茜色した思い出へ~姉の写真~

大月クマ

千里眼と順風耳

 茜色した思い出へ~姉の写真~


 おはようございます。こんにちは。こんばんは。加納かのう紅葉くれはです。

 姉の青葉あおばともども、オマケ・エピソードでお世話になっています。


 えっ!? 吸血族の今須いますくんの話を聞きに来たのに、何故、私の話になっているか?


 ん~難しいことを聞きますね。


 製作の都合、ということで――と、言われているからなぁ。

 貴方のいいたい事は判るわ。


 オマケ・エピソードのキャラは引っ込んでいろ、でしょ。

 でも、今須くん達の話に少しは、青葉ともども、関わっているから少しは聞いて下さい。


 私は普通の人間でした。

 ですが、ある日、『順風耳じゅんぷうじ』という力を手にしてから、要らないことがどんどん聞こえてくるようになりました。


 能力の実際の名前は、手に入れてから知ったのですけれど……順風耳だろうというのは、私の推測。同時期に姉、青葉がいわゆる『千里眼』を手に入れたのです。

 千里眼も、これも本人の便宜なのですが。本当のことはよく分かりません。


 遠くのものを見え、さらには未来さえも。それに念写ねんしゃだってできます。


 青葉ってスゴいでしょ! あッ! 私、紅葉の話だった。


 青葉がモノを見ることに特化したのとは違い、私のほうは聞くこと。


 遠い場所の情報が頭の中に飛び込んできます。それはもう大量に……その力を手に入れたときは、自分の周りにもの凄い数の人達がいて、一斉に話しているように感じました。

 今では聞きたい人の事だけ、聞き分けることができるようになりました。


 特に、青葉の事。


 青葉は昔から落ち着きがなく野次馬、千里眼を手に入れてからは、それが激しくなってきました。

 あっちこっちお邪魔しては、新聞記者のような振る舞いもして、勝手に「スクープだッ!」と叫んでいます。

 それを聞きつけるのが私の役目。

 青葉を押さえて、人の知られないことをもみ消すことが最近の日課です。


 ところで、なんで私達がこんな力を手に入れたか、不思議に思うでしょう。


 それは偶然のこと。小学生、最後の日でした。


 その日は、姉と母と一緒に卒業式を終えて、帰宅していたときでした。

 赤信号で止まっていた母が運転する軽自動車に、後ろから居眠り運転のトラックに衝突。その勢いで、十字路を突っ切り、斜め左の家に突っ込んでしまった事故がありました。

 幸いにも3人とも軽症ですんだのですが……何故か青葉と私は昏睡状態のままで、起きる気配がなく、ベッドに寝かされていました。


 来月から中学生だというときに、そんな状態だったんです。


 母はもちろんヒドく落ち込んでいた――自分の所為ではないのに――ことを、父から

 原因不明の昏睡状態が続いて、1週間後、ふたりはほぼ同時に起きたのです。


「さすがは双子」


 と、のが……その時、青葉ともども妙な力が目覚めました。


 青葉は『千里眼』、紅葉は『順風耳』と……


 私は先ほどいったとおり、周りでみんなが大声で叫んでいるのだから、ヒドい頭痛で動けません。意識はあるのですが、布団を被っても四六時中聞こえる声に、怯え混乱しました。

 青葉のほうは、すぐに適応したそうですが……千里眼のおかげで、看護師に「気をつけないと花瓶を落としますよ」や、お医者さんに「奥さんが別の男の人といます」と、見えたものを口にするものだから、病院関係者に気持ち悪がれていたみたいです。


 それもあってか、青葉のほうが先に退院しました。


 私のほうは相変わらず……

 でも、毎日のように青葉は学校帰りに見舞いに来てくれました。いろいろと、目にしたと共に……もちろん、始まった中学生活のことも話してくれました。


紅葉このは、早くよくなって一緒に学校、行こッ!」


 青葉の笑顔を見ていて、少しずつ力をコントロールできるようになってきました。

 ただ、同時に聞こえてくるのは、青葉が学校で浮いていること。

 千里眼で人の知られたくないことも、喋るモノだから仕方がありません。疎まれ、イジメ寸前まで来ていたのですが、私の前ではいつも笑顔を見せていました。


 ――私が、青葉を押さえないと!


 いつしかそれが私の目標になり、体調も落ち着きはじめたときのこと。


「最近、ハマっているんだ!」


 と、青葉は古めかしいカメラを見せてきました。デジタルカメラでも、スマホでもなく、フイルム式の古いカメラ。


「フイルムじゃないとできない」


 とのこと。

 千里眼を使った念写だそうです。

 そして、青葉が1枚の写真を渡してきました。


 映し出されていたのは、ピンボケした茜色の写真。

 どこか南国なのでしょうか? 椰子の木のようなモノが写り、夕日をバックに記念撮影をしているようです。真ん中の人は……恐らく私かな? ただ、写真の4分の1を夕日の反対側から、のぞき込んでいる人が……青葉か!? レンズをのぞき込んで写り込んでいます。


「いつか、一緒に旅行に行くときの写真だと思うんだけど……これ以上、上手く撮れなかったんですよ」

「じゃあ……いつかちゃんとした写真を撮りに行こ!」

「ですね――」


 照れくさそうに笑っている青葉が、忘れられません。

 その後、私も『声』を上手くコントロールできるようになり、退院することになりました。青葉の時のように厄介払いではなく。


 こうして、ふたりで中学に通うことになりましたが……青葉は周りの迷惑も顧みず、カメラを持って走り回り、記者ごっこ。あまりにも突っ込みすぎるときは、私が聞きつけて止めに入るという事になったわけです。


 ところで、あの日、青葉が渡してきた茜色の写真。


 あれは私の宝物として、額に入れて机の引き出しに隠しています。

 両親が青葉の千里眼……特に念写を気味悪がり、ほとんどを捨てたからです。月の裏側との写真、「アメリカの秘密基地エリア52!」といってだだっ広い地下室――



 高校生に上がってからも、相変わらず周りに迷惑をかけてばかりですが……青葉ともども、よろしくね!


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