恋の短編集

山崎藍

ボクノ あいするひと

彼女とは付き合って3年になる。

1年経った時に同棲を決めた。


「ただいまー」


リビングに続く廊下は冷たくて、自分の声が耳に響いてくる。



彼女は話すのが得意じゃない。だから毎日僕から話しかける。


「ご飯ありがとね。洗濯物全部しなくても良かったのに、ありがとう」

「…」


彼女は静かに頷くだけ。


「お風呂入った?久しぶりに一緒に入ろうか」

「…」

「照れなくても、そんな顔されると困るよ」

「…」


彼女の戸惑ってる顔は好きだ。少し赤くなった頬が愛らしい。


「今日も美味しいよ。いつも僕の好きな物を作ってくれるね、嬉しいよ」

「…」

「明日は仕事が早く終わるから、僕が作るね。食べたいもの決めておいてね」

「…」

「先に入る?」


彼女が先に風呂に入る。

髪が長い彼女はそれなりに時間がかかる。


彼女が風呂から上がったら僕がいつも髪を乾かす。1日の中で2番目に好きな時間。


「毛先整えようか、色が抜けてきてる」

「…」


髪を乾かす間の彼女は心地いいのか頭を軽くしてこちらに預けてくれる。


「先に寝ててもいいからね」


彼女を寝室に送ってから風呂に入る。

風呂から上がると彼女はベッドで待っていた。


白い肌に赤のランジェリーが映える。


「初めて見る色だね。気に入ったの?」

「…」

「可愛いよ」


彼女に触れると自分の体温が伝わって暖かくなる。

柔らかい、自分とは違う感触。

部屋の冷房のせいか、彼女の肌はいつも冷たい。


「そろそろ寒くなるから、送風くらいにしないとね」

「…」



僕の手に彼女の手が重なったら1番好きな時間が始まる。



彼女はベッドの上でも声を上げない。


枕で顔を隠してしまう、それを取り上げて驚いた様子の彼女に唇を重ねるのが好きだ。


彼女の一つ一つの表情がこの世で1番美しい。


部屋にはベッドの軋む音と肌が交わる音が響く。


初めての時のことはよく覚えてる。

彼女は頬を赤らめて、待っていた。

今日みたいにベッドの上で。


「好きだよ」


毎日が初めてかのように、可愛らしく迎え入れてくれる。


僕が何度彼女に愛を伝えても答える余裕のない彼女は頷くだけ。


「ずっと好きだよ」


頬を撫でても、髪に触れても、首に顔を埋めても、深く触れても

彼女は声を上げない。


でも、今日も彼女は僕を受け止めてくれる。

この瞬間、最大級の愛を感じる。



「愛してるよ、僕のラブドール愛する人




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