空に釣り糸

 コバルトブルーの波間に釣り糸を垂らしている。

 俺の後ろで軽い掛け声と共に水の打つ音が聞こえた。振り返ると、副隊長がちょうど彼の腕サイズの鮮やかな青い魚を釣ったところだった。

 でかいの釣りましたね、と自分が声を掛けると、彼はこちらを振り返ってはにかんだような笑みを見せる。笑い方が意外に可愛らしい人なのだ。

 波はベタ凪ではないが、そこそこに白い釣り船を揺らしていた。




 かれこれ2時間ほど前のことだ。

 南方の沿岸地域の作戦に参加し、無事任務完了。青い綺麗な海にそわそわとしていた自分たちを見て、「では、3日後にホームで」と隊長の鶴の一声が掛かる。

 もちろん即刻帰還するものなど皆無であるとばかりにみんな我先にと海岸沿いの店に駆け込んでみたり、そもそも遊ぶ気満々で来たらしい奴はそれらを尻目にいち早く海に飛び込んだ。

 最近この『ナックブンター』へ入隊した自分はそれらの光景に圧倒されてしまい(だってまさか作戦自体よりも主目的で来る奴がいるとは思ってない)、さっぱり手持ち無沙汰になってしまっていた。


「お、暇か」


 唖然と突っ立っていた俺に声を掛けたのは、四本の釣竿を抱えた隊長だった。

 自分もいくつかの部隊を渡ってきたのだが、ここまで威圧感の無い「隊長」もいなかった。かといって、生ぬるいということではない。

 彼が持つ逸話では、時折耳を疑いたくなるほど手を出してきた相手に容赦ない仕打ちを繰り出していることがある。


「そうですね…… のんびりしてようかと思ってるところでした。

 どこかへ運ぶのですか。手伝いますよ」


 そんな恐ろしい人物でもあるはずなのに自然と力になりたいと思わせるような雰囲気も持っているのだ。不思議な人である。

 自分の申し出に、彼は「そうか」と笑って素直に抱えていた釣竿の半分をこちらへ差し出した。


「船の上でのんびりする気はないか」


 差し出しながら、彼はそう誘ってきたのだ。


「副隊長と例のバディと沖釣りでもしようかと言っているんだが、あいにく釣り船を出せるのが5人からなんだそうだ。だから、じゃあ磯釣りだなて言ってたんだが……

 お前が来てくれると、ちょうど船が出せる」


 船酔いする方でなければ、と隊長は言う。

 もしかしたら、この小さな隊長は自分がぽつねんと立ち尽くしていると見て声を掛けたのかもしれない。入隊以降、俺は隊長からこうしてさらりとした気遣いを貰っているような気がするのだ。

 そんな彼の厚意が自分にはありがたかった。そうして自分もオフのときの隊長と副隊長の間にある空気が好きだったのだ。


「いいですね。ぜひついて行っていいですか」


 自分はそう言って、笑って頷く。すると隊長はパッと顔を綻ばせて「良かった、ありがとう」と言うのだ。

 こんなことで隊長から礼を貰えるのならば、いくらでも付き合うというものだ。日常の些細なことでもこの隊長は感謝をしてくれる。そういうところが、これまでの「隊長」と違うのかもしれない。

 隊長は早速、副隊長へ連絡を入れたようだ。

 船着き場へ向かうと船頭と副隊長が何やら話を付けており、その傍らに背の高い2人がいた。

 …… それから、自分がこの隊長の誘いに乗った理由がもう一つ。


「要員調整ご苦労。今日は監視官にならなくていいのか」

「ふなよいしないひと?」

「釣り船調達ご苦労。『オフくらい遊んでこい』と監視席は占拠された。

 ああ、船酔いは大丈夫らしい」


 2人から声を掛けられ、それぞれに気軽に隊長は返した。

 こののんびりとした白い男はともかくとして…… 「よく暇な奴がいたもんだな」

 ニヤニヤと皮肉気に嗤うこの赤毛の男。

 この男を隊長が信頼している理由が、いまだ自分には腑に落ちていなかった。




 そんな人間が存在するのか、と思っていた。

 自身の戦闘スキルも低くはないものを有し、それ以上に兵器・交渉・戦略の広範囲で深い知識と見識、あらゆる状況への対応能力、話術、…… 知識スキルにおいてはほぼ万能と言っていい。

