第11話 尊い犠牲

頭に麻袋を被せられ、3人はワゴン車でどこかに運ばれた。


職員室に現れた男は、美希の担任の教師であった。

「今井先生!」

保護者ともいえる初老の男が現れた瞬間、美希は歓喜の声を上げた。しかし、その直後武装した集団が今井の後ろから現れ、3人を捕らえたのだった。


数時間が経ち、ワゴン車が到着したのは山奥のホテルであった。3人はロビーに運ばれ、麻袋が取られるのと同時に、床に倒された。


今井が籐椅子に腰かけ、問いかける。

「あなたがたはどうしてあそこに?」

「照井というあんたの教え子を探してる」

「なぜ?」

「やつが流してるラジオを聞いた」

「先生、照井君がこの事件を引き起こしたってラジオで言ってました!」

「あぁ……ははは……」

今井は満足げに笑いながらうなずいた。


「あの馬鹿にこんな大それたことはできないよ」

生徒に分け隔てなく接し、いつでも笑顔であった人気教師の不気味な雰囲気に、美希は怯えた。


「やつが黒幕ではないと?」

「そのとおり」

今井はあごで取り巻きに指示を出すと、麻袋を被せられた一体の死体が運ばれてきた。


麻袋がとられ、美希は絶句する。

「照井君……!!」

鼻から血を流し、顔が紫色に腫れ上がった少年が横たわっていた。


「こういうなめた真似をしてもらっては困るんだよ」

今井は笑いながら照井であった死体の頭を蹴り飛ばした。


「こいつはこの事件の首謀者のふりをしてラジオを聞いた者を集め、難民キャンプを作ろうとしていた。救世主にでもなろうとしていたのか」

「貴様がこの世界を作ったのか?」

「いや、私ではないよ。誰が首謀者だろうが今となってはどうでもいいだろう?」

今井は笑い続ける。


「大切なのは次代の王、誰がこの世界を次に統率するのか」


「照井君には尊い犠牲になってもらうのだよ」


「こいつをこの事件の首謀者にし、私がその首謀者を処刑した英雄として皆を統べる」

いかにも悪者というふうに大声で高笑いをする今井。


「このクソ教師、クソが頭につまっちまったようだな」

飯塚の発言に今井は反応した。

飯塚の眉間に銀色の拳銃を向ける。


「モデルガンか? 本物と偽物ぐらい銃口で見分けはつくぞ」

「その通り、モデルガンだ。だが、改造されていることにも気づくべきだ」

今井は真上に発砲した。けたたましい音とともにホテルの天井に設置されている蛍光灯が割れる。美希はきゃあと声を上げうつむいた。涙を流している。


「おじいさん、辞世の句は詠まなくていいのか」

「人間五十年、というには少し長生きすぎたかな」


――死ね。


銃声が響く。


3人を取り囲んでいた今井の一味が数人倒れた。

フルフェイスのヘルメットをかぶった5人がホテルの入口に現れた。


「ちぃ、退け!」

取り巻き数名とともに今井はホテルの裏口から逃げていった。


「隊長!!」

フルフェイスの軍団は照井の変わり果てた姿を見て、その場に座り込んで動けなくなっていた。

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