妖かし行脚

柚木 小枝

プロローグ

バイト帰り、闇夜を駆ける人影を見た。


“人が飛んでる”


思わず発した俺の言葉を聴いた影は、そっと俺の前へと降り立つ。



「そうか、お前がそうなんだな?


 お前に恨みがあるワケじゃねーが。俺の為に…消えてもらうぜぇ…!」




この世に 光と闇があるように。

コインにも表と裏があるように。

全ての事象には対になる存在がある。


“ 世界にも 表と裏がある ”


そんな当たり前の事を

少し考えれば分かりそうな事を

この時まで俺は 知らなかったんだ。



◇◇◇◇◇



時は戦国時代。

戦の絶えない戦乱の世。人と人とが争い合う、そんな時代。

この世はまだ、人と人ならざる者…“妖かしあやかし”とが共存していた。

伝承によっては、“妖怪”、“物ノ怪”等と称される事もある。


そんな世の中であるからこそ

人々の争いが激化すると共に

人と“妖かし”との争いもまた、激化していた。


人も、“妖かし”も、自らの安住の地を求めて

己の生活の潤いを求めて

日夜 争いを繰り広げていた。


だが、それも戦乱の世が終わりを告げると共に

人と“妖かし”との争いもまた、終わりを迎える事となる。


“神の従者”とも呼ばれる者達によって

妖かし達は裏側の世界へと封じられた。



◇◇◇◇◇



それから時は経ち、現代。

妖かし達の住まう裏の世界。


一匹の大きな妖かしが暗闇の中、静かに語る。



「時は満ちた。今こそ、この数百年にも及ぶ忌まわしき封印を破る時が来たのだ。必ずや成し遂げて来い。」



闇に浮かぶ大きな妖かしは、九つに分かれた巨大な尾をゆっくりと動かしながら、手前に跪く者を見下ろす。

跪いているのは、九つの尾を持つ大妖怪に比べれば至極小さな妖かし。大妖怪の尾の一本にも満たない。人と同じぐらいの背丈だ。

小さな妖かしは、闇に笑みを浮かべながら静かに頷いた。



「御意。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る