第29話 アンノウン

「アンノウン?」

「うん、ギルドでそう呼ばれてた。 お兄ちゃんは知らないだろうけど、私も実は一度だけあのダンジョンに侵入したことがあるの…」

「え? 優香が!?」


驚きだ…まさか優香もあのダンジョンに挑戦しようとしたっていうのか?


「うん…お兄ちゃんがあそこに巻き込まれたってきいたから…」

「そ、そうだったのか…」


何も言葉をかけてやる事が出来なかった。

だってさ、今にも泣きそうな顔をしていたから。


「けど、駄目だった。 何もできなかった…手も足も、次の階層へおりる事さえかなわなかった!!」

「……そこで見たのか?」

「うん。 これと”そっくり”な奴がそこにもいた。 魔法も効かなくて、こっちの世界の剣も効かなかったの―――ほとんどダメージはゼロに近かったとおもう」

「まじかよ…」

「うん、間違いない。 世界の冒険者達があそこを攻略しようとしたけど―――誰も、あそこのモンスターに傷さえ付けることさえ出来なかった」


確かに、”つい先ほどの”あいつもあれだけ破壊力の高い銃弾をお見舞いしたにもかかわらず、それを超える脅威の再生力で俺を苦しめた。


「まさか、あそこの連中はダメージは入ってるが…再生力で?」

「ど、どういうこと?」

『ピンポーン!! 流石はわれらが装着者ファクター様でございます!』

「「!?」」


思わず後ろから聞こえて来た声に俺と優香の二人は飛び跳ねる様に後ろを振り返った。

こいつは!? ブイ!? いつの間に!?


『奴らは、脅威の再生能力を持っています。 どこからやって来たのか、なんの生物なのか? 原因は不明ですが、いずれこの地球を脅かす脅威となるのは間違いありません。 ですから!! こう~世界と世界をがっちゃんこ! したんですね!』

「「??」」

「せ、世界と世界をがっちゃんこ? 何を言ってんだ?」

『おっと。 これはまだ知らされていない情報なんでした! 失敬!! ですが~わたくしは装着者ファクター様のしもべなので! 教えちゃいますであります! むふっ! こちらが、上位ギルドに保管されるデータをぶち抜いた資料になります!!』

「「え? ぶち抜いた?」」


ま、まさかとは思うが…この世界の全ギルドのデータが保存されたザーバーにアクセスしたとか…


『いや~! 変に情報化された世界ですから、何分そっちの警備はザルでザルで! 猿でも侵入出来ちゃうよ!? って感じでしたね~! なので! こちらをどうぞ!! その名も『地球は異世界と繋がっている』』

「おい、どういうことだ!?」


俺は目の前に表示されたデータの資料をざっと眺めていく。

するとそこにはこう記されていた。


「地球はレッドレインの出現から1年後―――異世界”エデンイースラ”とゲートを通じて繋がっている事を確認。 それから数年の異世界人投入実験の末―――何万という数の異世界人をこの地球上へ放つ事を成功した―――それから数年後――――アンノウンの出現を確認。 あの魔女の言葉は何偽りが無かった――――――だが―予想―――駄目だ。 ここから途切れて読めない」

『恐らく。 この地球の人間達も詳しくは聞かれてないんでしょうね~わたくしも全体に目を通しましたけど。 異世界人とやらと接触する必要がありそうであります』

「ちょ、ちょっとまって? こ、これってギルドの秘密事項でしょ!? こ、これを見たなんてばれたら!?」

『安心してください。 100%バレません! むっふ!! まぁ、お二方はお気になさらず~! こっちで勝手にやっておきます! ジュワッチ!!』


ブンッ。

すると奴はその場から突然と姿を消した。


「き、消えた!?」

「あぁ、消えたな…」


もう何がどうなっているのか訳が解らん。

何度も送られてきた資料に目を通してみても、断片的で何を伝えたいのか全く見当もつかない。

一つ確実な事があるとすれば、この世界には”地球”と異なる存在が数万と普通の人間達の様に暮らしている―――と言う事くらいだろうか。


「はぁ…今日は寝るか。 優香?」

「う、うん…わ、私も今日の事は聞かなかった事に、する…」


それから部屋を後にした優香を見て、俺はベッドに寝転がる。

おまけにブイってやつはZよりも感情豊かな事もあってか、なんともやりづらい。

接しやすくはあるんだろうが、いかんせん信用が出来ないというのもあ―――


『え~!! ひど~い!! 装着者ファクター様ぁ~!! わたくし泣いちゃう!! しくしく!!』

「!? おま!?」


噂をすれば何とやら―――気付けばいつの間にか俺の枕元で涙を流すような仕草を見せるブイがそこには居た。


「急にでてくんなよ…」

『わたくしが信用出来ない事は重々承知しております! けど、けど~! 装着者ファクター様はご主人様っていうか~わたくしの生涯の友っていうか~もう兄妹みたいなものっていうか~? 妹っていうか~?』

「……やっぱり信用出来ん」

『なんでぇ~!! これだけプリチーな見た目なのにぃ!? 超絶可愛いデザインなのに!? ビームだってステルスだって! 次元転送だって使えるのにぃ!!』


等と意味不明な言葉をつらつら並べるブイ。


「なんだそれ…俺よりなんでも出来るじゃないか」

『え? 出来ないですよ~? だってわたくしはお姉さまや装着者ファクター様の様にモンスターとは戦えないですもん』


聞き間違いだろうか?

”モンスターとは戦えない”と聞こえたような気がするが。


『わたくしがボコボコに出来るのは人間とか異世界人ですよぉ~! ビシッ!ビシッ! なので~装着者ファクター様は安心してダンジョンを攻略し! 次なるアーマーを手にしてくださいでありま~す! じゃ、そういうことで。 お母さまと一緒に眠ります!』


とだけ言うと再びその場から姿を消した。


「意味不明な奴だ…」 

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