第7話 黒い道

 エイジらより六時間多くこの世界を知っているショウが言うには、この黒い道はほぼ一キロメートル正方形の形で、雲の中に横たわっている。そして所々に地上に伸びる柱があると言う。

 第十五地域でこの世界が区切られる説は、ショウの探索ではないと言う事が分かり、よりもっと広い世界になっていると言う。

 城の存在はショウも聞いているが、どこにあるのかどこを目指せばあるのか、分からないと言う。

 この世界は地下施設があり、崖で区画させる地上の地域があり、天空の雲の中に黒い道があり、そしてどこかに城が存在して城主がいるのだろう、そんな四層構造になっているようだった。現時点では。

 彼ら五人のこれからの行動様式は、ざっくりと一つに決められた。

 ショウの風の力を使って、一気に黒の道をかつ慎重に前進し、往復三キロメートルを調査し、問題がなければ、みんなで前進する。

 もしショウが何か発見した時は、臨機応変に対応すると言う事だった。


 ユラが地図を作りながら、十数キロメートルの辿った経路を見ると、碁盤の目にはなっておらず、行き止まりに、一キロメートルの道の断絶などがあり、全く法則がなかった。

 また地上に下る黒の塔は、この十数キロメートルの移動で三箇所だけであった。

 自信に満ち溢れているショウですら、頭を抱えていた。

 五人の中で一番混乱していたのは、やはりルウスだった。自らにまとい付く水をストレスから浴びるように飲んでいた。

「みんな疲れてるみたいよ。エイジ、あなたの記憶で何か見えないの?」と息を吐きながらエラが言った。

「記憶、記憶だよな」と慌てるようにエイジは言うと、静かに目を閉じた。沈黙が辺りを覆った。

 エイジは集中力を高めた。彼の近々の記憶に「天から差し込む光」、「壁にE」の一文字が見えた。キーとなるのがこの二つだけだった。

 これをみんなに伝えると、一様に四人力を落とした。

 センリが言うと、

「二つを関連付けて解釈すると、天から光が差し込んでいる道の行き止まりか、どこかの壁に『E』の文字がある。エントランスかイグジットの意味だろうか」

「そう言う事にしましょ。これで進むきっかけが出来たわ。だからショウは天井から差し込む光を目標にして自由行動してね」とユラが簡単に指揮を取った。 

 続いてユラはルウスの元に近づいて行って、彼女の気弱な体調を労わった。ルウスは彼女なりに心身を回復させようとしていた。


 ショウはエイジの記憶二つを当てにして、自由行動しながら目標物を探していたのだが、いつの間にか、彼らの仲間の一人となってしまっていて、自由さが失われつつある自分に気付き出していた。

 彼らを後にし、三キロメートル・ルール内で行動を始めた。

 なるほど今までは、前方を見て動いていたが、これに天井までの光を加えると、新しい視点になると考えた。

 ショウは三キロメートルの偵察行動を四回繰り返して、ユラの地図に伝えながら書き写させた。未だただの迷路にしかなってなかった。

 ショウは以前行った場所にも行って、天井の光を探してくると言って地図を持つと立ち上がり出て行った。

 暫くしてショウは戻って来たが、彼の顔は薄闇で浮かない表情だった。

「今まで行った場所には、エイジの言うヒントはなかった。ちょっと休ませてくれ」と言うと腹の風を止めた。

 休憩とルウスの水を飲む事で少しの体力を回復させた。

「地図作り以外に何か出来る事はないの、私たち?」とユラがショウに言った。

「君らと動きが違うのはしょうがない。それが俺の能力だ。君らは自分の能力を来たるべく時のために、メンテナンスしておいてくれ」

 ルウスの方を見てショウは言った。

「彼女の身体は弱っている。原因は彼女を包む水だ。あれは微かに汚れを来している。彼女が一番、飢え飲んでいて、悪影響が出て来ている。そして俺も含めて君らも飲んでいるから、いずれ影響が出て来る。対策を考えた方がいいが」続けて言った。

