1日目-3

 意を決して門から一歩踏み入れる。古臭さはあるものの、境内はしっかりと掃除が行き届いており、ちゃんとしたお寺であることは分かる。しかし、何か違うのだ。言うなれば、視線は感じるけれどその姿が見えないような。何かねっとりとしたものに全身をなぜられているような。帰りたい、本気で思ってきているがいまさら口に出すことはできない。僕も嫌々ながら本堂に向けて歩き始めた。


 本堂に着き、戒壇巡りを行いたいと受付の人に伝えた。人数分の代金を払って、受付の前で待っている間に周囲を見渡してみる。本堂も掃除が行き届いており、見た目はとてもキレイなのだが、やはり嫌な感じは否めない。隣で立っている萌乃はさっきから口を真一文字に閉じて体を強張らせている。しばらく待っていると、住職とおぼしき頭を丸めた高齢な男性がやってきて小さな声で注意点を説明し始めた。


「この度はよくいらっしゃいました。この寺の住職の清院せいいんと申します。さて、皆さんは戒壇巡りのご経験はおありですかな」


 優しく、ゆったりとした口調で僕たちに問いかけてきた。僕たちは全員が首を横に振った。


「そうですか、女性も参加されるんですね。戒壇巡りでは通常の参拝と違い、御本尊の下側を廻ります。そのため、地下に降りると完全な暗闇に包まれます。岐阜県の一部の戒壇巡りは卍型の通路ですが、ここは善光寺などと同様にコの字型になっているため、迷うことはありません。壁を手探りで歩き進むと、ちょうど御本尊の下あたりで錠前に触れますのでガチャガチャと三回鳴らして下さい。そこを過ぎるとすぐに出口になります。まあ早い人で三分くらいでしょうか」

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