 更に不可解なのは、そんな人間が一傭兵として軍の配下にいることだ。その気になれば本隊を乗っ取ってしまえるのではないか…本人がそうせずともこの人間なら、使

 少なくともこの人間は、既に物理的最強の相棒を隣に据えている。


「晴れてるなぁ」


 ドドド…… と重いが心地よいエンジン音を響かせて進む船の舳先で、隊長が空を仰いでのんびりと呟いた。

 その傍らから副隊長が答える。


「スコールが来なければな」

「あれ辛いよな」

「作戦中は勘弁してくれと思う」

「お前でもそう思うのな」

「誰だって思うだろう。このあたりの作戦でスコールの時期に遭遇しなかったときは、神に感謝すらするぞ」

「え、そんなに?」


 副隊長の意外な発言に、隊長が噴き出した。その斜向かいで、自分も思わず笑ってしまった。

 冗談だったのか本気だったのか、副隊長も軽く笑いながら「そんなにだ」と返す。

 オフのときの副隊長と、戦場の副隊長では、まるで別人のように纏う空気が違う。戦場での彼は、味方だというのに迂闊に前に出れば撃たれそうな鬼気迫るものがある。

 雑であったり無謀であったり怒鳴り散らしているわけでは決してない。ただひたすら、触れたら切られそうな空気があるのだ。

 そして、そんな副隊長にいつものテンションで声を掛けられるのが、この隊長なのである。

 

「眩しくないか。帽子、貸すぞ」

 

 ふと、見つめてしまった自分に気付いたらしい。隊長は首の後ろに掛けていた麦わら帽子を指して立ち上がった。俺が眩しそうにしているように見えたのか。

 自分の被っていた帽子を脱いでこちらに被せようとするので、「大丈夫です」と慌てて押し返した。

 

「べつに、まだ船室にあるから、これ被っていいぞ」


 隊長の勘違いであるにはあるのだが、かと言って、では俺が何故彼を見ていたのか理由を聞かれた場合もそれはそれで回答に困る。

 俺は眩しかったことにした。


「自分が、船室から持ってきます」

 

