第11話 維新君には食生活を整えてほしいな
維新君は網の上の肉を掻っ攫い、ご飯と共にぺろりと平らげた。そして、真面目な顔つきで僕に話しかけた。
「宗助さんが何なの。さっきの話じゃあ見込みのある奴に声かけるって?」
維新君から話題を進めてくれてくれるなんて有難いなあ。僕も改まって口を動かした。
「僕はね、維新君にも声をかけてもらいたいの」
「適性なくね? 強くないし」
維新君は細い腕をぷらぷらと振った。ラーメンを主食にした食生活で強くなれる訳がないよ。たんぱく質が絶対足りてないよ。他にも足りてないのいっぱいあるよ。
「タフでしょ。マイペースなのも良いよね。あとねえ、……桜刃組のことどうやっても無視できないでしょ。向き合った方が楽になれるんじゃないかな」
維新君が目を丸くして、息を詰まらせた。ちょっと意地悪に聞こえちゃったかな。安心させる為に微笑むことにした。
「まあ何せよ、僕としては君が来てくれると嬉しいな。君の事気に入ってるし」
維新君は相槌もせずに俯いた。
沈黙が怖くて、言葉を重ねた。
「……声をかけるのは宗助さんにやってもらうつもりなんだ。その時にさ、お父様の事聞いちゃいなよ。僕も色々話したけどさ、当事者に聞いた方が良いよ」
猩々屋
優作さんから聞いた平和な話もあった。蕎麦を食べる時に七味を振っていたら瓶の蓋が取れて全てかかったが何も言わずに食べ切ったとかそんな話。その話をチョイスする優作さんの天然具合が伺えたが、善継さん自体の人間性は掴みにくかった。優作さんも彼の凶行を間近で見続けたから、もうそれ抜きで彼を見れないという所もある気がした。
宗助さんは幼少期を善継さんと兄弟同然に過ごしている上、壊れてしまった彼は見ていない。だから、僕らが見えない部分を語ることができるんじゃないだろうか。そして、それを聞くことで維新君の中で蟠り続けている家族に対する困惑が昇華されるんじゃないだろうか。
維新君が自分の顔を両手で覆った。それから前髪をぐしゃりと引っ張った。小さな肩が微かに震えた。指の合間からくぐもった声が聞こえた。
「……宗助さんと話したら、安藤に相談するかも」
「すぐ飛んで来るね」
維新君は体勢を変えずに話し続けた。
「その時に頼むことがある」
「何かな?」
「舌ピアス開けてよ」
忘れてなかったのか。まあ、でもこれから頑張ってもらうことになるから、折れてあげることにした。
いいよ、と三音紡いだら、維新君が嬉しそうに顔を上げた。こういう所がタフなんだよねえ。
落ち着いたら、清美君が桜刃組に馴染んだら勉強しよう。そう思っていたのに妙に気になってしまった。結局、帰りの電車では清美君のことよりもピアスのことで頭いっぱいになる羽目になった。ううん、変に気負ったり期待したりするよりも良かった……と思うことにした。
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