midnight5②

 脳内の備蓄品を絞り出すように、眉間にしわを寄せて沈黙する類。しばらくして、不意に快活な表情になって指を鳴らす。

「思い出した。キメラの前身にあたる組織の一つ、ウロボロスの頭がその名前だった。君に幽閉されていた数年間は行方をくらましていたが、再びウロボロスに戻り、他の組織と同盟を組んでキメラを作った男でもある。だから自動的に、キメラ初代総帥ということにもなるな。加えて芹沢は、その土方の不在時に社長となり、彼が出戻った今も出世を阻んでいる点がいくつも見られる。キメラ総帥の空席を奪い、土方を上から押さえつけている彼女は、事務所社長でありキメラ総帥でもあると言えるだろう。珍しく君が役に立ったよ」

「珍しくってなんだよ、珍しくって。一言余計だっつーの」

 とは文句を垂れつつ、望月が軽く唇を舐める。

「じゃあ次は二つ目ね。これは、社内の不穏な動きについての話だ。芹沢が社長になってからというもの、年々リストラされる社員数が増え続けているのが少々気になる。むろん景気変動なんかの影響はあるだろうけど、それにしても、あまりに不自然な上がり幅をしていてね。しかもリストラされた社員のうち、そのほとんどが目立った問題行動を起こした構成員だった。この意味が分かるか」

「そりゃあ芹沢がキメラ総帥であると分かった以上、隠蔽しきれない問題を起こした組織の迷惑者を、排除しているとしか考えられないだろ」

「僕もその可能性が高いと思ってる。事実、リストラされた構成員は一様に、その後の消息を絶っているんだ。それは表社会だけでなく、裏社会からも、忽然と……」

 芹沢の手によって、この世からすっかり姿を消したキメラ構成員。それはつまり、彼らは始末されて、あの世に追い出されたということなのか……?

「芹沢澪は、僕たちの想像を超える本物の女帝なのかもしれない」

 類は、厳しい表情で虚空を見つめ、もの憂げに椅子にもたれかかった。白衣のポケットから、一枚の紙切れを投げてよこす。芹沢とのツーショット写真だった。

「僕の用は済んだ。必要なら、君が保管しておくといいよ」

「あ、ああ……」

 思い詰めたように視線を落とす望月。彼は深刻な表情で、手のひらに笑顔を咲かせる人物を見つめていた。

 よいしょ、と不意に腰を浮かせ、デスクに向かって座り直す類。その一声が、淀んだ空気をいくらか軽くした。類が軽くマウスを振り、最小化していたファイルを表示する。

「最後に目に止まったのは――これは個人的な疑問でしかないんだけど、聞いてくれるかい?」

「嫌だ、って言ったところで、お前なら構わず語り出すよな。ちゃんと資料まで準備してるし」

「ご名答」

 類が苦笑する。

「まあちゃちゃっと終わらせちゃうから聞いてくれよ。これは芹沢というよりキメラの話になるけど、実は過去にたった一人だけ、偽名を使って組織を嗅ぎ回っていたであろう人物を見つけたんだ。それがこの女、北条沙羅゠エレオノーレ」

 その瞬間、望月の目の色が変わった。

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