次の冬になるその日まで

ユリィ・フォニー

第1話  

雪が降ったある日のこと。

私(風上楓)はお父さんの会社に傘を届けていた。

温暖化が進む中、この町で雪が降るのも珍しい。

もちろん天気予報も前もって見ていたが誰も気にすることなく出かけていった。

その結果がこれ。

少しは天気予報を信用すればこんな面倒なことにはならなかったのかもしれない。

『まもなく次の停車位置に止まります。降りる方はボタンを押してください』

『あ、ここか』

ボタンを押し、父が働いている会社前にあるバス停にバスが止まるのを確認する。

運転手さんにお金を払うと扉が開いた。

『わぁっ』

入ってきた白を纏う空気は私の頬を掠める。

外には一面の雪景色。

私は傘をさすことも忘れてバスを降りる。

実際に雪を見るのが初めての私には何処か違う国に来たようにも思える。

我を忘れて走り回ること5分。

私は思いっきり転んだ。

なんなら顔からいった。

うぅ…痛い。

氷が本当に滑ることに実感が湧く。

それにしても…。

立てない。

地面がツルツルと滑り立ち上がるのが困難だ。

手袋もしない手で地面を触ろうとするなら多分冷たくて火傷するだろう。

誰か…助けて〜。

心の中で見知らぬ誰かが助けてくれないかと祈る。

神様とは優しいもので、すぐに周りにいた女の人が駆けつけてくれる。

『大丈夫?』

『うぅ…はい。なんとか』

『手を』

女の人の手を取りなんとか立ち上がる。

体が痛い。

『あなた、なんでこんなところにいるのよ。子供はもう帰るべき時間よ』

『すみません。父にこれをー』

声がうまく出なかった。

それほどまでにキレイだった。

雪景色以上に。

すっごい美人。

透き通った肌に、大きな瞳、髪は長い茶色。

絵に描いた美人とはこのことだ。

『どうかした?』

『あ、いえ』

思わず見入ってしまった私を心配してお姉さんが心配してくれる。

『それで。どうしてここにいるの?』

『ええと、これを届けに』

私はお姉さんに傘を見せる。

『お父さんの?』

『はい。あの会社に勤めてます』

私が指差す先には周りのビルなど到底敵わない一番高いビルがあった。

お姉さんは意外そうに目を丸くした。

『あ、あれうちの会社だけど。まさか、子供がいる人がこんな時間まで出勤してたなんて。名前は?』

『風上です』

『あ、海雄くんか。わかったわ。すぐ呼ぶから少し待ってて』

そう言ってお姉さんはスマホを耳に当ててお父さんに電話する。

『もしもし私だけど。今すぐ外に来てくれる?あなたの娘さんが来てるのよ』

お姉さんがスマホをしまう。

5分程待つとお父さんが走ってきた。

『はぁ…はぁ…すみません社長。わざわざ連絡してもらい…』

『別に気にしないわ。それより娘さんがいたのね。奥さんは家?』

『いえ、娘を産んだ時に他界しました』

『そう』

お姉さんの視線が私に向く。

『あなたいつも家に一人でいるの?』

『はい』

『なるほどねぇ』

お姉さんはそれ以上話さなかった。

『楓。そろそろ遅くなるし帰りな。傘ありがとな』

『うん。お父さん朝までには帰って来てね』

『そう…だな』

『それじゃあ、帰るね。お姉さんもありがとうございました』

『じゃあね楓ちゃん。道中気をつけて』

『はい』

私は次のバスになって自宅へ帰った。


自宅にて

プルルル…プルルルと、リビングで電話が鳴っている。

『はい。風上です』

『あ、楓ちゃん?さっきあったお姉さんだけど。明日のお昼頃会社の前の喫茶店来れる?』

『あ、はい。明日は特に用事もないので大丈夫です』

『それじゃあよろしくね』

通話が切れる。

『なんだろう…』

何も知らない私はただ考えを巡らすだけだった。

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