#36or61:一心or同体

 第一ターン、決着。


 プレ提示、からの協議によって、思わぬ方向へと転がり始めたかに見えたこの勝負……誰の思惑によるものなのか、それとも色んなそれらが混じり絡まり合って、誰もが制御不能のカオスのとばぐちに既に全員足を取られてしまっているのか、それは勿論、分からないままであって。


 結局、「本勝負」三つ巴を制したのは、あの洞渡。しかも【3】で押し抜いた。こいつは大した胆力、あるいは運、あるいは? ……何だろうな、運命? いやいや。


 スコアを得たのが五名、ゼロのままが二名、そして厳然と差がついてしまったのならば。


 ……もう穏便に済むことは無いんだろう。坂を転がりだした感。殺気走った空気が四角いテーブルの上を這うように淀む。そんな中、被った灰炉と鍾錵の【1】を得たシンゴはほくほく顔で小太りの身体を震わせていたりするが。凄えメンタルと言えなくもない。そしてさらには、


「はい、一ターンの勝ち分を配布するよ。このおカネの使い途も……もちろん自由」


 無造作に掴んだ札束を、それぞれの「勝者」の目の前にどさりどさと置いて来やがった。


 杜条:六百万、春日:五百万、朋有:四百万、洞渡:三百万、在坂:二百万。


 やはり間近で見る現ナマには、何と言って分からないが奇妙な説得力みたいなものがある。我が春日嬢の前に転がるは、俺の見たことも無い大金、五百。上々の滑り出しと勿論言えなくはないのだが、不気味な制限要素、「【4】の差し押さえ」もあったりでまったく油断は出来ない。


「さてじゃあまた『七分』時間を取るから、それぞれ出し札を決めてね」


 自分はテーブルから少し離れた窓際の椅子によいしょと腰掛けながら、シンゴは今度はこの部屋から辞すということはしないようだ。こいつはもう本当に分からない。が、


 平常心を揺らされてる場合でも無い。次を、次を考え読み切るんだ。と言いつつ俺はまだ何も出来てはいねえものの。


 【6】を通した杜条同様、【5】を通した春日嬢も当然、マークの対象となるだろう。こいつらだけにはもうリードをさせない、的な。それでも杜条はもう最大の【6】を出したから、まだ何というか面々の思考のバイアスが緩い、気がする。となると春日嬢の【6】、これをいつ出すか、それが目下の最重要動向と見られていてもおかしくねえ。そうか、それを見越して洞渡は【6】を握ることをやめたのか? 【6】は泳がせておいて、春日嬢およびその動向を注視する輩たちの思考も知らぬうちに制限させる……? いやぁ、そこまでの思考の積み上げって出来るもんなのかよ、深過ぎるぜ。うぅぅん……


 ヒリついてく場の雰囲気。取り敢えずは仕切り役を買って出た杜条の進行に任せるか? とか考えてたら案の定、余裕の表情で切り出してきた。


「プレのやり方を変えていきますかねぇー、あくまでまだ『共闘』ってことを鑑みると、私が次も【5】とか通しちゃって勝敗がはっきりしちゃうのは避けたいところでもあるし」


 わざとらしい口角上げた微笑は、はっきり煽りを含ませたものだが、そこも計算のうちなのかも知れない。緑のフレームにそっと細い指先を当てながら紡ぎ出した提案は、「点数低い順に数字を呈示していく」という穏当かつ順当なものであったものの。


「後出しで潰してくるつもりじゃないよな……?」


 腹に響く迫力ある低音で斬り出してきた灰炉の切れ長の目が、その目の前の杜条を射貫く。が、ええー、それってメリットあるー? との軽やかな声はその殺気走りを全く意に介していないようであって。


 考えてみると、確かにメリットは無さそうに思える。先に出された目を自分の同じ目で潰す。最終盤ならあり得る戦法かも知れねえが、まだ二戦目。ひとりをロックオンして一緒に抱いて沈んだとしても、他の面子がいる。漁夫の利、まさにそんな言葉が浮かぶ。それにそもそもお互いの取り分を協力して確保するって建前だったはずだ。ここで瓦解してしまったらシンゴの思う壺のような気がひしひしとしている。窓際に目をやると、ゲットした赤と黄色の札をその丸い手の内で弄びながら声に出さない笑い声を立てているよ怖すぎるよ……


 いや、考えろ。その体で行くとすると、春日嬢は六番目に出すことになる。先の五人がバラバラに出すとして、最後に残った数字を選ぶのが自然だろう。だが【5】が出されなかった場合は、カブるものを出さざるを得ない。【4】も洞渡に委託されているため、そこで切っていいという指示は彼女にメリットが無いから出さないと思える。さらにはそこでこじれそうな予感もあって、心情的には避けたい。っていう諸々は他の奴らは把握してるのか? それぞれの女性らの傍に浮遊している「七色」たちは相変わらず無駄な闘志のようなものを漲らせるだけ漲らせているだけ、そんな有様だが。


 多分大丈夫だろう。四番手に洞渡がいる。それに春日嬢の動向は誰もが着目しているはずだから、自ずとそう動く、だろう。そこは大丈夫、そう考えないと先に進めないのでそうする。しかし、


「……」


 であれば最後の杜条の挙動、これに尽きるんじゃあないか? 七番目、ということは必ずカブる、カブらざるを得ない。それ込みで、ここでブッ込んでくること、それはあるのか?


 ……無い、と信じたい。何より自身がのたまっていたように、メリットが薄い。であればここは穏当に動くはずだ。すなわち、


「オッケーオッケー、みんな分かってるようでありがたいわぁ。この調子でみんなでどかっと持ち帰っちゃおうよぅ~?」


 歌うかのような口調で杜条。呈された札は、


 鍾錵00→【6】

 灰炉00→【5】

 在坂02→【4】

 洞渡03→【2】

 朋有04→【3】

 春日05→【1】

 杜条06→【1】


 こうなった。なるべくしてと言えなくもない。が、これで皆ほぼ横一線。シンゴに奪われた札も【1】が四枚。全員が全員、非常にうまく立ち回っているように思える。それだけに不気味かつ、いつ崩壊して鉄火場が現れるのか不安ではあるが。

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