異世界に召喚されたけど、とりあえず人権が欲しい ~ハイスペック亜人娘たちと行く異世界放浪記~
鍵崎佐吉
第一章 脱獄編
一.目覚め
それは突然の出来事だった。
体に何か違和感を覚えて目を開けると、まったく知らない場所にいた。
石の壁や床がむき出しになった地下牢のような場所だ。その薄暗い部屋の中、大勢の鎧を着た兵士のような人たちが、俺を取り囲むように並んでいる。何やら小声で話し合っているようだが、内容は聞き取れない。声が小さいのもあるが、どうやら日本語ではないように思えた。
兵士たちの中に、一人だけ小柄な老人がいた。フードをかぶっていて顔は見えないが、地面に膝をつき肩で息をしている。
異様な光景だったが、なんとなく放っておくのもはばかられた。老人に声をかけようと立ち上がる。
その瞬間、場の空気が変わった。幾人かの兵士が槍を手に俺に詰め寄ってきた。思わず数歩後ずさる。だがそんなことにはお構いなしに兵士は距離を詰める。
一人が素早い動きで俺のすねに蹴りを入れた。痛みで反射的にうずくまってしまう。その隙に兵士たちは俺にとびかかり、ものの数秒で床に組み伏せられてしまった。
痛い。確かに痛かった。ということは、これは夢じゃないのか? そんな、まさか。にわかには信じられない。
混乱する俺の前に、さっきの老人が近づいてきた。隣にいる少し豪華な鎧を着た兵士と何か話している。今度ははっきりと聞き取れたが、やはり言葉はわからなかった。
老人はゆっくりと俺の頭の上に手を置いた。明らかに不穏な空気を感じる。だが体は抑えられていて動かせない。そして——
「おい、起きろ!」
激しい声と共に目が覚めた。どうやら気を失っていたようだ。どういうわけか、頭の奥の方がズキズキと痛む。あたりはさっきとはまったく違う光景だった。
まず俺は大きな檻に入れられていた。とても内側からは開けられそうにない。部屋は広大で随所に煌びやかな装飾が施してある。檻のそばには着飾った軍人のような男と、俺の正面、少し離れた所に椅子に腰かけたおっさんがいた。
椅子と言っても、ニトリで売ってるような椅子じゃない。無駄にでかくて金ぴかのまさに玉座といった感じの椅子だ。そこに座るおっさんも実にふてぶてしく、まさに暴君といった感じのおっさんだ。つまり、多分暴君なんだろう。
「本当にこれが異界の民なのか?」
暴君風のおっさんは退屈そうに言った。
「は、確かにございます」
「だが姿は我らと大差ないぞ」
「お言葉ですが、この者は異界の知識を持っております。術師が直接確かめたので間違いありません」
異界の民。それは俺のことだろうか。状況的にほぼ間違いはないが、理解が追い付かない。そしていつのまにか言葉が分かるようになっていることに気づいた。
「お主、名は?」
おっさんは冷ややかな声で尋ねてくる。そうだ、俺の名は、俺の、名は——
「名は術師が消したそうです」
「なに? 何故じゃ」
「その方が都合がよいとか……。ですが、特に支障はございません」
名前を、消した。そんな、馬鹿な。だがどんなに考えても思い出せなかった。俺は、いったい誰なんだ。
「では、異界の様子はどうじゃ」
おっさんの声が遠くから響いてくる。だがとても答える気になれなかった。そうだ、きっとあの時だ。あの老人に記憶を消されたんだ。そしておそらく俺をここへ連れてきたのも、言葉が分かるようにしたのも——
「おい、答えろ!」
男が激しく檻を叩いた。部屋の隅で待機していた兵士たちが立ち上がるのが見える。まずい、怒らせたか。
「もうよい」
おっさんがため息交じりに言った。男は兵士たちに目配せしてから、おっさんに頭を下げた。
「申し訳ございません。どうやらこの者もいきなりのことで混乱しておるようです。直ちに問答ができるように躾けておきます」
「うむ」
おっさんは玉座から立ち上がり、ゆっくりと去っていった。そしてその姿が見えなくなった瞬間、男が檻を蹴りつけた。
「手間かけさせやがって、このウスノロが。その寝ぼけた頭、叩き起こしてやる」
俺は自分の置かれた状況について理解せざるを得なかった。どうやら俺は、異世界に連れてこられたあげく、奴隷にされてしまったようだ。
檻に布が被せられ、視界が黒一色に染められた。
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