エレノアは世界を救えるか ~女神様と行く異世界救世旅~

なべ

旅の始まりは唐突に

真っ白い世界を認識して、私はそこで目を覚ます。


「やっほー、久しぶり」


そこで、見知らぬ女の人と出会う。


「誰?」


「私のこと覚えてない?」


私の知り合いにこんな人いたかな。

だとしたら、失礼なことに……


いや、知らないってこんな淡い青色の髪で薄着の女神っぽい人。


「記憶にないですね、ごめんなさい」


「そっかー残念。 なら、自分の名前はわかる?」


「エレノア」


自分の名前なんて忘れるはずもない。


「じゃあ、両親の名前は? 一番の親友はどんな人だった?」


「この質問に何の意味があるんですか」


「いいから、答えてみて」


「両親の名前は……」


そこまで言って言葉が出ない。

思い出せない。

それを知ってて聞いてきてる。

そもそも、私はなんでここにいるんだ?

もし、死後の世界なんてものがここだとしても、私が生きたころの記憶はあってもいいはず。


「私に何をしたの? あなたはものすごい存在で私の記憶を消したとか?」


そんなことをして何の得になるんだ。

でもこれくらいしか思い当たる節はない。


「まぁ、だいたい合ってるかな。 私は女神ですごい存在だし、あなたの記憶を消したのもそう」


「倫理観がおかしいよ。 そんなに私は大罪を犯したの?」


いや、神様の倫理観は私では測れないかも。


「うーん、どうなんだろうね」


「何その煮え切らない答え」


そろそろ、この着地点の見えない会話にも苛立ってきた。

この女神様は結局のところ私に何をさせたいのだろうか。

何もわからない。


「それで、私はなんでここに?」


「まずは世界を救ってほしいな」


「私にそんな力ないはずだけど……」


私にどこまでの記憶が残っているか分からないけど、そのはずだ。

私はそんなすごい人間じゃなかったはずだ。


「それは心配しなくていい。 今のあなたは控えめに言って最強だから。 女神パワーで!」


そんな風にニコニコしながら言っている自称女神。

それでいいのか世界。


「なら、やるけど。 私で良いなら」


「あなたが良いんだよ」


「変なの」


何だかんだと一本道に乗せられて、世界を救うことになったらしい。

記憶のことは多分聞いても教えてくれないだろうから、世界を救った後にでも聞いてみようか。


「それはそうと女神様」


「アンリテって呼んで」


「それはそうとアンリテ様、」


「アンリテ!」


「……アンリテ、私裸なんだけど」


なんで今の今まで気が付かなかったと思ったけど、この白い空間は寒暖を感じないし、風なんか吹かない。

それに、色々な情報が入ってきて忘れていた。

忘れていたというかすっぽり抜け落ちていたみたいだ。


「……もしかして衣服の概念まで忘れてた?」


「違う違う! 記憶に関連しそうなものだったから、脱がせておいたの。 全部を忘れているわけじゃないから心配しないで!」


よほど私に記憶を戻させたくないらしい。

そんなに露骨に隠されると気になって来るけど、またのらりくらりと躱されるだけだろうし。


「服を出せたりはしないの?」


「もちろん出せるよー、ほい」


よくわからない空間に手を入れ込んだと思ったら、なんか出してきた。

それは明らかに生地が薄く、アンリテが着ているものによく似ている。


「女神仕様の服じゃないものでお願い」


「えー、これいいと思うのになぁ。 金色の髪だと女神感があるけど短めだし、やっぱちょっと似合わないかな。 しょうがない、これにしよう」


さらに取り出されたものは、比較的ぴったりのサイズの紺色のズボンと無地の白いシャツ。

それに、下着等もシンプルなものばかりだ。

これは……


「私の好みぴったりでなんか怖い」


「どっちにしろ文句言うじゃん」


「冗談だって、ありがとう」


「どういたしまして」


私はそれらを着て、おそらくもうここでやる事はなさそうだと思った時。


「よし!行こうか!」


とアンリテから声が掛かった。


「いつでもいいよ」


「それじゃあ、出発!」


と声が聞こえて、視界が暗転した。



「おーい。 大丈夫?」


誰かの声が聞こえる。

はっとして目を広げると、周りは鬱蒼とした森に囲まれていて、昼か夜かも判然としない。

そんな中、アンリテが私の顔を覗いていた。


「あれ? ここは?」


「ここは、街の外の草原の奥の森だね」


「なんでそんな遠いところに」


「人が居るところにいきなり現れるわけにはいかないでしょ」


「それはそうだけど……。というか、なんでいるの?」


「ひどい! 私も一緒に来たかったんだもん」


だもんって……。

子供じゃあるまいし。

それはそうと、地上に来れるなら自分で世界救えばいいのでは?


「ちなみに私が直接干渉して世界を救うことは駄目だから。 そういうルールなの」


そんな怪訝な表情が顔に出ていたのか先回りされた。


「私の存在はいいの?」


「そこは例外」


そのルールブック緩すぎませんか?

と、突っ込んでも何かが変わるわけでもなし。

今私がどんなことが出来て、出来ないのかすら分かっていないんだ。

まずは私にできることから、確かめていこう。

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