第10話

 誰かが本当はいるのかも知れないけど認識出来ないから、私は一人で歌って歩く。

 木が入って来た。ここにも人がいるのかな。

 近付いてゆくと、木は木で、他に建物はない。花が全体に咲いていて、桜のような、でも色が流氷の青。でも、暖かい青。風にはらはらと花びらが散っている。

「あおざくら」

 幹の側まで行って、それに触れる。ざらっとした手触り。

 そのまま。

 目を瞑る。

 青い桜が月の明かりに照らされている姿が見える。その下の私も。

「君と会ったことがある?」

 木は何も言わなくて、私は目を開けて、幹の麓から青い花びらと星の夜を見る。花びらは舞って、ほのかな風、星月夜の明かり。

 もう一度幹を見たら、またあのハートが刻んである。木肌の感じからはそう古くはなさそうだ。

「行かなくちゃ」

 私は幹をポンポンと撫でて、月の方に向かう。

 後ろを振り向いたらまだ青桜は待っていて、じゃあね、手を振る。

 木が消えてからピンクの頭を触れたら、青い花びらが乗っかっていた。払いたくなくて、そっと日記に挟む。

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