超短篇

板里奇足

第1話 変容、あるいは再生

腕時計の針が動いていない。故障か電池切れか、止まってしまった。


かわいそうに。

どうしてだかそんな気持ちになって腕時計に包帯を巻く。わたしに出来る手当てって、これくらい。ぐるぐる、ぐるぐる包帯を巻いた。こんなことをしたって故障も電池切れもどうしようもないことは分かっているけれど、包帯を巻くほどに気持ちばかりがどんどん膨らんでいく。早く治って。


ぐるぐる巻いているうちに腕時計は繭のよう。大きさからいえば繭っていうより卵かしら。生命を包み込んでる、白く大きな楕円形。


卵になった腕時計は今もそのままにしてある。


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