flight 2. ①

翌日


午後11時発のロス便に備えて、午後7時には空港についていた。


先に来ていたサラが話しかけてきた。


「お疲れ。美空、あんたってほんっとにパンツが似合うわね。女の私でも惚れるわ」


「そんな~、サラこそ似合ってるよ~。」



そんな話をしながらブリーフィングに行く。そして部屋に入っていくと


『キャー!』


と後輩たちの歓声に包まれた。なんだなんだとサラと二人で顔を見合わせていると、あちこちから


『天野先輩とソン先輩よ!パンツの制服めっちゃ似合う~!』


『かっこいい~!』


『一緒に飛べるだなんて夢みたい』


こんな声が聞こえてくる。


「ねえサラ、私達ってそんなに有名なの?」


聞きながら横を見てみると、何が起こっても顔色一つ変えないサラがドン引きしている。私ももちろんドン引き。



「う..うん。そう..み..たいね。私たち会社でもダントツ背がデカいから目立ってるのかも。特に美空、あんたよ。」



「はぁ?何で私なわけ?サラのほうがきれいだし目立ってるんじゃない?」



「いやいやいや。美空、あんた気付いてないだけで相当きれいだから。」



「冗談は休み休み言ってよ。」



そんなしょうもないやり取りをしていると、一旦静かになった歓声がまた大きくなった。今度は何!と入り口のほうを見てみると、佑輔が立っていた。こちらも少々引き気味。


「佑輔!助かった~。私とサラだと何にもできなくてどうしようかと思ってたの。」


そういいながら駆け寄ると、佑輔も明らかに安心したような顔をした。


「美空!よかった~いて。俺も今どうしようかと思った。美空たちが入ってきたときもこんな感じだったの?」


「うん。これよりはまだましだけどすごかった。」


「そうか。あ、今日よろしくな!」


「こちらこそ。コーパイが佑輔で安心した。昨日から連勤なんだもん。」


「お~それは大変だったな。お疲れ。」


そう言って頭ぽんぽんしてくれた。


私と佑輔は同い年というのもあり、大の仲良し。本物の兄弟のように育った。私には3歳年上の本物の兄もいるんだけどね。


従妹の私が言うのもどうかと思うけど、佑輔はかっこいい。179㎝の高身長に少し色素が薄めの茶色い髪。全体的に優しいイメージだ。でも決してチャラチャラしているわけではない。


さらに将来有望なパイロットとなれば女性がほおっておかないだろう。


そんなことを考えながらサラと佑輔と話していると、今までの比じゃないくらいの歓声が起きた。


半ば呆れながら入り口を見てみると、そこにはパイロットの制服をビシッと着こなしたモデルのような男性が立っていた。肩に4本線が入っているのでこの便の機長だ。


でも今度は、私とサラも顎が外れるんじゃないかっていうくらい驚いた。だってその人は私たちもよく知っている人だったから。



彼の名前は冷泉陸れいぜいりく。史上最速で機長になった上にAJAの社長の息子だ。次男だからこの会社を継ぐのかどうか定かではないが、ルックスに肩書まであるのだから社内の人気は相当なものであるだろう。



180㎝の長身に、涼やかな目元、薄い唇とサラサラの真っ黒な髪。さらにスタイルまで抜群なんだからもう何を言ったらいいのか分からない。


そんな彼は私たち全員がドン引きしたこの歓声にも全く動じず、平然と佑輔のもとへ歩いてくる。


サラが


「この歓声で何も思わないだなんて相当よね。よっぽど慣れてるかナルシストかじゃない?」


「え?でもさ、冷泉機長ナルシストには見えないよ。」


「それもそうね。ナルシストならもっと髪型とかも工夫しそうだしね。」


そうなのだ。こんなにもかっこいいからナルシストなのかと思いきや、髪型はただワックスでオールバックにまとめただけだし、言動の端々にもそのような感じは全くないのだ。


不思議な人。



全く興味がないと言ったらうそになるが他のがっつきCA達のように狙っている訳では全くない。


そんなことを考えていたらいつの間にかすぐ近くまで来ていた冷泉機長が



「三郷、お疲れ。それからそこの君、仕事に私情は持ち込まないように。三郷を狙うのは構わないが仕事が終わった後にしてくれ。」


そういって私のことを指した。名札確認付きで。


「あまのさんね。しかもパーサーじゃないか。これじゃぁ後輩たちに示しが付かないだろう。これからは気を付けるように。」



...。一瞬私は何を言われたのか理解できなかった。隣の佑輔も理解が追い付いていない様子だ。


まあ確かに今この場にいる人で私たちの関係について知っているのはサラだけだ。間違えるのも無理はないか。


佑輔よりも早く復旧した私は佑輔のことをチョンチョンとつついて


「ねえねえ、機長に私たちのこと話してないの?」


「うん。だって必要ないかと思って。」


「まあね。でもこんなことになるならもういっそ公表しちゃう?」


「そうだな。ここで言うか。え~私、三郷佑輔と天野美空は恋人同士では無く、母方のいとこ同士です。」



すると、今度は冷泉機長を含むただしサラを除く全員の口が開いた。


『ウソ!この美男美女カップルが従妹同士⁉』


『ビックニュースじゃん!』


『だから仲が良かったのか』


『やった!三郷さん狙えるじゃん』


などなど皆の反応は様々だった。中には不埒な発言も入っていたような気もしたが気のせいだろう...。


さらに、私のことを咎めた冷泉機長も開いた口がふさがらないみたい。


しばらくして復旧した冷泉機長が


「えーっと..なんかすまなかった。」


「いえいえ、こちらこそ。きちんとお伝えしていなかった佑輔が悪いです。」


「は?って美空、なんで俺が悪いんだよ?」


「え?だって佑輔がちゃんと伝えていたらこんなことは起きなかったんだよ?」


「..ぅう...。スミマセンでした。」


「よし!許そう。」


「「「......。」」」


わ、まずい。ついいつもの感じで佑輔をいじってしまった。


「えーと、スミマセン。ほら、佑輔も。」


「え?あ、スミマセンでした。」

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