中心となって、ジェムジェーオンを再興するのであれば、ライヘンベルガーは協力を惜しまない」

「はい。ありがとうございます」


 オリバーが真剣な顔つきになった。堅い口調で告げた。


「しかしながら、国際的な評価を考慮しなければならない。ライヘンベルガー単独で、オステリアに軍を向けるのは避けたい」

「判っています」

「あくまで、ショウマの要請で、ライヘンベルガーはオステリアに加勢する。それまで、ライヘンベルガーはショウマの到着を待つ。それでいいのだな」


 カズマは間髪入れずに答えた。


「はい。兄ショウマは必ずオステリアに向かうはずです」

「分かった。それよりも、そちらの様子はどうだ」

「首都ジーゲスリードから出撃した暫定政府軍が、ハイネスに到着しました。すでに完全に包囲されています。こちらの4倍の兵力です。圧倒的な兵力差ながら、これまでのところ暫定政府の軍勢は、積極的に仕掛けて来ないです。このまま時間を稼いで、オレたちをハイネスに閉じ込めておく作戦と思います」

「カズマたちは、ハイネスで暫定政府軍の主力を釘付けにしてくれればいい。ショウマと合流次第、西のオステリアより局面を打開してみせる」

「お願いします」

「カズマ」


 オリバーが通信越しに、カズマの目を強く見据えた。


「問題が起きたら、ひとりで抱えていないで俺に伝えてくれ。カズマとショウマ、おまえ達ふたりは、俺の義弟なんだからな」


 オリバーの眼力はまっすぐで強かった。


「はい。ありがとうございます」

「お互いの武運を祈っている」

「義兄さんも」


 ジェムジェーオンとライヘンベルガーの通信会談が終了した。




 会議室の大きなモニターから、オリバー・ライヘンベルガー男爵の姿が消えた。

 カズマ・ジェムジェーオンとアンナ=マリー・マクミラン大佐は揃って、顔を見合わせた。


「これで良かったのか?」

「ええ。会談目的であるライヘンベルガー男爵との信頼関係の維持は、充分達成できたと思うわ」


 カズマは会談の内容を改めて思い返した。


「それにしても、オリバー義兄さんは、ますます人間的に大きくなったようだ」

「相変わらず剛胆で一本気な気性でありながら、一国を統治する君主としての貫禄が備わってきたように見えたわ。苦労の積み重ねながら、国を治めているんだと思う。その経験から、人間的に大きく成長している」

「そうだな。オリバー義兄さんは昔から頼りがいのある人だったけど、さらに、懐が大きくなったと感じた。こんなことなら、もっと早く話せば良かった。心のつかえが晴れた気分だ」


 アンナ=マリーが顔色を曇らせた。


「アンナ=マリー・マクミラン個人として、カズマに忠告させて」

「どうした? 急に改まって」

「あまり、ライヘンベルガー男爵を頼りすぎてはダメ。依存が過度に強くなれば、ジェムジェーオンにとって、新たな火種となる。国内の変事は自分たちの手で解決する気概でいないと」


 カズマは、アンナ=マリーの言葉に引っ掛かりを覚えた。


「マリ姐はオリバー義兄さんを信用していないのか」

「オリバー・ライヘンベルガーという人物は、信頼に値すると思うわ」

「そりゃそうだよな。結婚前のシオン姉さんに『あの人は信用できる人だわ』とお墨付きを与えたのは、マリ姐だものな」


 アンナ=マリーが少し照れた様子を見せながら、応酬してきた。


「茶化さないで」

「悪かったよ」

「いま、私が問題にしているのは、国家や公人という立場での話。ライヘンベルガー男爵も個人としての自分と、国主としての自分を使い分けている」

「兄貴もオステリアに向かう前、マリ姐と同じこと、オリバー義兄さんを過度に頼ってはいけないと言ってた」

「ショウマがそんなことを……」


 カズマの言葉に、アンナ=マリーが驚いた様子を見せた。


 ――兄貴もマリ姐も心配し過ぎだ。


 オリバー・ライヘンベルガーは信義に篤い人物だ。下手な小細工や駆け引きすることを良しとしない。


「兄貴やマリ姐は心配しすぎだって。オリバー義兄さんは家族も同然だ。家族同士が助け合うのに理由なんていらないだろ」

「私やショウマが伝えたかったのは、そういう意味ではなく……」

「それよりも、兄貴のことだ」


 カズマの関心は、兄ショウマの安否に向かった。


「ライヘンベルガー男爵の言葉からも、ショウマがオステリアに辿り着いていないのは、間違いないわ」

「となると、やはり、『赤の大地』クードリアか」

「そうなるわね」


 カズマはアンナ=マリーに頭を下げた。


「マリ姐、お願いがある」


 アンナ=マリーが即答した。


「カズマが直接出向くのはダメ。けれども、至急、クードリアに向けて、ショウマの捜索班を派遣する」


 ふぅ、カズマはため息をついた。


「分かった、頼む」


 ――兄貴、無事でいてくれ。


 そう願いながら、カズマは短く答えた。




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