第3話 土下座の味はいかがですか

あれは2年前の11月だったかな。寒くなってきてどこも内定式が終わって…そんな中で内定ゼロ(ただし小規模なアイドル事務所所属)というときだった。


「貴方の夢を尊重してるけど流石に大学を卒業する年になって、結果が出ていないことを続けさせるわけにはいかないの」


「はい…でもあと1年だけ!これで駄目なら就職活動して、ちゃんと職に就いてお母さんを安心させるから!」


あぁこの時が一回目の土下座だ。

お母さんも甘いから何だかんだで一年は続けていいけど、就活もすることが条件で許されたんだっけ。


まさかこの一年後に二回目の土下座が行われることになるとは私もお母さんも思わなかっただろうな…。

ホント親不孝な娘でごめん、お母さん…。



でも…わたしが所属してた事務所がなくなったとき、凄く励ましてくれたし、その後超弱小事務所なのに、ぶっちゃけ誰でも所属できそうなところなのに、それでも、そこの所属になったことを凄く喜んでくれたんだよね。


だから、テレビ…とまでもいかなくても何かのメディアに取り上げられて、お母さんが「これ私の娘なんだ」って周りの人に自慢させたい、これが私なりの親孝行だと思うし、これを達成できたら多分アイドルを引退して普通の職に就くんじゃないかって思う。いや…それともう1つ…芸能人のイケメンな旦那を捕まえたい。そして母親に紹介したい。娘が芸能人で自慢できて、婿もイケメンな芸能人なら母親にとっては絶頂ものじゃないだろうか。というわけで、この2つは達成したい。

高すぎる目標は身を滅ぼすと言われるかもしれないが、私という存在が芸能界では実体化しておらず…。むしろ既に滅んでいるのでセーフだろう。


だから目標を達成するまではここに就職はしないと決めたのである。ごめんなさいオーナー…!

しかし、その目標が達成されたときは私は既婚者であり、いい歳して未婚のオーナーに多少罪悪感があるなぁ。








そんな私がバイトを終えて行く先は、大通りから隠れるように路地裏から侵入するしかない、小さなビルの2階にある小さなオフィスである。

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