第4話【その時は突然に】
お父さんと暮らし始めて約10年の月日が流れていた。
お父さんはとにかくよく働く。仕事には責任を持っていた人だ。
趣味は晩酌で、焼酎のお湯割りと缶チューハイを毎日必ず飲んでいた。
『俺に酒をやめろと言うのは死ねと言っている様なもんだ。』とよく言っていた。
ある年の会社の忘年会の日、よほど無理をしたのか帰宅したその足でトイレへ駆け込み嘔吐していた。あれだけ酒豪のお父さんが吐くのだからものすごい量を飲んだのだろう。タバコも嗜むがヘビースモーカーではない。
そんな生活をどれだけ続けてきたのかは分からないが間違いなく体には良くない生活をしていた。
会社の健康診断でも毎年引っかかていた。それでも『悪いところが見つかれば仕事ができなくなる』と言って再検査に行ったことは一度もなかった。
それどころか10年の間に病院に行ったのを見たこともないし、痛いなど弱音を吐いている姿を見たことがなかった。
そんなある日、僕が使っていた塗るタイプの湿布を貸してくれと言ってきた。
なんでも疲れていたらしく仕事の帰りにサウナへ行ってきたがあまり良くならないとのこと。
僕がそれを渡すと首や肩に塗り始めた。
次の日の朝。まだ学校へ行くために起きるには早い時間に
「ドタッ、ドタッ、ドタッ、ドタッ」と階段を全速力で上がってくる音が聞こえた。
「お父さんだ」と思った僕は寝たふりをしようとおもった。この間0,5秒。
正体は母だった。そして大泣きしながらこう言った「お父さんがくも膜下出血で倒れたって!」
僕たちは急いで病院へ向かい、ICUに入っていた父を目に医師からの説明を聞いた。
『手術はできます。しかし、植物状態になるか自分で何もできないほどの障がいが残る可能性が非常に高いです。』とのことだった。
お父さんは常日頃『俺になんかあったとき植物状態になるなら殺してくれ』と何回も言っていた。
ある程度自分は長生きできないと悟っていたのだろう。
そのことから母は少しの望みにかけて手術を断念した。
それから1週間後お父さんは亡くなった。
—享年45であった。
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