学生編

第7話【マドンナ】

高校を無事に卒業して、大学生活が始まった。

電車で片道2時間かかるのだが、通ってみるとなかなかしんどかった。

『なぜこんなに遠い大学を選んだのだろう』と半ば後悔するほどだった。


『どのサークルに入ろうかな?』

『かわいい子いないかな?』

『髪の毛金髪にしてみようかな?』

などを漠然と考えながら過ごしていた。


そんなある日、小さな教室で受ける経済の授業があった。

『プリント配るから後ろへ回してくれ』と先生が言う。

前から回ってきたプリントを後ろに回した時、脳天に雷が落ちるような衝撃が走った。


—胸の下まである長く艶のある髪。


—うっすらと派手すぎない綺麗な茶髪。


—ギャルでも清楚でもないいい塩梅のメイク。


—すらっとしたモデル体型


—細すぎない脚


—なんのブランドか分からないが最高のファッションセンス


全てがドストライクだった。

本当にめちゃくちゃ可愛かった。

可愛すぎて顔も見られなかった。


その日を境に学校へ行く目標が変わった。勉強でも友達作りでもない。

あの子に会うために学校へ行く。あの子と何とかして付き合いたい。

そのことで頭がいっぱいになった。


お洒落なあの子に見合う男になるべく、服を買いに行った。

自分では分からないので、店員さんコーディネートしてもらった。


今どきの大学生という無難な仕上がり。


可愛いあの子に見合うべく、人生で初めて美容室へ行った。


実は高校の時は野球部に所属していたため、坊主だったのだ。


そのため大学では髪の毛を伸ばしお洒落な髪形にしたかったが、美容室に行くのが恥ずかしくてひたすらに伸ばして野球帽を被っていた。


これは意外と野球部あるあるかも知れない。


『どのようにいたしましょう?』と言われ見せられた雑誌が、僕の容姿とかけ離れすぎていて恥ずかしくなった。

この感覚が嫌で美容室を避けていた。


どれを選んでも「お前には似合わねぇよ」と思われている気がしてならない。

結局『美容師さんのお任せで』とお願いした。


想像以上の出来に、テンションが上がった。

これで身なりは整った。


その帰りに家電量販店へ寄った。

眉を整えるハサミと、初めての電動髭剃りを買いに行った。


眉毛は人の印象を大きく変えると聞いたことがあった。

帰宅してすぐに眉毛をハサミで整えてみた。

思っていたよりも簡単で綺麗にできた。


次は家にあった眉用のカミソリで形を整えようとした。

その時やってしまった。勢いあまって右の眉毛の半分が無くなってしまったのだ。


『こんな姿をあの子にみせられない』と、とりあえず絆創膏を貼ってしのぐことにした。










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