 隊長の手を取って、そのまま帽子を被せ直すと「そうか」と、どこかきょとんとしながら頷いた。

 さほど隊長という立場を気にしていないのだろうか。彼の他人への接し方自体は、上も下もなく極めてフラットだ。

 見た目よりずっと歳を重ねているとは聞いているが、見ている限りはいつでも、誰に対しても、その対応は変わらないように見えた。

 戦場での鬼のような副隊長の傍らに、この鷹揚とも取れるフラットな隊長がいることで、かなりのストレス軽減となっている隊員は少なくないだろう。

 これで隊長までピリピリしていたら、とてもではないがあの空気に耐えられない。

 かと言って、この隊長だけでは戦場には緩すぎる。

 きっと2人が揃ってちょうどいいのだ。


「キャビネットの横に引っかかってるはず」


 船室へ向かう自分へ、隊長が教えてくれた。はい、と片手を挙げて応える。

 彼は、そして、自分の持っているものを躊躇いもなく人へ差し出すような人間なのだ。

 人が好い、という表現にとどまらない。それは旧い隊員から聞くいくつもの容赦ない逸話と同じくらいの割合で聞いていた。


「酔ったか」


 俺が船室に入ろうとしたとき、船尾の方で屯していた赤毛が嗤いながら俺に声を掛けた。

 少なくとも隊長が一目置いている人物を無視するわけにもいかない。


「慣れている」

「そうか。その割には、乗船のときの足取りは突っかかっていたようだな」


 ふふ、と彼は嗤う。嫌なところをよく見ている男だ。

 この男を口で負かせるわけがない。自分は彼が次を続ける前に船室へと入った。

 隊長の言う通り、小さなキャビネットの両側に付けられたフックに帽子が掛かっている。その乾いた藁の帽子を手に取りつつ、考える。

 たとえば─── あの男が、あの、ある種自己犠牲の塊みたいな隊長を利用して何かを企てているのではないか。

 自分には彼がこの隊に籍を置いている理由が、そう思えてならないのだ。




 船の上空を海鳥が飛んでいる。やはり、このあたりは魚がいるということだろう。

 水平線は空と同化しているようで、ともすると距離感があいまいになりそうだ。


「酔ってないか」


 のそ、と自分の隣へ副隊長がやってきた。

 酔ってはいないのだが、先ほど赤毛の方にもそれを尋ねられたので、自分は不慣れを心配されるほど下手な乗り方をしたのだろうかと少し気になった。


「いえ、大丈夫ですが。…… そんなに危なっかしく見えましたか」

「うん?」


 そっと尋ねてみたのだが、副隊長は小さく頭を傾げた。どうやら自分の思惑違いだったようだが。

 ではなぜ尋ねられたのかと思いながら副隊長の空色の双眸を見つめ返してしまった。

 すると副隊長は俺の心情を察したのか続けて話す。


 「ああ…… 隊長に誘われたら断るのも難しいだろうかと思ってな。

 もし、苦手なのに付き合っているのならと」

 「そんなこと…… うちの隊にそんなタマの人間がいると思いますか」


 副隊長の懸念に自分は笑って返した。副隊長は、何某かの間を空けて「そうだな」と苦笑いをして頷くのだ。

 彼は何を思ってそれを言ったのだろう。ずっと隊長の傍にいた人物だ、まさか、隊長が無理を言うような人間ではないことを、彼が一番良く知っているはずなのだが。


「入隊して間もなかったのでな。俺が気にし過ぎた」


 そう言って副隊長は自分の肩を叩いた。ああ、なるほど。その理由はこの人らしいと納得した。

 普段の副隊長は細かすぎるほど気が回る。それが癖なのではないか、いやいっそ癖であって欲しい、いちいち気を張っているのならば心身すり減らしてしまわないか…… と心配になるほどだ。

 その矛先は概ね隊長に向けられてはいたが、あの怒涛のような配慮をさらりと受け流せるのも彼くらいなものだ(…と思っていたが、やはり少し前までは、隊長も引き気味であったという話だった。どうやら、この2人の関係がここまで和やかになっているのは、割と最近の話しのようなのだ)。

