プロローグ1-3【能力をあげましょう、どれがいいですか?】



◇能力をあげましょう、どれがいいですか?◇


 この……【女神アイズレーン】だっけ?なんかスゲー胡散臭うさんくさい。

 急に話し方が脱力だつりょくするし、光る球体もフワッフワと俺の周りを行ったり来たりして動きがうるさい。

 良く聞けば、声もおさなく聞こえるんだが。いや、声は綺麗だけども。

 だから俺は聞いてみる。


「――なぁ、アイジュ……」


 やっべ……んだじゃん。


んでんじゃねーわよ』


「うるせっ……人と話すのは久しぶりなんだよっ!!」


 仕事はもっぱらメールでのやり取りが多かったんだ、別に好き好んで話す必要が無かっただけで、別に対人関係が苦手じゃない。いや本当に。


『まったく……アイズレーンよ。【女神アイズレーン】……それでもむならアイズでいいわ。面倒臭めんどうくさいし』


 妥協だきょうしやがった。

 何だかめちゃくちゃ舐められてる気もしなくもないが、仕方が無い。


「分かった。んじゃアイズ……単刀直入に聞くけど、お前本当に女神か?」


『――んなっ!し、失礼ね!!女神に決まってんでしょーが!!どっからどう見ても女神でしょ!?』


「どっからどう見ても球体だっつーの!」


 アイズは『あ!そーだったぁぁぁ』と、もうポンの確信しか持つことの出来ない言葉を出しやがった。もう……ついてねーな俺。

 俺は何もない真っ白い空間に胡坐あぐらをかいて座り、それこそ面倒臭めんどうくさそうに聞く。


「で、その自称じしょう女神さまが、なんで転生の作業なんてしてんの?」


『――自称じしょうじゃない!!れっきとした女神だっつーの!ただ新人なだけで!ちゃんと女神だしーだ!』


「――ほう。新人ねぇ」


 ほら見ろ。やっぱそんなとこじゃねーか。

 どうせあれだ、何かミスって間違って俺を選んじまったんだろ?


『そう、新人だけど女神。それに今回のイレギュラーだって、私のミスじゃなくて先輩せんぱいの……あ!しま……って違うし!』


 遅いって。けどそうか、なるほどな。

 俺の前に転生する筈だったじいさんが奇跡の生還をしたせいで、イレギュラーが起きて、その先輩せんぱい女神がさじを投げた訳だ。

 そんで、このアイズが代わりに俺を転生させるって言うんだな。


『と、と、とにかく……転生先は選べないから!サーバーパンク状態だから!』


 だから世界をサーバーって言うなよ!俺たちの世界がゲームみたいだろうが!!

 いや……もしかしたら神様からすれば、実際そうなのかもしれんが。


「いやもういいよ。適当で……異世界に転生して、勇者とか魔王とかの世界に行けるなら、もうなんでもいいや、はぁ……」


 ため息をいて、投げやりに俺は言う。

 詰まる所、早いとこ終わらせたいんだろうしな、このアイズって女神も。

 俺も、さっさと転生して忘れたい。


『ふっふ~ん、それは安心していいわ。空いてるサーバー、じゃなかった……異世界でいい所があるの。そこに転生させたげる』


「へぇ……んじゃそこでいいよ」


『オッケー。それじゃ特典ギフトを選びましょう!確かここら辺に……っと、あれ?どこだっけ……えっと、え~っと』


 ガサゴソと何かをまさぐる音が聞こえるが、もしかしてこの球体ってカメラかなんかか?


『あったあった。え~と何々?特典ギフトは一人一つまでで、今なら能力【無限むげん】がオススメだってさ。武器なら【魔剣カラドボルグ】ね。どれがいい?』


 球体には、様々な名前の能力や武器の名前が映されていた。


「うわぁ、めちゃくちゃそれっぽいじゃん……」


 見てただけで、何だか面倒臭めんどうくさくなってきた。

 俺はいっその事【無限むげん】でいいやと思い、アイズに言う。


「んじゃ【無限むげん】でいいや」


 何となく効果も想像できるし、聞かなくても分かるだろ。

 数字に関わるものだろうと勝手に解釈して、俺はその説明を受けなかった。


 武器は、まぁ何とかなるだろ。買えばいいし。

 俺が色々考えていると、女神アイズは。


『説明聞かなくていいわけ?』


「ああ。いいよ」


 だって無限だろ?そんなのMPが∞とか、ステータス数値がMAXとかさ、考えられるじゃないか。魔法を使い放題とかだろ。


『まぁいいけどね~。え~っと、能力選択は【無限むげん】っと……選択して、念の為に他のを解除……っと』


 おいおい、そう言うのってミスると怖いぞ?

 黙って選択だけしとけ~。


『んで、武器は無しだから……全解除して。よしっ!出来た!!』


「終わった?」


『終わったー!それじゃあ異世界に転生させるわよ?言っておくけど、赤ん坊から・・・・・だからね!』


「――は?」


 は?マジで?赤ん坊?赤ちゃん?ベイビー?このまま転生するんじゃねーの?

 あ、いや……このまま転生したら30歳の魔法使いだからいいのか……?

 でも、赤ん坊からやり直しってのもきつくないか?


『少しは我慢がまんして。イレギュラーな上に能力までつけたんだから、時間の経過くらい大目に見なさいよ!』


「自意識は!?」


『大きくなれば転生前の記憶も自然に思い出すわよ。(多分)』


 おいこら。多分って聞こえたぞ!


『はい聞こえない~、それじゃ行ってらっしゃい!よい異世界転生を~!!』


「ちょっ……まだ話……」


 まだ聞きたい事あるんだけど!?

 なぁ!どんな世界のどんな街!?勇者とか魔王とかさ!そういうのあるんだろ!?


 あぁくそっ!もう声が出せねー!!


 ――おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


『はーい。いってらー……ふぅ~疲れた……ん?あれ?……能力画面、なんか変?……あれ?あれれ……?』


 その画面は、全解除を押したはずの能力と武器の画面だった。

 しかし、項目こうもくの全てにチェックが入っている。


『……あれ、もしかして間違えて、全選択してた……やば……』


 こうして、三十歳の誕生日に命を落とした男の、異世界転生が始まるのだった。

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