ヒロインはご機嫌ナナメ

冷門 風之助 

PART1 発端

 そのイベントが開かれたのは、ようやく例の”新型ナントカウィルス”の都内に於ける新規感染者が2ケタ台にまで下がり、あの緑の服がお似合いの都知事閣下が”緊急事態解除”の宣言をして、丁度一か月後の事だった。

 イベント自体は既に一昨年前から計画されていたらしいのだが、緊急事態が長引いて、先延ばしになっていたというわけだ。

 

  鬱憤うっぷんが余程溜まっていたんだろう。

 秋葉原にあるそのホールは約1000人近い参加者で一杯だった。

 しかも全員がアニメ、特撮、アメコミ、マンガ・・・・etc。

 揃いも揃ってありとあらゆるコスプレをしている。

 そう、日本のみならず、世界各国から参加する、

”ワールド・コスプレサミット”というわけだ。

 今はインターネットの時代だ。

 緊急事態解除の触れがネットの海で流れると、瞬く間に参加者が増え、

かくの如き状態に相成った。

 本当ならば有明あたりの、もっと大箱を借り切って開催となるところなんだろうが、そこはまだ直後ということで、主催者側も遠慮をしたんだろう。

 しかしここは今や”オタクの聖地”でもある秋葉原だ。

 これだけの人数が集まると、ちょっと壮観に見える。

 本来ならば、こんな依頼、俺みたいに”縁なき衆生”には、興味もないし、関係ないといって断るところなんだが、今現在我が懐はカラータイマーが点滅しかかっているという状態。

 そうなれば贅沢も言ってられない。

 探偵料を着手金として30万、必要経費と危険手当をプラス20万。

 更には無事に仕事をこなしたら、成功報酬として70万は約束すると、依頼人直々に約束し、金も振り込んでくれた。

 これじゃ断るわけにもゆくまい。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 俺の視線20メートルほど先に、他の参加者に混じって、一人の女性がいる。

 シルバーのロングヘア―のウィッグ。

 星条旗をデザインしたと思われるど派手で露出過度な衣装。

 革のウェスタンブーツに、同じく革のホルスター。

 そこには、カラミティ・ジェーンやアニー・オークレーもかくやと思われる銀色で銃把に凝った浮彫の入ったコルトフロンティアの二丁拳銃・・・・。

 原作は大人気の少年漫画で、最近はアニメ化もされ大ヒットになった、近未来SFアクション。

 銀河系を股にかけ、愛馬代わりの宇宙船で飛び回り、悪党どもをなぎ倒す男勝りの女賞金稼ぎが主人公。

 今、俺が見ている彼女はその漫画とアニメの大ファン、わざわざ海を越えてこのイベントの為に駆け付けたという訳だ。

 今回の依頼人というのが彼女の父親。

 そう、諸君も既にご存知の、あの”大兄”氏である。

 

 

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