 ともあれ、隊長とは真逆で、戦場とのギャップが激しいので、最初の頃は自分の目を疑った。

 だが、よく考えれば、あの緻密な戦略は副隊長の考案であって、普段の気の遣いようがそのまま反映されている。根っこは同じ人物なのだ。


 「自分のことは、あまり気にしないでください。のんびりやっていますから。

 それより、隊長は」


 さっきまで副隊長の隣で釣竿を振っていたような気がしたが、ふと気づけばあの小さな背中が見当たらない。

 ふむ、と副隊長は頷いて、船室を示した。


「酔っている奴がいてな」


 え、と思い甲板を見渡したが、自分と副隊長と、そして白い頭が見える。

 副隊長の様子からして、酔っているのが隊長ではないと見受けると─── 、さっき、自分にドヤ顔で「酔ったか」と言ってたじゃないか……

 「ちょっと様子見てきます」と副隊長に断って、自分は船室の方へと向かった。




 船室の扉を開ける間際、中から楽し気で軽い隊長の笑い声が聞こえた。

 それは、初めて聞く子どものような笑い方で。

 自分は扉を開けるのを逡巡するほど驚いた。決して隊内で笑わないということじゃない。

 隊長の外見からしたら、逆にそういう笑い方をする方が想像に容易いはずなのに、これほど内心驚いている。それほど、普段の彼は、見事に『隊長』だったのだと。

 ─── 思い知らされた。


 「……おお、どうした」


 勢いで開いてしまった扉の向こうで、一瞬にして、いつもの隊長の顔で笑う彼がいた。「お前も酔ったか」

 ふふ、とからかうように隊長は笑うのだが。

 船室は入ると両側に簡易ベッドがあり、片方に自分たちの手荷物が置かれている。ベッドの間に椅子が二脚。その一つに隊長が座っていて、荷物置きとは逆側のベッドに赤毛の頭が転がっているのが見えた。


「いえ…… 船酔いは大丈夫かと思いまして」

「なんだ。随分仲良くなったのな、お前ら」


 ん?と傍らに寝ている男に、いつもその人物がするようなニヤニヤとした笑いで声を掛ける。赤毛が何かを言っているのだが、あまりに声が小さくて、自分には聞き取れなかった。

 「素直じゃないな」と、それに隊長が返しているので、少なくとも肯定的な返事では無かったらしい。


「眠るとすっきりすると聞いたぞ。少し寝ていろ。

 窓開けておくからな。なんかあったら頑張って声出せ」


 酔ってる人間に向けるにはそこそこ無茶なことを言って、隊長は椅子から立ち上がり、船室の窓を開ける。そうして、寝ている彼の肩をポンポンと叩くと。

 ひらり、と赤毛の彼は手を挙げたのだ。

 それにもまた、自分は驚いた。


 「…… あの人、酔うんですね」


 船室から出て、自分は傍らの隊長へ思わず呟いてしまった。

 うん?と隊長はこちらを見上げて、「そりゃな」と笑ったのだ。


「どうやらこういう小さな船はあまり乗る機会が無かったらしいし、そんなんで波を見ちゃったらな。

 一発で酔うわな」

「波を、見た?」


 ぎょっとした。正真正銘、本人にしっかりとバレていた海慣れしているわけではない自分でさえ、そんな自殺行為をしようとは思わない。

 驚く自分に、隊長は、そこはかとなく(それはまるで秘密を知っていることが)嬉しそうな笑みで、理由を答えた。


「波がきれいだから、見てしまったんだとさ。

 波を見ると酔うなんてこと知ってるはずなのに、油断した、忘れてた、てさ。

 それほど、きれいだったんだろな」

「………」


 あまりに単純な、単純すぎる理由に、自分は唖然としてしまった。

 隊長は開けた窓から船室を覗き、小さく笑っていた。先ほど、彼にしては無茶振りをしていたが、おそらく一番の目的は外から見守れるように窓を開けたかったがためのセリフだったのだ。

