メディエーター ~悪魔との調停~

@mikami_h

悪魔は裏切らない

◆◆◆


かつて世界を混沌とさせた悪魔たちがいた、彼らは人に知を与えては欲を貪り、力を与えては命を刈り取った。

時の王は闇をもたらす悪魔たちをみすごしたはおれず、真鍮の器に封じ人の世から遠ざけた。

しかし、一度闇に触れた人々の心は元には戻らず、そこには魔が残っていた。

王は、人々を律するために法を作り自由を奪う、人々は抜け道を見つけては度々法を犯す。

人々の心は抑えることが敵わず、いつしか一部の人々が、王の封じた72の悪魔を解き放ち、契約の名のもとにその力を得る。


世界は再び闇と光が交差した。


王は人の未来を憂いで一人残った悪魔に懇願する、「人を導いて欲しい」と


◆◆◆


宮脇法律事務所、所長の宮脇みやわき つとむは最近テレビでも取り上げられている熱血弁護士だ。弱きを助け強きをくじくそのスタイルは視聴者の受けもよく後々は政界進出も噂されていた。


「この度は宮脇先生の活動理念に大いに賛同するところがあり、是非一緒に働かせていただきたく思っております」


女性は細身でありながら凛と背筋を伸ばして立ち、少し緊張した面持ちである。お辞儀と共に切れいに縛られたポニーテールが揺れている。


神宮司じんぐうじ 沙那さなくん、君みたいな優秀な人が一緒に働いてくれると私としてもありがたいよ」


テレビと同じ屈託のない笑顔で宮脇は笑いかける。実際に拝見すると顔には細かい皺が刻まれ年相応に見える。沙那より少し低いくらいの体形はまん丸としていて愛嬌がありトレードマークの丸まった頭も輝いていた。

新人弁護士の沙那は昔から憧れていたヒーローが目の前にいることが未だに信じられなかった。


「はい、先生のお役に立てるよう命を賭して励んでいきます」


「ははは、それは大袈裟な。でもその意気込みは頼もしい。早速雇用契約にサインをお願いするよ。しばらくは私について色々学んでいくといい、ゆくゆくは担当の顧客を持って業務に励んでもらえればと思っている」


「はい、頑張ります。先生のように多くの人を助けれれるように頑張ります」


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「先生、俺いつまでここに居ればいいのさ」


拘置所内に男の声が響き渡る、自らの犯した罪すら認識していないかのような間の抜けた声に苛立ちを覚える。


「田沼さん、いまは検察が起訴するかどうかの審議中です。証拠を集めているようですがこのままでは嫌疑不十分で不起訴でしょう」


男性の苛立ちを宥めるように弁護士の宮脇は答える。


「もうこんなとこ一日も居たくないのよ。それで今日は若いお姉さんまで連れてどうしたの?」


田沼が宮脇の背後に立つ女性を見つめて言う。


「彼女は新人の神宮司さん、結構優秀なんですよ。これから長い付き合いになる田沼さんに紹介しようと」


「それならもっと綺麗な恰好してくるんだったな」


田沼は気楽にも笑って答える。しばらし二人は話し込んだ後、宮脇と神宮司は拘置所を後にした。


「なんだか緊張感のない人でしたね」


沙那は肌が合わないのか憮然とした表情で宮脇に伝える。


「それでも田沼議員の息子さんだ無下には出来ないさ」


宮脇も釈然としないながらも割り切って仕事に打ち込んでいる。

宮脇と一緒に仕事をするようになって沙那は現実を直視することが多くなった。実務において弁護士は必ずしも正義の味方ではないのだ。

我々の価値観は依頼人によって左右されていた。沙那はその場合によっては黒も白にしなけばいけない状況にやり切れない気持ちを抱えていた。

そして、宮脇もそんな沙那の悩みを見抜いていた。


「神宮寺くん、感情に流されてはダメだよ」


「先生わかっています、客観的事実にのみ着目し依頼人に最善なる選択を心がけます」


「うん、それでいい」


宮脇は優しく笑いかけるも彼女の本質をじっくりと見定めていた。

二人は事務所に戻ると一息つく間もなく一報が飛び込んでくる。


「先生、事件当時のSNSを調べていたんですが犯行時刻近隣での投稿が見つかりました」


宮脇から依頼されて調べていた事務員が返ってきた二人に告げる。


「よくやった、投稿者の身元は?」


「調べてあります。こちらです」


宮脇は連絡先を受け取ると傍らにいる沙那に語り掛ける。


「神宮寺くん、帰ってきたばかりだがまた出かけるよ」


「はい先生、わかりました」


沙那は宮脇の行動を予測して急ぎ踵を返す。二人はそのまま事務所を後にして投稿者の元へ向かうのだった。

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