第18話 俺の過去を漁るんじゃねえ!

 メリーに裸を見せられたあと、俺はドギマギしながら髪と体を洗った。

そしてもう一回湯船に浸かり、バスタオルで拭いたあとは部屋に向かった。


「メリーは……外に行ったのかな?」


 そう思っていると、俺はまたあのシーンが頭に浮かんでしまった。

だって仕方ないじゃん!

女の子にすっぽんぽん状態見られたの人生で初めてだったんだから!

 あー恥ずかしい!

しばらくメリーの顔見られないかもしれない……。

顔見ただけですぐにあのシーンが思い浮かんじゃいそうだからな――――だめだ、夜はゲームやって気を紛らわそう。

そう思いながら部屋のドアを開けると、


「やっほー」


「――――なんでお前が俺の部屋にいんの?」


 何故か咲が俺のベットの上でうつ伏せで寝転がっていた。

おかしいな鍵閉めたはずなんだけどな。

閉め忘れたのか?


「どうやって入ってきた?」


「ん? そうか、悠真にはまだ伝えてなかったけど、わたし合鍵持ってるから」


「はあ!? なんで同じやつ持ってるんだよ!」


「ふふ……知りたい?」


 咲はニヤリと笑った。

ちくしょー!

その微笑みがめっちゃ腹立ってくるんだけど!


「はよ教えろ! こんなの空き巣だよ空き巣! 不法侵入だ!」


「不法侵入じゃないよーだ。しょうがないから教えてあげる。これはね……」


「これは……?」


 俺と咲の間に緊張が走った。

俺はゴクリと固唾を呑んだ。

咲は口を開けて最初の一文字を言おうとしているが、なかなか言ってくれない。


「こんな長い間いらないから早く言えっつーの!」


「せっかちだね悠真」


「待ってられるか! 1分くらいずっと続けられたらさすがに痺れ切らすわ!」


「はいはい……」


 咲は気だるそうに生返事をした。

こいつ……絶対俺使って遊んでるだろ。

これはあとでお仕置きしなければ。


「これはね、美晴さんからもらったの」


「は? 俺の母さんから?」


「そう、いつもうちに来るなら合鍵渡して置くからいつでもいらっしゃい! って言われたから仕方なく持ってるの」


「なーにしてくれちゃってるのおおおお!」


 合鍵を咲に渡した犯人はまさかの俺の母さんだった。

せめて俺にも言ってほしかった。


「まあ、わたしが小学生の時にもらったものだけど」


「え……そんな前から持ってたの?」


「そうよ?」


 衝撃の事実を知ってしまったんだけど……。

小学生の時からもうすでに俺の母さんと咲は、俺には教えてくれない秘密の関係になっていたとは……。

まさか俺にとって恥ずかしいような写真とか見せてもらってないよな?

それが一番怖いんだけ――――


「咲?」


「んー?」


「さっきから見てるその本って……」


「これ? 美晴さんの部屋から持ってきた悠真のアルバム写真。ふへへ……めちゃくちゃ可愛いじゃないの」


「わああああああ!!!」


 俺は発狂した。

咲が眺めているアルバム……それは俺がまだ赤ん坊の頃の写真だけが並べられたものだった。

しかも最後のページまで進んでいた。


「大丈夫、美晴さんから許可もらってるし……よし! 見終わったし、次はこっち読もっかな」


 俺が顔を真っ青にしている間に、咲が次に開いたのは俺が小学生の頃の卒業アルバムだった。

咲はまたふへへ……と怪しげな気持ち悪い笑いをした。

よく見ると咲の口端から涎が垂れそうになっていた。


「や、やめろ咲! 俺の歴史を漁ってんじゃねえ!」


「やだ!」


「うるせえ早く返せ!」


「やだやだやだやだ! 悠真の黒歴史もっと知りたーい!」


「駄々こねたような言い方してとんでもないこと言ってんじゃねえよ!」


 俺と咲でアルバムをめぐる戦いが始まった。

さあみなさんここで一時停止して……。

普通のラブコメだったらこの状況になったらどうなると想像つくでしょうか。

ゴー、ヨーン、サーン、ニー、イーチ……ゼロー!

 ――――まあそうですよね!

ラブコメが大好きな人なら大体の人はそう考えますよね!


『このまま押し倒して……ドキドキ……』


『また甘い空気の予感……ぐへへ』


『咲に覆いかぶさっちゃいなよ。そしたらピー! とかピー!とか見れるでしょ。いいからはよ見せろや!』


 って思うことでしょう。

じゃあ正解を発表しましょう!

