#24or73:東奔or西走

 何とも言えるところはほぼ無いが、何と勝った。それもルールの隙をついたノーぐうの音な勝利……


 天城の何か含んだような喜びようと言ったら無かったもんだが、当のシンゴはかっちり「勝利金」百万を押し戴くと、そのまま背をこごめた姿勢にてあまり膝を曲げずにすすすと絨毯の上を滑るようにして会場を辞していったのであった。


 対局のことよりもその後のバイトの事に気持ちは持ってかれているようだった。大したもんだよそれでも。初めてこいつの「凄み」の一端を見た気がした。……見せられた気がした。


 逆に俺は傍観者であるところを思い知らされた、というべきか。そもそも天城始め、初っ端地下の喫茶店で顔を突き合わせた時から薄々分かっていた。


 宿主の意識が残っていることの方がイレギュラーであることを。


 俺はそれをアドバンテージとして捉えていたが、いや、捉えようと思い込んでいたが、どうやらそれは今のところ有利といった話じゃあ無かったようで。そもそも俺が役立っていないという状態。ならどうする、というような思考のベクトルも無く、ただ今俺は、能力の片鱗を見せ始めたシンゴに流され引きずられていくままに、「九十六年」の世界を薄ぼんやりした「意識」で流していくように過ごすばかりであって。


 そして、


「あっるぇ~、底面に薄い磁性体を仕込んではいけないって書いてありましたっけ~」


 二週間後の「六月二十八日」、第二回戦においても。シンゴは例の「察し、からの策ぶちかまし」と表現したらいいか、ともかくそのようなものでいつの間にか必勝の場へと相手を引きずり込むと、極めてするりと次の瞬間屠っているという、深海の底に潜み正体を掴ませない肉食の巨大魚のような不気味さで勝ちを掴んでいたわけで。


 そんなわけで、もうその対局時は俺も凪いではいた。そして悟っていた。ここまでは前哨戦だと。天城のお眼鏡に適うかどうかの、単なる選別。始めっから分かっていたことではあるが、そこに反発してやろうという気持ちも初期は無くも無かった俺は、今はもうだいぶ牙も毒気も抜かれた状態であって。そして現に初っ端集った面子は五人共に勝ち上がっていたわけで。ある意味出来レース。どのような勝ち方をした、とかは残念ながらというか、そちらにあまり興味をお示しにならなかった本体サマがまたしても早々にバイト場に向かったために当然の如く、不明だったが。見たところでそいつらの底までは見えなかったかも知れないし。そして、


 九十六人いた参加者も、二回の対局を経て半々になっていったから当たり前だが、いまや二十四名。顔は見知ってきた感じだが、それ以上の接触はお互いなく、ただ何となくここからが本当の闘いになる、みたいな雰囲気を、表面上は穏やかな空気のなかに滲み出させているようだった。


 そして「倒した相手から能力を奪い取る」。特殊な武器のようなそんな「ルール」のもと、俺が得たのは「竜象之力りゅうぞうのちから」と「引張ひっぱ応力おうりょく」……だと?


 この辺りはもう意味不明過ぎるので流すこととした。そしてここから鑑みるに、元よりの「創造力」は当たり能力だったんじゃね? という思いに至っただけでまあ良しとすることとした。


 それよりも。


「いやぁ、せっかくの七夕だし、みんなで星を見に行かないかなぁ、っていう、そんなお誘いなんだけど」


 だいぶすんなり喋れるようになってきたな。例の如くのファミレスバイトの合間合間に例の嫁候補七名に声をかけて回りまくるという、恋愛ゲームで例えるとトゥルーエンドからは真逆の破滅の未来しか見えないような行動にいそいそと勤しんでおる輩がおるがェ……


 本当にハーレムエンドを目指すのかよ。そこにもし行き着いたとしたら、俺はどうなるんだよ。日に日に激しくなる身体の伸び縮みに辟易としながらも、その「七色の俺」らの誰一人欠けることなく今に至っているわけで。


 つまりは未だ七人全員にロックオンしているという状況……それを容認しているかのような「彼女」らも彼女らと思わなくもないが、端から相手にしていないのではと思うとそこは納得出来なくもない。が、あれほど対局以外の無駄遣いはしないとか言っていたのもいつのことやら、丸顔は「彼女」らに対しては随分カネ離れがよくなって来ていて、アフターと言うと語弊があるが、バイト上がりにメシやらカフェやらに誘い出すこともまめにやっておって。


 うまいのは一対一に持ち込まないところだと思う。そしてたいてい二人か三人、それも特定の誰と誰に集中しないように、その二人三人の組み合わせも日ごとに変えているというところもだ。さらには飲み食いを全持ちと。これは余程のことが無い限り三十分かそこらは付き合ってくれるお誘いだ。もちろん断られても深追いせず、別のコに声をかけていくと。巧妙だな。


 「自分が特別視されていない」っていう状況は、女性にとっては警戒心よりどうやら勝るようで。


 何を奢ってもらったとかどんな店に行ったとか、そういった話もあの七人の間ではけっこうな頻度で交わされているだろう。そこに段々「自分だけが」といった優越感が滲んでくるようになっているのでは。さらにはそこからの「対抗心」的なものが。


 芽生えてきているのではないだろうか……


「全員狙い」という、かえって意外過ぎて盲点である下心が、うまいこと薄められて下心感を掴ませないというところも、考えているのかいないのかは分からないがハマってるのか、ともかく俺の意に反し、いや森羅万象に反し、徐々に形成されつつある。


 シンゴを中心とした女性たちの人間模様とやらが……


 人心掌握……シンゴの奥がどんどん知れなくなってきているのだが。

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