第3話 シェダルside

※視点が変わります



ハーシェル子爵家令嬢は変わったご息女である。

それは、社交界では有名な話だった。



彼女は、数学物理学の天才学者フレデリック・ギヨーム・ハーシェルの娘。



彼女の母カロライナは、音楽学の権威で、大学で教授として教鞭をふるっている。この国の学者の中では彼女の両親の名を知らない者はいないぐらい有名人である。



そんな学問の一家で生まれた彼女は、幼い頃から神々が作ったとされる天上の物に興味があり、日々探求をしていた。



長い筒型に鏡が入ったものを使って、天上にある色んな物を発見し、彼女がそれぞれに名付けをしているというのは、ごく一部の者しか知らない。



私は、彼女のことをそれなりに知っていたが、いつものように、相手の神経を逆撫でさせるやり方で尋問行った。

ハーシェル令嬢が私の元を去った時に、彼女の自尊心を傷つけてしまったのだと気づき、深く後悔した。



ハーシェル令嬢に合わせる顔がない。謝っても許して貰えるだろうか。

彼女が無実なのは間違いないだろう…そう確信した。



ところで、彼女は孤立していることを良い理由に、犯人に仕立てあげた者がいる。

皆が一緒になって彼女を犯人扱いしたが、最初に声を上げた人物が一番怪しいと踏んでいる。


それはヒドゥリー男爵令嬢だ。



彼女は、婚約者達の仲を崩壊させるクラッシャーだと、一生徒会の役員として、苦情を聞いたことがある。


令息達の間を蝶を舞うように飛び回る彼女は、まるで傾国の美女のごとく。何の目的で彼らを惑わしているのか不明だ。


その姿は、ハニートラップを得意とした諜報員のようにも見えるが、何故だか学院の生徒たちには、そう言った意味では全く怪しまれないのだ。それが不思議すぎて、私には理解できなかった。



それより、ミルザム令息が呪いにかかっている件はまだ解決していないので、時期に調査しなければいけないが、まず、ハーシェル令嬢の無実を証明しないといけない。



彼女が事件の時刻に天体観測を実際にしているには間違いないだろう。だが、誰も来ない庭や非常に周りが暗い場所でやっている。

夜間にそう言った場所に、誰も近寄ろうとしないので、目撃者はいないだろう。


アリバイを証明できる者は誰もいないのだ。


「彼女は犯人ではない」と私が公言したとしても、アリバイを立証できない時点で、駄目なのだ。


それから、どうやって対処するべきか半刻ほど悩んでいたが、答えは一向に出てこなかった。


頭を整理しに、一旦席から立とうとする。


ふと、彼女が居なくなった椅子を眺めてみると、椅子の下に、ノートを1ページ切り取った紙が落ちていたことに気がついた。


そのメモを見てみると、「こねこ座流星観測」と記載さらていた。



秒刻みに、時刻と方角が書いてあって、さらには、流れ星が何秒間流れたか。そして流れ星の明るさまで記載されていた。

その時刻を見ると、彼が付き纏いにあったと聞いた時間帯とピッタリと当てはまる。



ハーシェル卿と彼女が二人で観察していたのだろうか。

だとしても書いたのは、令嬢の方で間違いないだろうな。

それは何故か。


ハーシェル卿の筆跡は、ミミズのような読めない文字で有名で、常人では解読できないという話を噂に聞いたことがある。


しかし、そのメモに書かれた文字は、美しかった。


 

これを証拠として筆跡鑑定に頼み、鑑定結果の正当性を生徒会長であるエルライ王太子に認めて貰えば、ハーシェル令嬢の名誉は守られるだろう。



私は、最高裁判官である父の息子として、正義の女神に誓って、自分の行いに恥じないように今まで生きてきた。

そんな私が、初めて人を傷付けてしまった。人生の汚点と言っても良いだろう。



次回、学院で彼女に出会った時には、はじめに謝罪しよう。弁解を求めるなんてしない。私に絶対的な非があるのだから。


今日のことで、彼女の私に対する第一印象は、最悪だろう。

謝罪すら聞き入れてくれないかもしれない可能性がある。


それでも構わない。

私の思いが伝わるまで、伝い続けるのみだ。


そう決意した私は、側に控えていた侍従に命令を出し、事を進めるのだった。



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《参考程度に》


流星観測では、流れ星の流れた方角や明るさを観察して、計測をします。年によって流れる数が違ったりするので、主人公のようにメモを書いて計測結果を残す人もいらっしゃいます。


※こねこ座流星群は、架空の流星群です。乙女ゲームの物語の世界だけに存在するオリジナルのものです。

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