第13話 微妙な二人の距離感
まだこの国に来たばかりで、分からないことが多いからなのか、中断してしまった龍の話がひっかかって、いつなは璃羽を無意識に心配した。
この国にとって龍姫がどれほどの存在なのか理解しない状態で、軽々しく璃羽にさせてはいけなかったのかもしれないと後悔さえしている。
いつながそんな思いにかられていると、璃羽はふと視線を逸らし、彼女らしからぬか細い声でボソッと話しかけた。
「……なぁ、いつな。お前はこの世界のこと、どこまで知ってるんだ?」
「あ?」
急によそよそしくなる璃羽を不思議に感じながらも、いつなは普通に口を開く。
「お前と一緒で分からないことだらけだよ。龍姫って存在が、この国でどれほどの影響力を持ってるかも分かんねぇし」
「……そうか……」
「? どうした? 璃羽?」
「……あ、あのな……」
歯切れ悪くなりながらも璃羽は覚悟を決め、思い切って訊ねた。
「――瑠衣、って知ってるか?」
「……え……」
その一言で、いつなの動きが止まったように見えた。
やっぱり聞いてはいけなかった質問だっただろうか。
不安にかられて彼の返答を待てず、聞く前に璃羽の方が話し出す。
「……知ってる人、なんだな? ……珍しいな、お前に女の知り合いがいたなんて」
「どこでその名を?」
妙に落ち着いたいつなの声音に、璃羽の不安が更にかき立てられた。
否定しなかったことで、彼の知り合いであることは確定。
もしかしてそれ以上の関係だったら?
そう思うと、璃羽の中でチクッと痛みを覚える。
「……嶺鷹が会ったって。その人は、私がつけているこのイヤーカフと同じものをつけていて、私達が来ることもその人から聞いたって」
「……妙だな」
「なぁ、お前は何であんな装置を作ってたんだ? 何が目的でこの世界へ通じる扉なんかを……?」
璃羽は気持ちをおさえるようにグッと拳を胸に押し当て、ゆっくりと訊ねた。
するといつなは、深刻そうに見つめてくる彼女の顔を見て、どこか諦めたように耳を垂らす。
「あの装置は、俺が全部作ったって訳じゃない。晴翔からの依頼で、あれを解析し、使用できるようにする為に作り替えた。元は晴翔の研究チームが開発していたものだ」
「晴翔の? なんで?」
「――その瑠衣という人物をこの異世界から救い出す為だ」
いつなは、今まで隠していたことを打ち明けるように、璃羽に説明し出した。
「名前は
「晴翔の、好きな人……!」
「そんな彼女がどういう訳か、まだ実験段階のあの装置で異世界にとばされたらしく、晴翔が俺に助けを求めてきたんだ。何とかして助けに行けないかって」
「それで、お前があの装置を……」
納得してか、璃羽の表情がパアッと明るくなった。
そんな彼女にいつなもホッとするが、一方で喜べる訳もなく僅かに俯く。
――本当は、お前を巻き込ませないようにしていた筈だったのに
悔やんでも悔やみきれない、一番の後悔。
巻き込むと分かっていたら、晴翔に協力さえしていなかったかもしれない。
――それほどまでに俺は……お前を……
「そ、そうか……そうか、晴翔の……」
「?」
どことなく納得しただけではない、璃羽の安心した様子にいつなは首を傾けていると、璃羽が調子付くようにして、楽しそうに訊ねてきた。
「なぁ、その瑠衣ってどんな人なんだ?」
「さぁな。俺は一、二回しか会ったことねぇし、大人しそうな普通の人なんじゃね? 晴翔が気にしてなきゃ忘れてたかも。お前と正反対、みたいな」
「む。どうせ私は大人しくなくて普通じゃないですよぉだ」
「分かってんじゃん」
「おいっ」
いつなに茶化されて頬を膨らませる璃羽だったが、あまり瑠衣という人物に執着していない彼の態度を見て、こっそりと胸をなで下ろした。
いつなも、普段の彼女に戻ったことで口元が緩むが、半分は苦笑じみているかもと内心思う。
――お前と正反対って、そこじゃねぇし。な
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます