第2話【セカンドリベリオン、あるいはラストサムライ】
「で、あんたたちはこんな山の中にアジトを持ってるって訳だ」
「基本はそんな感じ、ユーラシア連合も山奥だと動きは鈍くなるからね」
黒いロボットに抱かれて2時間、ちょっくら
「インターネットやなんやらは監視されてるんじゃないのか?」
「都市部ではね、検閲ごっこに忙しくて限界集落の掌握は後回しって訳」
確かに言われてみれば、ネットの取り締まりは完ぺきではなかった。
マイナンバーと紐づけられたアカウントで、ヘタな事を書き込めばどうなるかなんて火を見るよりも明らか…… という程でもない。
割とずさんな管理をされてきた国民番号は、支配者の思うとおりに運用できず。
ちょっと考えて発言すれば、ネットの発言で捕まるようなことも無い。
ただし、考えずに発言した人間が見せしめで逮捕されるパターンは多いぶん。随分と表向きは静かになったと聞いている。
なので精々表だと、縦読みで連合を褒め殺すのが関の山。
けれどちょっとアングラのサイトに潜れば、ユーラシア連合が躍起になって潰そうとしているテロリストの動画だって見れてしまうのが現状だ。
「だからって、電力消費量とか。補給とかでばれたりは?」
「連合相手にまともなデータ出す会社の方が少ないから大丈夫」
倉庫の中で、黒いロボットの手からベルトを外し。体が自由になる幸せを味わっている俺に。ミス静山はペットボトルを投げつけながら笑いかける。
「俺の反射神経が鈍かったらどうする気だった?」
「子供を助けた時の動きで、それなりにあるのは分かってからね」
そんなところから見られていたのかと、ちょっと渋い顔をする。
連合のティエンが3機、テロリスト狩りをするとかで。俺達の街に完全武装でやって来て。そのまま実銃を乱射し始める辺り、アレは完全にヤバかった。
彼女が近くにいると分かっていてやったのか、それとも――
「あの部隊がやっていたのは私に対する挑発さ」
黒い機体の肩に腰掛けて、ミス静山は肩をすくめる。
「そりゃ、レジスタンスを名乗る以上。民間人が虐殺されるのを無視できない」
「そしてミス静山が出てこなければ――」
「君たちの街は全員テロリストでした、死人に口なしで終わりって事」
「本当に、ふざけてる」
そんな怒りの言葉と共に俺はスポーツドリンクを飲み干した。
「ユーラシアがかい? それとも私が?」
「何はともあれ、ユーラシア連合だ」
大儀だの正義など、良く分からない理屈で攻めてきて。意図的に緩く定めた法律で好き放題殺して来るなんて質が悪すぎる。
「それと戦えなかったこの国」
俺はぐしゃりとペットボトルを握りつぶす。
そんな無法な国を相手に、十分な備えを怠った国に対して怒りを感じる。
ちょっと前、選挙権を持てていた大人は皆無能だった、とは言い切らない。
ユーラシア連邦が実戦投入したUMAはそれ位の規格外だったってのは、素人の俺にだって理解出来る。
だがもっと、なんて考えてしまう程度には。大人たちは何もできていなかった。
「そして何より、【特テロ法】のグレーゾーンをうろちょろしてた俺がだ」
そう、そもそも漠然とした閉塞感から。何となくレジスタンス活動にあこがれてアングラのネットで情報を集めるのは【特テロ法】を適応されかねない行為で。
それが国際的に、人権的に正しいのかは別として。
分かったつもりで、周りの人間を巻き込むなんてことは夢にも思わず。最悪自分が捕まって死ぬかもしれない程度の覚悟でやっていたのがムカついた。
「つまり、私が誘うまでもなく。譲二はテロリスト予備軍だった訳ね」
「一応は、レジスタンスなんだろう? 俺達は」
「そうね、勝って後世を作れればそうなるし――」
ひょい、と彼女は黒い巨人の腕を駆け下り、俺の傍にやって来た。こうしてみると意外と小さい。いや身長180に近い俺がデカいのか。
どっちにしろ、俺を見上げて笑うパイロットスーツを着込んだ少女は。
21世紀最悪のテロリストなんて言葉から遥か遠くにいるように見えてしまう。
「作ろうって気概がありそうな仲間が、ようやく出来た」
その笑顔と言葉は、本当に。ただの少女にしか見えなかった。
「ただ、俺は――」
言葉が纏まらない。
これが一番マシな死に方だと思って俺は彼女の誘いに乗ったけれど。だからといって後世や未来なんて、今よりマシにしたいなんて事くらいしか考えていない。
「過去の遺恨や郷愁よりも、未来を見て動くつもりがあるなら十分」
