第39話 不死川優香の後悔 上

※ここから3話位はサイドストーリーに入ります!※


これは2年程前の私のお話。

冒険者となってがむしゃらに頑張っていた私は”無能と呼ばれた”一番大切な存在を失う事となった。


「う、そ…」


テレビの映像を見て思わず買い物袋を床へ落とした。

それは実家を出て、一人暮らしを始めてからちょうど一年目の事であった。


ピピピピ! ピピピ!!

鳴り響く携帯端末―――ディスプレイ上には”母”と表示されていた。

恐らく”この事”についてお母さんから連絡があったのだろう、けれど私はそれを取るのが怖くて仕方なかった。


私には幼少から一緒だった”兄”が居る、いつもいつも優しいお兄ちゃんだ。

いつまでもいつまでも優しいお兄ちゃん、16歳を迎え大切な人とお別れしたお兄ちゃん―――周りからは蔑まれ、学園は追い出され――それでも変わらないお兄ちゃんに私は腹を立てて家を出る事となった。


違う、逃げたんだ。


お父さんもお母さんも私も、皆優秀だったせいか裏では何度何度も陰口を叩かれた。

この世界で唯一の”無能” そんな人間は存在しない――神から授かりものが無いなんて残念な男だ。


いっぱい、いっぱい陰口を叩かれた―――

そしてある時、私は自分のスキルが評価されナンバーワンギルド”ブレイブ”へ加入する事半年―――あれからお兄ちゃんとは一言も言葉を交わしてない。

最後に言葉を交わしたのはいつだっただろうか――そうだ、ちょっと寂しそうにしてたからノベルゲームの『ダークエルフのシオンさん』というゲームをあげたら、数日後馬鹿みたいに喜んでたっけ。


あの時のお兄ちゃんは楽しそうだったな―――ずっとニコニコ笑ってて―――

今でもお兄ちゃんのあの時の笑顔を思い出すと胸が締め付けられる気分になる。


違う、違うの…本当は怖った―――怖くて―――





――――――――――――――――――――――――――――――

翌日の事。


「お兄ちゃんが変だった?」

「あぁ。 ここ数ヶ月だろうか、妙に外を気にしだしてな―――いっつも動画ばっかり見てゴロゴロしていた筈なんだが…まるで何かに取りつかれたように…」

「あ、相変わらず鋼メンタルだね…お兄ちゃん」

「えぇそうね…」


実家へ戻った私は思いのほか冷静だった。

ううん、違うね…お父さんお母さんも同じ様な反応を見せていた。


「で? どういう事…危険度最大のダンジョン発生に巻き込まれたって?」

「あぁ…というか、なんだその恰好は? 優香?」


お父さんは私の格好を見るなり不服そうな顔で何かを訪ねる。


「え? これ? ”普通の服”でしょ?」


私の来ている服はどこにでもあるような可愛いワンピースだ。

もしかしてにあってないとか?


「あぁ、違うわ優香。 お父さんが言いたいのは、あなた”ギルド”はどうしたのって事?」

「そ、そうだ。 ”ダンジョン突入用の正装”で来いと言った筈なんだが…」

「あぁ、そういうこと? 私さ、ギルド辞めちゃった」

「「は?」」


自分自身でもびっくりしている。

あのニュースを見た私は気付けばギルドに足を運ぶと”ギルドマスター”へ向け除名のお願いをしていたのだった。

何度も何度も以前の仲間たちにも止められたが、私の意志は変わらない――きっとこれはお兄ちゃんから逃げた私に下った罰なんだろう。


「じゃあ聞くけど。 お父さん、お母さんは確か有名な”裏ギルド”のTOPでしたよね!? その恰好はなに!?」


同じく私服のお父さんとお母さんを見て私も思わずツッコミを入れた。


「いや…その…なんていうか」

「これから、あのダンジョンに行くんでしょ?」

「えぇ、そうよ…」

「私服で?」

「……わ、悪いか?」


未開のダンジョンへの侵入は”開拓者ギルド”と呼ばれる者達の”調査”が終えるまでの侵入は”違反”とされている。

しかし、それはあくまでもギルドに所属している人間であればの話だ。

”一個人”の冒険者としてであれば、ダンジョンへの侵入が可能となっている―――だが、それは勿論違反行為であり。


無断で侵入をすれば最後、バツ付きと呼ばれるパーティー他ギルドの再加入が不可能となるペナルティを受ける。


「開拓者ギルドへ異議申し立てをしたとしても最短で1週間」

「俺の情報によれば”開拓者ギルド”は既に調査の打ち切りを計画している様だ」

「!? で、でもまだダンジョンは発生して3日―――」

「周囲の住人も家を引き払ったそうだ…解るだろう? 優香」


これまでにない緊張感が私達を襲う―――開拓者ギルドが断念したという事は既にランクでは測れない位置にあると言っても過言ではない。

それでも、それでも私達はあのダンジョンへ行く必要があった。


「それでも行く―――」

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