#11or86:無為or無能

 「想像力」。では無く「創造力」。と言われても。


 どう出る。まずはそこだ。そもそも「能力」とやらがどう発揮されるのかも分からない。「創造力ッ!」とか言ったり思ったりすれば炸裂する類いのものであれば分かりやすいかもだが。いや、分かりやすい、では駄目だろ。ここは慎重に考えろ。この場でワケも分からずぶっ放すにしろ、「対局」の体が成っていない場でやるのははっきりの無駄撃ちというかそれ未満の悪手に過ぎない。ひとまずは秘しておいての、今後どうするかは持ち帰り案件だな……と、そろそろシメの空気に入ろうとしていた場に呼応するかのように、俺もシンゴを促してそのテーブルから立とうとした。まさにその、


 刹那、だった……


「ぼ、ぼ僕の能力はッ、『創造力』です!! ほらここにちゃんと書いてありますよね? そ、そういうことなんです……」


 おい。シンゴはその小太りの身体をいきなり弾ませるようにして立ち上がったかと思ったら、そんな唐突も唐突に過ぎるカミングアウトをかましやがったのだが。お、お前に思考を深めるという能力は備わってはいないのか?


「ありがとうございます、シンゴさん。まあ私にだけ教えていただければ良かったのですが、それはそれ。しかし『創造力』ですか。どんなものかははっきり『想像』も付かないというか、はは」


 その面前で、一瞬何かを考えたかのような顔をした天城は、次の瞬間には「相好を崩した仮面」とでも言うべき表情に移行すると、どこか面白そうにシンゴを見やってくるのだが。やっちまった感というのはある。が、俺の目の前の丸顔には、後先考えずに目の前のエサに喰い付いただけと言うには、早漏仮面の一枚下に隠された何らかがあるような気がした。いや、俺の思い違いな過大評価かも知れないけれど。


「こちらお納めください」


 何とも混乱状態の俺を置き去りに、長髪を揺らした天城は傍らのオレンジパーカーという出で立ちにそぐうかのような軽薄な薄い紫色の小さなデイパックのジッパーを鳴らすと、そこから無造作に分厚い茶封筒を掴み出した。二束。そのうちひとつを軽く指先で探って半分くらいを抜き出したかと思うや、もう一束と重ねてテーブルの上をシンゴの方向けて滑らせてくるのだが。


 百五十万。この選択が正しかったかどうかはまだ分からない。が、こちらとしても全然把握出来ていない曖昧な「創造力」という単語ひとつを露呈するだけでこの収入はデカいと判断してもいいんじゃあないか? とか思っていたら。


「先越されちゃった感あるけど、私は、はいこれ『洞察力』。そっちの丸顔さんが一同に御開帳してくれたから私も晒すわ。でもこの能力の『字面』だけでいいの? 天城さん的には能力中身も知りたいんじゃ、とかも思うけど。ま、私にも全然自覚というか全く掴めてはいないんだけれど」


 ボーイッシュ双丘、鹿屋があっさりと続いてきた。が、言う通り「能力名称」だけで是とされた事は幸甚じゃあないか? 手の内をさらけ出したとまでは全然いってないだろうし、却って能力云々を逆手に何か仕掛けられる可能性もあるし。まあその辺りも天城は把握してそうだが。情報収集。カネの力に飽かせての目的はどうもそこに集約しているように感じられるから。となると我が丸顔の選択は最適だったと言えなくもないか。なんて思っていたら。


 あいら「応用力」、日置「走力」、三島「背筋力」、出水「念力」と、全員が全員晒して来やがった。のはまあ想定範囲内と言えなくもなかったが、その内容。コギャル以外、陰鬱野郎もリーマンも明確にハズレ能力だろ。「筋力」ですら無えんだな。背筋の力が発揮される勝負だったら負け無しなのかも知れねえけど。とは言えここにいる面々には知れ渡ってしまったのだから、そうそう自分の土俵には引き込めないと。そして清楚お嬢様は何だろう、サイキック?


「……」


 どこまであの首謀者、猫耳を信じていいか、のっけから分かってはいなかったがここに来てさらに意味分からん。っていうのは総意みたいで各々判然としない顔つきで札束を受け取っているはいるが。当の天城だけは何でか分からんが納得した感じの充足した表情で事務的にカネを渡している。


 勝った相手が敗者から「能力」を奪い取るだか引き継ぐかだの「細則」、あったよな……天城としてはこの交渉、「自分が引き継ぐべき能力」の品定めをしたいだけなのかも知れない。相手の強さとか自分との相性の善し悪しとかはまるで眼中に無く。つまりは、


 いかなる対局であろうと自分が勝つという前提なんだろう。いけすかない思考回路だが、現に一歩も二歩もイニシアチブを取られている感は否めない。そんなどうともしがたい思考をこね回すばかりの俺を置いて今度こそ三々五々ハケ始めたこの「集会」。四日後までに何が出来るか。そこを固めないとあっさり喰われてしまいそうな、そんないやな予感だけがこのスカスカした「身体」をありもしない血流のように巡っているのだが。

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