#40or57:自業or自得

 朋有【5】灰炉【4】洞渡【4】杜条【4】鍾錵【5】在坂【5】春日【3】


 しかしこの完全混沌の状況の中、慌てず動ぜず出し手を留まらせた、それが功を奏したのか。それともフリーズして何も出来なかったのが真実か、ともかく。


 綺麗にトリオ被りにて沈んだ他六名を突き抜けるかたちで、春日嬢が初志貫徹の【3】を通した。持っている、このヒトも。うぅん、俺が何することも無くともいい方向に転がるんだなぁ俺は本当に要らないコなのかぁぁ……との詮無い思いは、


 しかして、これすらもまた杜条の術中範囲内であることに思考が到達した瞬間、かき消されてしまうわけで。


鍾錵  800 【3】【4】

灰炉 1000 【2】【3】

在坂  600 【1】【3】

洞渡 1000 【1】【6】

朋有  800 【2】【6】

春日  700 【2】【6】

杜条  900 【2】【5】


 最終五ターンは、残り札からの二者択一。かなり選択肢は限定されることもあって、それゆえに行き着く先も見えてきている。見えてきてしまっている。


 偏り……


 【4】を持っているのが鍾錵だけ。【5】を持っているのが杜条だけ。ということはこの二人はそれを出せば無条件に通るわけだ。そしてその場合の最終の多寡は、杜条の千四百万が上回る。すなわち優勝が最も近いことになる。


 これに並べる、あるいは上回れるのが洞渡と朋有になるが、どちらも【6】を出さなければならない。つまり今のままでは被って相討ちというか犬死に。協議するしかない。その場合、朋有に託すと杜条の千四百万と並んで、細則により、残り札の大きさで勝負となるが、それも【2】で同じ、であれば運否天賦の「くじ引き」に持ち込まれてしまう。勝てる確証は五十パーしか得られないので、洞渡の千六百万に賭けるしかないだろう。だが【6】を持っているのはもう一人、春日嬢がいる。ここも協議に加えないと確実じゃあない。


 協議……この局面ではもうカネだろう。カネしかもう物は言わなさそうだ。


 しかし協議でカネを使ってしまうと、今度は優勝が覚束なくなってしまうというジレンマ。洞渡が確実に優勝するためには、百万を朋有に渡して、【6】を出すことをやめてもらうといういささか不安の残るやり方しか残っていない。さらに朋有としては百万だけでは承諾しかねるだろう。その場合、優勝賞金二千万の一部を吹っ掛けるはず。せめて出し手の六百万くらいは。さらには春日嬢が【6】を出すのも阻止しなくてはならない洞渡はさらに出費が嵩むだろうが、そうすると杜条に競り負けてしまうことになってしまう。


 洞渡としてはもう既に一千万を得ている。そこで良しとして降りるのもありだろう。例のペナルティが反故になりそうという空気になってからは、そんな選択肢も横行してきた。本当に反故になるなんてことは、言われてやしねえのに。人畜無害な仮面の下は、どんな性獣が隠れているか分からねえんだぞ? 決めつけるのは早計過ぎるんじゃねえか?


 七人の中で、この局面に至っても微笑を絶やしていない彼女だけが、【1】を一枚失っただけで立ち回っている。俺はこのヒトの身体も……あの丸顔のヤロウから守ってあげたい。「史実」だ何だはもうどうでもいい。


 そして優勝賞金二千万を掴ませてやる。あんたは物事をフラットにニュートラルに捉えられる聡明なヒトだ。秋葉原くんだりで留められている器じゃあねえよ。俺の母親なのかそうじゃないのか、そうじゃなくなるのか、それは分からない……その上で、


 自由な人生を歩んで行って欲しいと、思ってしまうまである、今の俺の思考は。どうかしちまったのか。惹かれてしまっているんだ、多分。記憶にも無かった母親を、感じられた。それで充分だ。俺の母親であらなきゃあいけない理由は、どの世界線にも無え。


 そして勝負事なら勝つが信条だ、それが俺だ。これからもそれが俺のはずだ。


 すり替えてやる。春日嬢が優勝する目はまだ細いが残っている。


 在坂は戦線からは外れたから考えなくていい。鍾錵もどちらを出しても【6】を出した春日嬢を上回れることも被ることもないので放っておいていい。【5】を出すだろう杜条の札を【2】に、これは確認しなくても必然だから単純にすり替えればいい。


 あとの三人が厄介だ。降りるか行くか、分からないから。ということは札を確認してからすり替える、あるいはステイするかを判断して回らなけりゃあか。結構な手数だぞ、こりゃあ。


 だがもう躊躇はしねえ。春日嬢だけに【6】を出させる。そして杜条に【5】を出させない。それを為せれば、春日嬢が千三百万を得て晴れて優勝と相成る。いや、相成らせる……ッ!!


 協議は行われない模様だ。最後だからさっさとやればいい、との灰炉の言葉に全員が首肯し、じゃああと一分で締め切るから最後の札を切ってね、とシンゴもそれを受けて仕切るが。


 いやぁ、ちょっと時間が短いじゃあねえかよ。とか躊躇ってる場合か、


 いくぞ。


 次の瞬間、俺の小さな身体は真っ白なテーブルクロスの上を滑るようにして、目指す「札」たち目掛け走り始めている。勝つ……ッ!! 絶対に……ッ!!


 しかし、


 その刹那、だった……


「ヌハハハハ!!」

「そう来るだろうことは」

「先刻承知なのだよ!!」

「何故なら思考は大体同じ」

「の我々なのだか」

「ら!!」


 上空から何故か円陣を組むように円く肩を組んだ六色のちびこい「俺」らがスカイダイビングのように降下してくるよえらい混沌もあったもんだ……


 まあそう来るだろうことも何となく分かっていたよ、思考は変わらねえもんなぁ……


 ちょうどいい。ここでケリをつけてやるよ。


「……かかって……来ぉぁいッ!!」


 ここ一番の気合を腹から炸裂させ、俺は俺の2Pカラー共たちに向かって突っ込んでいく。

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