再生ポチッと。


「絶対やだ! 離さないからね!」


「なっ、てめえ……!」


 咲はアルバムを包み込むように体をくるませた。

こいつ意地でも話したくないらしく、俺のアルバムを完全ホールドしやがった。


「いいから……早く、離せっての!」


 俺は意地になってアルバムが埋まっているところに手を差し込んで奪い返すことにした。

今ここで降参したらそれこそ大変なことになる。


「いやー! 悠真の変態! わたしの中に手を突っ込もうとしてくるー!」


「勘違いさせるようなこと言ってんじゃねえ!」


 そんなこと気にしてるような場合じゃねえんだよ。

そして俺は手を突っ込ませた。


フニ……


 俺たちの動きが止まった。

俺の手に何か柔らかいものが当たってるような……。


「――――っ! いやあああああ!!!」


「ぐばあ!」


 アンサー、アルバムを取ろうとして何も考えずに手を突っ込んだら、咲の柔らかいものに当たって蹴りを喰らわされた、でした。

当たった人はいただろうか。

当たった人にはこう言っておこう。

おめでとうございます。


「――――っ! やっぱり悠真はそれが目的だったのね!」


「だから違うんだって! あれは不慮の事故だ!」


 咲は胸を腕でホールドして、涙目になりながら俺を睨んだ。

確かに柔らかい感触はまだ手に残ってるけどさ、あんなことになるとは思っていなかった。


「――――」


「――――その、わ、悪かったよ。俺も夢中になってしまっていたし……」


「ま、まあ悠真が謝るんだったら許してあげる……」


 なんか俺が全部悪いみたいになってしまった。

実際俺が9割方悪いんだけどね。


「――――べ、別に触りたかったわけじゃないんだよね?」


「まさか! それは絶対にありえないから」


 頬を赤くしながら上目遣いで聞いてくる咲に、俺は手を振って慌てて否定した。

それを見た咲はふーんと言いながら自分の胸を見つめた。

 おい、男の俺がこの場にいることを忘れるなよ?

そのままエッチな雰囲気になられたらめっちゃ困るからな?

 咲のは、日本人の女の人の平均と比べると……まあまあ大きい方だとは思う。

女性の皆さん、これはあくまでも俺がそう勝手に思っているだけだから違ったらごめんなさい……。

 俺基準からすると小さくはないが、大きいと言われたらそうでもないかなって感じだ。

まあ俺はそこを重視するわけじゃないけどな……。

学校とかにたまに巨乳女子とかいたりするけど、俺はそれを見て興奮とかは全く無い。

結局たどり着くのは体よりも内面的なことになってしまう。

 勿論、俺にだって体はどっちかと言うとこういうのが良いなとかはある。

でも、それだけじゃ見た目だけしか相手のことは判断できない。

元から俺は陰キャだからというのもあってか、人間観察をする癖があるというのも影響していると思う。


「悠真は触りたいって思ったことある?」


「は?」


「女の子の胸触ってみたいなとか思ったりする?」


 なんで急にそんなこと聞くの?

咲ってこんなエッチなキャラだったか?

メリーが加わってから咲の挙動が確実におかしくなっている。


「そ、それは思わないことはないけど……」


「じ、じゃあ触ってみる?」


「は!? さ、触る!?」


「わたしこの前悠真に伝えたよね。悠真のことが好きだって」


「ま、まあ確かに言ってたけど……」


「だから悠真がこうしてほしいっていう要望があれば、わたしは快く実行するわ」


「いや、今のは咲が最初に言い出しただろ」


「うっさいわね! そんなことはどうでもいいの!」


 何故か咲に怒られてしまった。

俺はちゃんと正論を言ったはずなんだけどな……。


「だから……わたしを頼ってくれたって良いのよ?」


 ぐっ……咲のその上目遣いが何故か可愛く見えてしまう。

咲は幼馴染なんだ。

だからそんな感情は普通なら持たないはずなのに……!


「ふふっ……顔赤くしちゃって、悠真もやっとわたしの魅力に気づいたのかな?」


「――――っ! 絶対に騙されないぞ……! 俺は咲のことそんなふうに見てないからな……?」


「ふーん……じゃあこれでどう?」


 咲は顔を赤くしながら、何か企んだような顔をした。

何かやばいことが始まりそうと思ったその時、咲は俺の腕を掴むと、俺の手を胸に押し付けたのだ。

俺の手に形が良くて柔らかい感触が伝わってくる。


「んっ……! ど、どう? 心地いい、でしょ?」


「――――!?」


「ふっ……んっ! はあ、はあ……」


 咲は俺の手でフニフニと押したり、擦るように動かす。

咲は色っぽい声を出しながら、どんどん快楽に溺れていくような顔に変わっていく。

体もビクビク震わせ始めた。


「や、やめろ咲! こ、こんなこと……」


 あれ?

何でだろう……本当は今すぐ振りほどきたいはずなのに、このままで良いやって言ってる自分がいる?

何だか、頭がぼうっとしてきた気がする。


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