くるりと、彼女はその身を翻し。光の届かない倉庫の奥に向かって歩いていく。
そこでようやく、彼女の長い黒髪の下にある。少女に見えて十分な肉質を伴ったボディラインに気が付いて慌てて目をそらした。
おそらくは彼女の妙な色気を感じるスーツも、色々な効果を狙っていて。
黒をベースに白いラインが入ったそれは、彼女の愛機と合わせた特注品だろう。
「アニメやゲームなら、丁度月明かりが差し込んだりするんでしょうけれど」
カチリと、彼女が闇に向かってペンライトを向ける。ある程度予想はしていた。
MAUに対抗できるのは同じMAUだけ。
今の時代を支配しているのは、旧来のロボットアニメめいた理屈である以上。
そのユーラシア連合と本気で戦う【ジ・レジスタンス】ならば――
「私の駆るMAUリベリオンの2号機――」
対抗できるMAUを保有しているのは当然で。
「本当はティエン辺りで馴らしてからが良いんだけど」
ほんの少しだけ、彼女は組織のリーダーの顔をして。
「私達の台所事情も厳しくて、空いてるのはこの子だけだから」
俺をジ・レジスタンスに誘った時と同じ笑顔で言葉を紡ぐ。
「譲二、君にはこの子を乗りこなして貰うから」
「……出来なかったら死ぬだけと?」
膝立ちで主を待つ6mの巨人を見上げる。
ミス静山が駆るMAUであるリベリオンとは対照的な白いボディ。
そこに刻まれた赤いラインは、なんとなくこの国の国旗を思わせた。
「その時は、しっかり死様を利用してあげる。それが嫌なら――」
「だな、やってやるよ」
自信があるか無いかで言うなら、微妙な所だ。
一応作業用のMAUの操縦免許は持っている。数少ない娯楽であるMAUのシミュレーターだって無駄にやり込んだ。
だからって本物に乗って、ちゃんと動かせる訳はないが。アレだけやったのだからなんて気休めくらいにはなってくれている。
「こいつの名前は?」
「セカンドリベリオン、あと譲二は嫌がるかもしれないけれど――」
俺からの問いに対し気まずそうに彼女は続ける。
「この子の建造を支援した米国系の組織が、ラストサムライなんて愛称を付けてる」
なるほど、確かにそれは妙な気分になってしまう。金髪碧眼で江戸っ子を名乗るクォーターな俺と変な一致を見せて、反発心と運命を同時に感じ妙な気分だ。
「……この機体を俺に預けるってのは?」
「本当に余っているってのが9割、あと1割はちょっと似合ってるって思って」
そりゃそうだろう。ここまで符号が揃ったら、逆に意識しない方がおかしい。
「で、どっちで呼んで欲しい?」
半分ふざけてそう問いかけた次の瞬間、彼女のスーツのポケットから警告音が放たれて。これまで静かだった夜の倉庫を埋め尽くす。
「――うそ、こっちに向かってMAUの部隊が迫ってる!?」
どうやら俺の運命はロボットアニメみたいに転がっているらしい。あるいはこんな状況で生きて前に進める人間が主人公なんて呼ばれるのかもしれない。
「ミス静山、こいつの起動キーを渡してくれ」
「……本気? いいえ、正気?」
「数的には、俺を抱えて逃げられない位なんだろう?」
彼女は目をそらし、俯いて沈黙で俺の言葉を肯定した。
「どうせならやるだけのことをやった方がいい」
変な呆れと、高揚感が籠った吐息と共に、彼女は何かを俺に向かって投げつける。
それは目の前の機体と同じ白地に赤のラインが入ったカードキー。
「そうね、貴方とセカンドリベリオン、両方を失わずに済むかもしれない」
彼女について逃げる、確かにそれは現実的なプランだろう。
「けどさ、今ここで迫ってくる連合のMAUを――」
どうせやるならより無茶を、なんて言葉は爺ちゃんの言葉だったか。それともばあちゃんの言葉だったか。たぶん二人とも似たようなことを言っていた。
「全部倒せたら、楽しそうじゃないか?」
「はは、譲二がちゃんと動かせたなら。その作戦も考えて上げる」
そうして彼女は楽しそうにリベリオンに向けて駆けていく。
俺がラストサムライにちゃんと乗れるかなんて気にしていない、いや乗れるだろうと確信しているのだろう。
「ああ、やってやるさ!」
これで死んだら格好がつかない、けれどどうせ死ぬなら恥のかき捨て。
良い感じに彼女が利用してくれるだろう、そしてもしも生き残れたら――
ちょっとは自慢になると、そんな事を考えて俺は白いMAUへと駆け出した。
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