フェアリー・コンプレックス!~恋愛相談は恋のはじまり?~

露草

プロローグ

夕暮れの校庭には人がまばらだった。

すれ違うあたしを誰も振り返らない。最短距離ですり抜け、やがて目的地に辿り着く。

約束通りレンはそこにいた。

「準備はできたのか?」

レンが耳元に口をよせて、そっとささやいてきた。

「ばっちりよ」

ウインクを決めてみせる。

倉庫の物陰で、あたしとレンは息をひそめて待っていた。

中庭にはひとりの男の子がぽつんと立って、落ち着かないそぶりで辺りを見回している。

しばらくすると足音がさく、さく、と聞こえてきた。

やがて足音の主が現れる。男の子が、あたしとレンが、待ち望んでいた女の子。

不安げな顔をしているけれど、瞳はまっすぐに輝いていた。

──頑張れ、愛那……!

あたしが目を閉じて祈ると、

「なあ、プリメール」

「何、あんまり喋らないで。姿は視えなくできても」

「声までは消せない、だろ。──ひと言だけだ」

レンが再びささやいた。

「プリメール。ありがとうな、一緒に応援してくれて」

あたしは目を開けた。

すぐそばにレンの顔がある。

優しく微笑むその顔に、胸がどくりと鳴った。

「べ、別にっ。これがあたしの役目だもん」

あたしはふいと目をそらす。

「ほら、耳を澄まして。始まるわよ」

中庭を覗き込むと、愛那と男の子が黙って見つめ合っている。

愛那が口を開いた。

「わたしは──」

それが合図だった。

あたしはレンの肩に乗り、羽を広げて息を吸う。

吐く息に光を灯すと、その光はふわふわと舞って二人を包み込んだ。

どうか。

どうかこの光が、あなたの恋を祝福しますように。

手を組んで祈るあたしとレンの耳に、彼女の声がはっきりと届いた。



「あなたが好きです」





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