第33話 偏見的中?


「流石にこれは…まじで性悪女だったじゃないですか!」


「あかりちゃんの偏見通りで俺もびっくりした」


連ドラ出演決定!のお祝いムード(そんなものは無い)から翌日。


事務所に購入した原作の漫画が届いたので早速読み出す。面白いラブコメ作品だなぁ、早く主人公とヒロインくっつけよなんて思いながら読み進める。

そして7巻に差し掛かったあたりで、私が演じることになったキャラが登場した。これが主人公の元カノで、別れても想いを寄せるキャラか、へぇ美人でいいキャラじゃん!と最初は思いながらページを捲っていたのだが、次の巻で主人公に復縁を迫り、主人公に想いを寄せるヒロインに向けての罵詈雑言。

主人公もなんでこんなキャラにちょいちょいラブコメの波動を感じてしまうのか。

そのせいで主人公とのストーリーが進まないんだが?とツッコミたいが、上手く主人公の前では猫を被っているのだ。

こんなキャラを私が完璧に演じてしまった場合、私への風評被害が起こりそうなのだが、どうすればいいのだろう。完璧に演じられる保証は一切ないが、無駄に考え込んでしまう。


もしかして、こんな視聴者の敵みたいなキャラを演じたくない役者が多かったのでは。なぜ私がドラマに出られたのか、という疑問に対してはこの説が濃厚だと思った。役者もあくまでイメージというものがあるのだ。例えば、綺麗な年上のお姉さん役、はたまた温厚なおじさん役、大手企業の重役…。一度演じた役が、パズルのピースのようにハマったら、その人の意志とは関係なく特定の役柄のオファーが入ってくるものらしい。つまり私は型にはまらない女優といえよう。正しくは型にはまるほどの実績がないからなのだが。



とにかく、底辺アイドルの私にすれば、これで知名度が上がれば万々歳である。若くない、…本当は24歳はまだ若いと思ってるけど…。一応、若くない私にとっては最後のチャンスかもしれない。個人的にはアイツにこの役をやってほしいと思ったりもするが、せっかくの役なので私がアイツ以上の性悪女を演じてやろうじゃないの。


「そうそう、これ台本。昨日の夜貰ってきたんだった」


「え?早いですね。てっきり1ヶ月後とかに来るものだと」


「今放送中なら、もう半分くらいは取り終えてるだろう。となると、物語の中盤で性悪女との邂逅になってるんじゃないか?だからそろそろ収録に呼ばれると思うが。

台本については、既にあったんだろうな。だけど、中盤になってもその役だけ埋まってなかったんじゃないか。だからこっちに仕事が回ってきたんだろ、こっちからするとありがたい話だ」


本当にありがたい話である。それに仕事がない私は、どの時間帯でも撮影に参加できるので、収録が押していても強行撮影しやすいことなど、ドラマ制作陣にはメリットもあったのだろう。まさか、仕事がないことで仕事が舞い込んでくるとは。仕事がなかったことに感謝すべきなのかよく分からない。


「いやーついに私も連ドラ女優ですよ!ただ…おかしいですね、ここはアイドル事務所のはず。なぜ私にアイドルとしての仕事がないのか」


頭脳は大人な名探偵ばりに察しがいい私が切り込む。


「弱小事務所のウチにお金はないからなー。CDを作る費用やらアイドルとしての舞台を用意する費用だっている。アイドルの活動には、まずはどんな仕事でもこなしていってウチにお金を入れてもらうしか方法がないわけだ。頼んだぞ、あかりちゃん」


正論で切り返される。

あと最後の言葉は反則だ。もしあと20歳若くてイケメンならばその瞬間私の恋が始まるセリフだった。笠井さんじゃなければだが。


「…任せてくださいよ。事務所の看板アイドル…じゃなくて看板タレントとしてまずは名を挙げてみせましょう!」


まぁそんな期待されても困るが、元々期待される機会がなかったわけなのだから。

期待されたら嬉しいし、張り切っちゃうわけで。


その後台本を読みながら、配信サービスでドラマを視聴して勉強した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る