第28話 咲はよく食べる。そしてメリーもよく食べる

 しばらく咲とは普通に話をしながら、お菓子を少し食べた。

夕飯が近いからあまり食べすぎると夜食を食べることになってしまう。

俺のルーティン上、夕飯は絶対に食べないといけない。

 実際に、ゲームを優先するために夕飯を食わずにお菓子だけを食べたら、腹をずっと下すくらい体調をものすごく悪くしたことがある。

やっぱり、ちゃんとしたご飯を食べるのは大事だと痛感した出来事だった。

 だけど、咲はというと……。


「ん! このお煎餅めっちゃ美味い!」


「おい、そんな食いすぎたら飯食えなくなるぞ」


「別に良いじゃない。それに、わたしは結構食べるって知ってるでしょ?」


「それは知ってるけど……。そんなんで良くその体型保てるよなあ……」


「羨ましいでしょ?」


 咲はドヤッと自慢げな顔をして自慢する。

確かに羨ましいとは思うが、俺もどちらかというと咲と同じ食べても太らない体質だから、羨ましいとは言えない。

 そもそも俺は咲ほど大食いでもないし、もはや少食だから太れないのだ。

俺の体重?

50kgですけど何か?

都市伝説かは知らないけど、ゲームを長時間していたら体重減ると聞いたことがある。

俺の体重が軽いのはそれのせいなのかもしれない。


「さてっと……。そろそろ戻ってくる頃かな」


「ん? 誰か来るの?」


『ただいまです! ゆーまくん、ちゃんと咲さんに話せましたか?』


「うおっ!?」


 家の壁をすり抜けて、俺に飛び込んで来たメリー。

透けた状態のまま、俺に飛び込んで抱きしめてきた。

もちろん俺はメリーに触れることは出来ないから、引き剥がそうと思っても出来ない。

幽霊って最強だな……。


「ぐぬぬ……何で悠真はわたしよりメリーの方が仲が良いのよ!」


『咲さん、それはの力ですよ』


「――――っ! わ、わたしだって毎日悠真の家に通っているのに!」


「通ってるってなあ……。まあ、確かに毎日来てるから通っている判定でもおかしくないか」


「なら、わたしだってこうしても構わないよね?」


『なっ! 咲さんはゆーまくんから離れて下さい! ゆーまくんはメリーのものです!』


「何よ! それはわたしだって同じよ!」


『「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」』


 また始まったよ……。

この意地の張り合いをどうしたら解決できるのか全く分からないのが困る。

耳元でぎゃあぎゃあ騒ぎやがって……!

俺の耳がぶっ壊れてしまうわ!


「お前ら一回落ち着け!」


『「――――!」』


「もうちょっと……静かにしような?」


『「――――絶対に嫌!」です!』


 ソフトに言ったのが悪かった。

逆に言い争いになる形になってしまったため、何も改善されていない。

本当に……勘弁してくれ……。










◇◇◇










 すぐに喧嘩は収まり、今は俺の部屋に集まっている。

遊ぶものがゲームしかないから、とりあえず俺のゲーミングPCで、3人交代しながらゲームをすることにした。

意外にも咲はPCゲームに興味があるらしく、俺のおすすめのゲームをしたいと言い出した。

ということで、今は俺が一番オススメするFPSゲームをやらせている。

 今まで咲がゲームをしているところを見ていると、それなりのゲームセンスはある。

FPSはかなり好き嫌いが激しいジャンルだが、ハマるとやめられないゲームと決まっている。

ほとんどがオンラインということもあって、没頭してしまうんだよな。

気づいたら4,5時間過ぎてることなんて珍しくないし、今の小学生たちが当たり前のようにやっているのも納得できる気がする。

 すげーよなあ……。

今の小学生って自分のゲーミングPC持ってる家庭もあるんだってさ。

時代の変化って恐ろしい……。


「えっ!? ちょっと今の当たってないの!?」


「当たってるって思っても当たってないものは当たってないんだ。判定が全てだからな」


「ぐぬぬぬ……! やってやろうじゃない!」


 咲は完全にFPSの虜になっていた。

まあ、気持ちはすごく理解できるからそのままやらせておこう。


『ゆーまくん』


「ん? どうしたんだメリー?」


『今のうちにゆーまくんと遊びたいです! 咲さんがいない状態の今がチャンスなので!』


「オッケーオッケ、分かった。今日は何するんだ?」


『今日はですね、えーっと……』


 何をしようか迷っているのか、メリーは顎に手を当てながら考え込んだ。

そして、顔の方向をあちこち向けながら必死に考えている。


「――――もしかして、何も考えずに言ったのか?」


『うっ……はい……』


 やっぱりか……。


「そうだな――――あ、じゃあポーカーでもやってみるか?」


『ポーカー、ですか?』


「ああ、カジノのトランプゲームでちょっと複雑なルールだけど、めっちゃ楽しいと思うぞ?」


『本当ですか!? ぜひやってみたいです!』


「よっしゃ! じゃあちょっとトランプ持ってくる」


『分かりました! じゃあメリーは机を真ん中に置いておきますね』


「お、助かるぜ」


 俺は引き出しからトランプを取ろうとした時だった。

どこからか、俺を見ているような気配がした。

思わずその方へばっと見たが、そこには誰もいなかった。


『――――ゆーまくんどうしたんですか?』


「――――なあメリー、何か変な気配とかしたか?」


『変な気配、ですか? いえ、メリーは何も感じなかったですけど……何かあったんですか?』


「えっ……? あ、いや、何でも無い。とりあえず、最初にメリーにルール説明してからやってみるか」


「はい! 楽しみです!」


 メリーが何も感じなかっただと……?

俺は何かヤバい感じがした。

気のせいだって言えるレベルの感じ方じゃなかったからだ。

そう、あの日公園で聞いた声と同じくらい恐ろしい気配がした。


(一応、メリーには後で言っておこう。咲にも言っておいたほうが良いな。咲も霊感強いからこういうのは頼りになるし、いきなりの場面でも教えないよりは少しはマシになるだろうし……。それにしても、何でいきなりなんだ……)


 疑問を抱きながら、俺はメリーにポーカーのルールを説明した。

背中でかすかに感じる恐怖と気配を必死に堪えながら。

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