第3話 ギルドに相談

 開店準備の時間。キビキビお弁当を並べていくメリッサさんに比べ、僕の作業は遅々として進んでいなかった。

 アリスの新たな借金問題。ほんとどうしよう。


「ソーヤ君、顔色悪いですよ。大丈夫ですか?」


 メリッサさんが心配そうに声を掛けてくれる。

 開店前で『えいえんの14さい』ムーブをしていない眼鏡を掛けたメリッサさんは、ちょっと冷たい感じだけれども、いつも僕を気遣ってくれてそして優しい。

 その姿は僕が冒険者メインで活動していた頃の——憧れの受付嬢お姉さんだった頃とまったく変わっていない。


「出資者としては、働けない店長など5エル真鍮貨しんちゅうかにも劣ります。早急に改善して下さい」


 ハイ、ぜんぜん変わってました。役立たずな店長で本当にごめんなさい。

 ちなみにこの国の正式な貨幣は50エル銅貨からで、それ以下の個人取引でしか使えない10エル真鍮貨や5エル真鍮貨は、クズ真鍮の破片を円盤状に整えただけの非公式な貨幣だ。その中でも価値が低い5エル真鍮貨の別名は『役立たず』。それにも劣ると言うのは——つまりはそう言うことだ。


「で、本当にどうしたのですか?

 ソーヤ君の問題はもう私の問題でもあるのですから、お姉さんにキチンと報告なさい」


 やっぱり優しいかも……。この下げてからちょっと優しくする感じの見た目ロリなお姉さんキャラは、かなり反則ではないでしょうか。はぁ、オギャりたい。

 っと、これ以上脱線するとメリッサさんが不機嫌になるので、僕は昨日のアリスの件を説明する。


「またですか……。

 アリスさんへのお仕置きは後で考えるとして、ひとまず冒険者ギルドと商業ギルドの両方に被害の報告をしたほうが良いでしょうね」

「げっ、商業ギルドもですか?」

「ああ、ソーヤ君は苦手なのでしたね。でも大丈夫ですよ、今回は時間は掛かりますが指名受付で1番から4番の窓口で申請して下さい。

 ソーヤ君が嫌いな先輩がいる5番以降の受付だと、セイシュー屋寄りの人が多いのでたぶん握りつぶされてしまいますので」


 メリッサさんいわく、商業ギルドの5番以降の窓口担当者は色々と酷いらしい。お金を渡せば無茶な融通も利かせてくれるそうだが、後々のちのちのことを考えると関わらないほうが良いとのこと。知らなかったよ。

 今回の件は、セイシュー屋とライバル関係にあるジョウシュー屋寄りの3番窓口がお勧めだそうだ。

 そしてメリッサさんから『ギルドへの報告はアリスではなく僕が行ったほうがいい』と言われたのでその理由を聞くと、僕は王都でのアリスの保護者として広く認知されているらしい。解せぬ……。


「上手くいけば、ギルドからの圧力という形で慰謝料の減額までは持っていけるかもしれません。

 さて、もう開店の時間です。店長、しゃんとして下さい」


 窓ガラス越しに完全武装の冒険者が何人か並んでいるのが見えた。僕は慌てて正面入口の鍵を開け、メリッサさんと一緒に声を掛ける。


「「いらっしゃいませ!

『5→7《ゴーヘブン》』へようこそ!」」



—————————


 朝のピークタイムが終わったのを見計らってから、ギルドに向かう準備をする。メリッサさんにワンオペをお願いしたら、ニッコリ笑顔で対価を要求された。……お土産買ってきます。


「てんちょー、いってらっしゃーい。

 財貨の宝石ゼリー期待してまーす!」


 えっ、大商会の食品店街とか行かないよ? 王都コロッケとかで勘弁して下さい。


 アリスが持っていた書面もあったほうが良いそうなので、彼女の家にも立ち寄ることに。この辺りは僕が住む地域にはほとんど見ないお洒落な感じのアパルトマンが立ち並び、所得格差をこれでもかと感じさせてくれる。借金まみれのアリスがここに住んでるの本当に納得出来ない。


 ベルを鳴らすとパジャマ姿でスライムパッド未実装のアリスが現れた。寝ぼけまなこで半分寝ているようだったので、書面だけ借りて早々に立ち去った。

 うん、僕は何も見ていない。アリスとはパッド未実施の頃からの付き合いだけど、彼女の中では出会ってからこれまでの期間で急成長バストアップしたことになっている。だから僕はその事実には絶対に触れない。誰だって命は惜しいのだ。



—————————


 冒険者ギルドの反応は暖簾のれん腕押うでおしといった感じで期待薄。商業ギルドはかなり待たされたけど3番窓口の担当者さんが親身になって聞いてくれた。

 なんでも王都タイムズの注意勧告が掲載されてから、同様の問い合わせが急増したらしい。借金するのは基本商会からなので、トラブルも商業ギルドに持ち込まれるとか。


 セイシュー屋の案件は初めてとのことだけど、被害者がアリスだと言うと納得された。

 アリスは見た目だけとはいえ結構な美少女だ。冒険者としてもそこそこ腕利きだから、王都界隈ではなかなかの有名人である。そしてカロルドがかなり強引に彼女に迫っては返り討ちにあっているのもかなり知れ渡っていた。

「これは借金奴隷狙いですね」と担当者さんから嫌な太鼓判を押されてしまった。


 被害が大きいことから国が動くかもしれないらしく、これ以上お金を払うのはひとまず待って欲しいとのこと。そのことで利子が膨らんだり不利益をこうむらないように、セイシュー屋への支払い期限の一時停止等の勧告書も発行してくれるそうなので、ホッとひと息だ。


 それにしても——いくらカロルドからの書面があったとは言え、被害者本人アリスがいないまま本当に手続きが出来てしまった。

 本当に大丈夫なのか聞いてみたいが、あと2人同様の問題児がいることを考えると、藪蛇やぶへびになりそうなのでグッと堪えた。

 さて、お土産は何を買って帰ろうか。




————————————————————

大人メリッサさんが掛けている眼鏡は伊達メガネです。

新人受付嬢だった時からのジンクスで、しっかりした自分を演出するためのアイテムだったりします。

コンビニバイト中は外してます。

あと、コンビニメインのパートはあと2話くらい掛かりそうです。


面白いと思って頂けたら★評価と応援ボタン押して頂けると嬉しいです。

たくさん読んで貰えると励みになります。

誤字や気になる部分あれば、ぜひ教えて下さい。

それではまた次話で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る