第13話 家政"夫"と自覚した雇用主

「京介さん、あのぅ。僕がいない方がいいようでしたらこれで僕は部屋に戻りますね?」


マスカットを机に置き、康太は部屋へと去ろうとした。

帰らせたくない京介は、康太の腕を掴んだ。


「行くな!」

立ち上がり思わず康太を抱きしめる


「え?え?え……」


康太はパニック


「海斗のことが気になるのか?海斗のことが好きなのか?あいつはダメだ。あいつを好きになってはダメだ!」


「ん?京介さん?誰が誰を好きって?僕が海斗さんを?えっと何で海斗さん?

 ……あ!名刺?名刺を見てたからですか?

 好きとかそんなんじゃないですよ、あれは。

 児童養護施設って書いてたので僕は一度もそういう施設に結局行ったことないのに勝手なイメージで怖い所だって思ってたんですけど、海斗さんが園長としてやってるなら、もしかしたらいい施設のところもあるのかなって。

 一体どんなところなんだろって考えてみてただけですよ」


「それだけじゃない、エプロンの紐……あんなことされて康太、顔が赤くなってた」


「そりゃあんなことされたらドキドキしちゃうじゃないですか!」

「ドキドキ?」

「はい。でもどうしよう?くらいに思ってのドキドキで……そんな好きとか……そんなじゃないですよ。

 それを言うなら今のこの状況のほうがドキドキしてますから……」


強く抱きしめている手が緩まない京介。


  この状況……確かに。

  俺は康太を海斗のところに行かせたくなくて

  勝手に康太を抱きしめてる。

  離さなきゃ……

  けど離したくない、離れたくない


  あぁ、そうか、俺は康太のこと好きなんだ



自分の気持ちにやっと気づいた京介。


「海斗のことは本当に好きになったり気になったりしてないのか?」

「はい、そんなんじゃありません。」


「じゃ俺は?」


「京介さんのことですか……?」

「いや、いい、今は答えるな!答えなくていいから。

 よし、ゲームでもするか?」


「はい、早くしましょうよ。僕、FFって初めてなんですから!」

「おまえ、俺よりもゲームが好きなのかよ……」


ボソっと呟きながら手を離し、2人でゲームを楽しみ始めた。



 2人仲良く絨毯の上であぐらになってゲームを楽しむ。一日の中で今では1番幸せを感じる時間だ。

 ときにはツッコミのつもりで康太の肩に手をまわす


「おい康太!」

「すみません京介さん。あはは…でもこれよくないですか?ほらほら、これ。」

「何だよそれ、何でだよ!」


 康太が可愛くて仕方がない京介。座ってゲームしている康太の姿を見ているともっとそばに行きたくなった。お互い隣にいるのに、ほんの少ししかない足と足の隙間ですらもっと近くに行きたいと思わせた。そこで後ろから抱きしめてみる。

 突然の行動に固まる康太。

 頭の中はゲームどころではなくパニックだ。


「きょ……京介さ……ん?」

「ほら、ゲームに集中して!死ぬぞ!」

「え?あ!あ!あぁー、もぅ……。ほら、つぎは京介さんの番ですよ?」

「おぅそうだな」


 京介は康太を抱え込んだままの状態でコントローラーを握りゲームをする。

ゲームに集中できないのは京介もおなじ。すぐに死んでしまう。


「ありゃ……これはダメだな。康太やっていいよ」


そう言って康太の顔を覗き込んだ

 康太は、顔を真っ赤にして少しうつむいている


「康太、この体勢はイヤ?」

恐る恐る聞いてみる


「いやでは……ないです」

恥ずかしそうに答える康太


「嫌じゃないの?」

「……はい」


康太は、今にも心臓が飛び出しそうなほど緊張していた。

京介はコントローラーを置き、康太にさらに詰め寄る


「本当に?本当に嫌じゃない?」

「……はい」

「じゃ、もう少し抱きしめててもいい?」

「…………はい」


 康太が照れているとわかると、より一層可愛く感じる。京介はさらに密着度を増すようにお尻をグイグイと動かして体全体これでもかというくらい密着させて座り抱っこをしてみる。

 するとちょうど康太の肩にあごを乗せられた。

 ふと康太の髪からシャンプーの香りがした。


「あぁいい匂い。俺と同じシャンプーの匂いだ」


「当たり前ですよ、このまえ僕のをお風呂に持って行ったら京介さんが『俺のを使え』って言ったんじゃないですか。だから今回は自分のじゃなくて、京介さんのを借りてみました。

 しかし本当にあんな豪華なところを使わせてもらっていて良いのでしょうか?」


「いいんだよ、1人しか使わないのに毎日洗ってもらうのも悪い気がしてたし。

 それに……」


京介は再度康太の頭部を嗅ぐ


「あーやっぱりいい匂い。

 俺さ、シャンプーやボディソープとかって匂いが気に入ったやつを買って使ってるんだよね。だけど、自分に使ってたらあんまり匂いって分かんないんだよな。だからこうやって康太を嗅ぐと、あーこんな風に周りには俺の匂いは感じてもらえてたのかな?て思えるんだよね。うん。なんかやっと嗅げたよ。ありがとう。俺うれしいわ」


「喜んでもらえてるのならよかったです。

 京介さんのこのシャンプーとかってほんといい匂いしますよね。

 僕密かに憧れてたんですよ。なんかこれいいなーって」


「マジ?康太も気に入ってくれた?よかった。

 これほんといい匂いなんだよね。康太、もう少し嗅いでもいい?」


「もっとですか?…………いいですけど」


許可をもらえた京介は再度康太の頭部から嗅いでいく。


 ゆっくりと…………

 丁寧に鼻頭を康太の頭部へ…………後頭部…………耳…………

 そしてゆっくりとゆっくりと首元へ……


 まるで愛撫されてるかのような行為に康太はうっとりとし吐息が漏れそうになる。


「はぁぁ……………」


京介は康太の首へキスをする


「あっ!」


 ついに声が出てしまった康太は慌てて口を押さえる。さらに自分の下半身が隆起していくのがわかり京介の手を振り払い立ち上がる


「京介さんそれ以上はダメです、ほ……ほらこんな時間ですし……ゲ……ゲ……ゲームはまたにしましょう、おやすみなさい」



 机の上にある飲み物などをお盆に載せ急いでキッチンへと向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る