 自分が知っている隊長の素振りである。それだけに、扉を開ける間際の隊長の笑い声が鮮明に聞こえてしまう。

 あの赤毛に向けた笑い声だった。何か2人で話していたのだ。あんな酔い方をしながら、隊長と話していた。部屋を出て行くときに隊長へ軽く手を振っていて……


「………」


 覗いた窓から見えた彼は背を向けていて、その表情は見えなかった。


「こら、アルパカー」


 のんびりとした隊長の声が聞こえてきた。

 振り返るとその先で白い彼も隊長の方を振り向いている。


「帽子被れって言っただろ。お前、ただでさえ色白いんだから、日に焼けたらひどいぞ。

 上着はどうした上着は」

「あつくて」

「だめだってば」


 釣竿を握る白い彼は確かに半袖Tシャツだ。頭上からの日差しに白い髪がキラキラとしている。

 隊長はまず帽子を彼に押し付けて、それから自分が羽織っていたパーカを脱ぎ彼の肩に掛けた。


「たいちょは」

「俺はお前よりは焼けても平気だ」

「たいちょ…… これ、また、おーばーさいずだったの…」


 掛けられた上着に袖を通した彼は、さほど違和感のないサイズに思わず呟いたようだ。そういえばずっと隊長は腕まくりをしていたな。

 それから彼は前開きのその上着をひらひらと開いて、


「……… はいる?」

「入らないなあ」


 などと隊長に尋ねていたが、さすがにそこに収まるほどには隊長もコンパクトではなかろう。

 ゆるゆると首を振る隊長に、なんとなく残念そうに「はいらないかあ」と呟く。


「隊長、上着は」

「向こうにタオルがあるから、それを頭から被ってれば平気だ」


 ジャケットを渡してしまった隊長を自分が気にすれば、彼はするっと代案を提示する。自分のものは差し出しても誰かからのそれは受け取ることをしない。

 あっついなー、と言いながら、隊長は釣竿を置いている舳先の方へと歩いて行ってしまった。


「…… だいじょうぶ」


 隊長の背中をぼんやりと見つめながら突っ立っている自分へか、白い彼がぽつりと尋ねた。


「あ、ああ…」


 俺が頷けば、彼は「そう」と言って釣り針へ生餌を付け始めた。その手付きが、少しもどかしい。


「釣りは初めてなのか」

「うん」


 ゆっくりと彼は頷く。

 初めてなのか。それはそれで驚いた。


「餌の付け方は、分かるか」

 

 餌の付け方や竿の振り方を、隊長か副隊長が彼に説明していたような様子はなかった。

 面倒見のよい2人らしくもない戸惑いつつも思わず自分がもろもろを手伝おうとすると、白い彼はふと顔を上げて、自分を見た。

 

 「さいしょに、から、ひととおりきいたから、だいじょうぶ」

 

 …… なるほど、と思った。だから、あの二人は、この白い彼になにも言わないのだ。相棒に任せたのだ。

 船室を振り返る。

 隊長だけではない。あの気遣いの副隊長もまた、彼に少なくない信頼を置いている。

 現実味のない万能。

 人格破綻者。

 しかして、自分が信頼をしている人から、大きな信頼を寄せられている。

 隊長の笑い声。

 波がきれいだからと……

 

「不思議な人だ」

 

 ぽつりと零れてしまった自分の呟きに、白い彼がかたりと頭を傾げた。

 しかし自分もまた、この奇矯な感覚をなんと説明すればいいのか分からなかった。安堵とも好奇心ともつかない、ましてや納得には方向が違うような気がする。

 

「相棒の傍にいなくて、いいのか」

 

 代わりに別の質問をすると、彼はぼんやりと頷いた。

 

「あいつが、じぶんのぶんも、つっておけ、ていったから。

 おゆうはん、ちょうたつしないと、あいつがこまる」

 

 ぽつぽつと、語られるその理由に、ふんふんと俺は相槌を打つ。なんて和やかな理由。

 

「だめなときは、だめ、て、ちゃんというやつだから、いまは、だいじょうぶ」

「そうか」

 

 普段、隊長と白い彼が一緒にいる様子を見ていても、そのゆったりした空気は伝わってはいた。だが実際に呑まれると、風景まで変わってきそうなくらいだった。

 ゆっくりした時間だ。

 もう一度船室を振り返る。

 こんな人間と一緒にいるのだ。

 

 自分は…… 彼らの何かを見落としているのだろうか。

 

 ふわふわとして掴みかねる疑問か、答えか、自分が抱いている懸念に明確に返すものはない、が。

 それとは別のところで、自分の中の赤毛の彼に対する印象は、間違いなく変わったのだ。

 

「相棒、料理が上手いのだっけ」

「うまい。たべる?」

「自分も手伝うから、一緒にいいか」

「うん。みんなで、たべよ」

 

 軽々と、何かを越えていく。

 たいちょー、と白い彼が舳先の方へ声を掛けた。

 きっと今日は賑やかな夕飯になるのだろう。

 それでは、気張って魚を釣らなくてはならない。

 

 空のような青い波間に、掛け声をひとつ、釣り糸を投げた。



(空に釣り糸 了)


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