第5話

 また視点は変わった。体が軽い。そして白い肌、細い腕、脚、小さい手。手の爪先は少し長めの赤いネイル。


 ストレートの長い黒髪、黒のワンピース、そして自然と大きな三葉の胸を鷲掴みしていた。

 ああ、大きくて豊満な胸……じゃない!!! リビングにある大きな姿見の前に行き俺は確認した。


 三葉に乗り移れた!


 これはどう言うことなんだ? 夢なのか。死んでるのに夢なんてあるもんか。頬をつねると痛い。

 生前の頃の俺の体にない軽さ、スムーズな動き、甘い香り。そして豊満な胸。何度も揉んで吸って……って俺はこうもアホなんだろうか。40も過ぎてガキじゃねぇか!


 にゃん


 後ろからスケキヨが出てきた。餌を食べた後、外にお出かけでもしていたのかい。

 おいで、おいで。スケキヨは最初じっと俺を見てる。正直言うと三葉よりも俺に懐いていた。オスだから女性に懐くものだと思ってたが……。


 そういえば三葉が言ってたなぁ。

「オスだからと言うわけではないのよ、和樹さんの方が落ち着くのよ、ほらー私も……」って三葉の体に乗り移って喋るからもちろん声も三葉だ。不思議だなぁ。


「スケキヨースケキヨーおいでー」

 スケキヨ、お前ならわかるだろ? 乗り移っても。


 みゃおん


 少しずつ近づいてくるスケキヨ。おいで、おいで。しゃがんで手を広げると恐る恐る近づいてくる。やっぱりダメか。

 ……スケキヨ、きた。


「わかるか? スケキヨ」

 口からは三葉の声しか出ない。体は俺じゃなくても匂いも声も俺じゃなくても俺は中にいる。それをわかるか? スケ……!


「うわわわわわわ」

 スケキヨはスカートの中に入ってきた。そうだ、三葉にはあまり懐かなかったがスカートの中に入っていくといういたずらをよくしていたっけな。羨ましかった、じゃなくて……。


「このスケキヨめっ! ってそうか……ふふふふ」

 今度スケキヨに乗り移ったら三葉のスカートに入る口実ができたぞ。


 スケキヨはスタスタと仏壇前の座布団へ。定位置だよな、そこは。俺は三葉に乗り移ったが胸を触って、これからどうすれば良いんだろう。風呂入るか……?


 ピロリン


 三葉のスマホが鳴った。見ていいのだろうか。でもロックされていたら見れないし。別にやましいことなんぞないだろうが……。


 ホームボタンを押したらすぐホーム画面が出た。そうか、指紋認識機能だから三葉の体であるから開いてしまったのか。いや見るつもりじゃなかった。開いてしまったんだ。


 ……!


 待受が俺とスケキヨだ。俺はそれを見た瞬間、ハッとした。そしてなぜか体が震える。1年経っても俺の写真を待ち受けに……にしても写真写り悪いな。

 それでも待ち受けにしてくれて。涙が溢れてる。アホか俺、なんで泣くんだ。近くにあったティッシュで涙を拭く。久しぶりに出た涙。


 ピロン


 もう一回メールの着信音。なんだ、2回も連続。いや、やっぱり人のスマホを見るのはダメだ。ダメだ。でも2回連続来たら……。


 俺はメールを開いてしまった。


『三葉さん、明日は10時でいいですか?』


 このメールの送り主の名前を見た。


倫典とものりくん』


「倫典くん……」


 なんであいつが三葉のメアドを知ってるんだ?! 

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