第30.5話 地方局のプロデューサーの思い

まえがき

この作品を公式様に紹介していただきました。本当にありがとうございます。

そして、それから気になって見に来てくださった皆様、以前から見てくださっていた皆様にお礼の言葉を申し上げさせていただきます。





「それでですね、是非四月一日あかりを次回以降もキャスティングしたいと考えていまして」


「あぁ…ギャラも安いし、スケジュールも簡単に抑えられるんならいいんじゃない?君が気に入ってるなら問題ないよ」


「本当ですか?!ありがとうございます!」


そう言うと、彼はその場から立ち去っていった。俺よりも立場が上の総合プロデューサーとの会話ということもあり、多少緊張した。だが、自分の頼みはあっさり聞いてもらえたので拍子抜けだ。

まあ、俺も局の中だと上の人間だから、あっさり聞いてもらえたのだろうな。


「流石にまた九州巡りは予算的にも厳しいし、街ぶらロケかな…。いや、スポーツチームの取材ロケとかも良さそうだよな」


俺が担当しているのは、基本的にロケ番組になっている。彼女にCMのオファーを出したいのだが、それはまた別の部署に頼まなければいけない。

ただ、彼女が実力を示せば、それは自ずと結果として選ばれても可笑しくない、時間の問題かもしれない。


「ただ、今は編集作業に集中するか…」


先日撮り終えたロケの映像を現在編集している。ゴールデンウィークの、しかもゴールデンタイムに放送予定ということなので気が入る。もちろん、全国放送でなく、九州だけでの放送だが、観てくれる人には良いものを届けたい。それが、タレントを含めた制作陣の思いなのだ。



「今どんな感じ?」


「ここはカットするか、それとも使うかどうしようって感じですね。ダイジェストで流してもいいのかなって思うんですけど…」


映像編集のスタッフと話し合う。ロケには参加していなかったが、撮った映像を見てやる気を出してくれたようだ。それだけ、ロケが良いものだったことを強調してくれているようで嬉しかった。


「カットは少し勿体ないよな…。CM前のスポンサー提供時に流せない?」


「あぁ…大丈夫です。そうですね、それが良さそうです」


音は被せられるし、表情も広告で被せられる。しかし、集中して観てくれている人はそれを貫通して彼女を見るだろう。

彼女にはそれだけの魅力があるから。




「いやぁ…放送が楽しみですね。まだCMも流れてないのにワクワクできるのって、制作陣だけの特権ですもんね」


「お疲れ様、中尾」


局の食堂で食事をとっていると、中尾が声をかけてきた。

中尾の言う通り、視聴者はロケを見かけない限り、テレビで何が流れるのか分からないし、CMを見ないと今度何が流れるのか分からない。でも、制作陣にはその一部始終が分かりきった状態で日々を過ごさなければならない。

だから、つまらないものが完成した場合、放送までが苦しい日々となる。その一方で良いものができれば、放送までの1日1日が充足感で満たされる。


「聞きましたよ、四月一日さんを次も使うみたいだと」


「そうだよ。中尾、何か良さそうな番組テーマない?」


口に入れた食べ物を水で流し込んでから応える。


「いやぁ…彼女なら何やらせても及第点を超えるものになると思うので、難しいですね」


中尾も俺と同じように考えていたらしい。彼女は、俗に言うどんな番組でも使える、使い勝手がいいタレントなのだ。ロケもバラエティも何でもよしのタレントだ。


「…ウチの局のミニドラマとかどう思う?」


ふと、思いついたことが口から自然と漏れた。ドラマ、全く思ってもなかったことが自然と降りてきた。


「…いいですね…。ドラマ…最近だと地元のメジャーな芸人とタレント使ったせいで、ギャラの問題がありましたけど、あまり知られてない若手のタレントで固めればそこは大丈夫ですしね…」


「…作るかドラマ」


気が早いかもしれない。だが、鉄は熱いうちに打てという言葉があるように、今俺は彼女に熱を入れている、1人のファンだから仕方ないかもしれない。

昔、友人のアイドルオタクが言っていた言葉を思い出した。

「まだ誰にも見つかってないアイドルを推すだろ。それで、そのアイドルが売れたら、俺が最古参のファンだぞって自己顕示欲に浸れるんだよ」


当時はアイドルオタクって珍しい考えをするんだなと思った。だが、今現在、俺は彼女の最古参のファンでは無いかもしれないが、少し気持ちが分かった。テレビ番組に起用したのは、最初に見つけたのは俺だぞ…そう他の局に、特に東京のテレビ局に解らせてやりたい。そんな始めての感情を、自己顕示欲と呼んでもいいこの感情を、彼女に教えてもらったのだ。


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