「俺はこの特殊な能力を『台風』の力だと考えている。君らも考えていたほうがいい。因みにルウスは、『雨』、『汚水』だと考える」

 突然のショウからの問いにみんなは驚いた。「自然現象」が特殊能力に関係していると言うのだった。

 エイジは「熱風、灼熱」と考えられて、ユラは「地震」、センリは「火災、火事」と言う事になった。「自然現象」はコントロール出来ないもの故に、それをコントロールする事が、能力を持つものとして肝に銘じておく事が重要だとショウは言った。

 ショウは我々四人の教師か何かなのか、この世界のと言うような不思議な態度を取られ、呆気に取られた。


 さてショウの一言でルウスをどうしたらいいかが、五人の最優先事項になって来ていた。

どんな汚水なのか想像がつかないでいた。限りなく透明な汚水。金属物質が混ざっているのかも知れない。

 一先ず、ルウスには厳しいが汚水を飲まないように、エイジが指示した。

 この間にショウは天井の穴、Eマークを全力で探して周り、ユラに地図を書き起こさせた。

 さっきまで地図をなんとか見ようとしていたルウスだったが、今回は新しい地図に反応を示さなくなった。

「ルウス、ルウス!」みんなで声を掛けてみたが、虫の声だった。何か呟いているが、聞き取る事が出来なかった。

 ルウスは突然にゼリー状の水を一気に弾かせて、黒曜石の至る所の床を広く濡らした。そしてその水は少しずつ集まり、くねくねとした平たい蛇のように変化した。

 次に何かを目指すかのように移動して行った。ルウス自体は動けず、残りの四人で地図を書き込みながら、それを追った。

 曲がりながら十数キロメートル移動しただろうか。行き止まりに達した。そして天を見上げると、直径十メートル程の光の穴が確認できた。

 エイジは正面の壁に向かって、走り出した。

「Eのマーク、Eのマーク」と声を上げながら、探し回った。他のユラ、センリ、ショウも出来る限り探した。

 すると壁の左端寄りに高さ三メートル程の位置に「Eのマーク」をようやく見つけ出したのである。そしてそこには、地上へと向かう螺旋のスロープが存在していた。

 それを確認するとショウはルウスの身体の様子を見に、作成された地図を元に、腹の風を強くし彼女の元へ急いだ。


 蒸すような湿度は変わらずだった。

 ショウが彼女を見た時は、指先を指し示して黒曜石の床に横たわっていた。もうすでに異臭を放っており、何十匹の蝿が彼女にたかっていた。見えてはないがウジも湧いているだろうと想像した。

 この事をみんなに伝えて、亡骸は火葬に処した方がいいと考えた。ショウは彼らの待つ所まで憂鬱な気分で帰って行った。


 ショウが戻り重い事実をエイジ、ユラ、センリに伝えた。

 エイジとユラは無力さに涙が止まらなかった。

 センリは何か手はあっただろうと悔しさに目頭を熱くした。火葬にはセンリの炎が必要だった。彼は地図を元に先頭を切って彼女の元へと急いでいった。

 その場に到着し、ルウスの成れの果ての肉体を見て集まったみんなは涙した。

 センリは網状の左足を抱え上げると、大量の火炎放射をルウスに浴びせかけた。最大の高温にして数十分続けた。

 網状の足は赤くなる事はあっても、崩れることはなかった。

 死に際の姿は未だ頼りなさが残るルウスだった。しかし最後に誰もできなかった大きな仕事をやり遂げた。それを称賛しながら涙目で、燃え盛るルウスをみんなで眺めていた。


 遺灰と骨を残したルウスは、みんなリュックサックの中の瓶の中に遺灰を入れ、防災ラップで各々一つずつ骨を包んで、リュックサックに丁寧にしまった。

 残った遺灰と骨と網状の義手を床のコーナーにまとめた。もうこの時には、ルウスはみんなの心の中にあった。

 みんな沈黙したまま、「Eのマーク」がある壁へと戻って行き、ルウスと別れを告げた。

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